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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(19)

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 隊長はそう言ったが、それは困難な注文であった。
 明らかに、小さなドラゴンは兵士に向かって追尾しながら落ちてきていた。

「う……うあああっ!」
「ぐあぁぁっ!」
「俺のほうに?! 誰か、ぎゃあぁ!」

 そこら中で炸裂音と悲鳴が響き渡る。
 その数と頻度は徐々に増していた。
 なぜなら、上空で人ならざるもの同士の戦いが繰り広げられ始めたからだ。
 鷲と鷹の精霊が次々と突撃。腹に抱えた赤い卵を爆発させていた。
 投擲された「てつはう」の炸裂音もその爆発の中に混じる。
 さらにサイラス達が作ったドラゴン達も首を伸ばし、上に向かってブレスを噴き出していた。
 その口から吐き出されているのは攻撃的な虫の群れ。
 小さなドラゴンに群がり、その身をかじる。
 群がられた怪物はまさしく虫食いのように穴だらけになり、次々と墜落していった。
 十体のドラゴンが首を振り乱し、噴水のようなブレスで敵をなぎ払う。
 空が薄赤く見えるほどの爆発の連鎖の中、ドラゴンのブレスが縦横無尽に走る。
 そこにさらに、新たな砲撃の音が加わった。
 大型大砲のものでは無い。それは、

「命中! 次弾装填します!」

 通常大砲のぶどう弾による対空砲撃であった。
 次々と放たれる大粒の散弾が怪物を撃ち砕いていく。
 凄まじい対空攻撃の嵐。
 であったが、敵の数は多く、この嵐をくぐり抜ける怪物達がいた。

「突破された!」
「こっちに来るぞ!」

 十数体の怪物がある大型大砲に迫る。
 これに対し、ぶどう弾と護衛の銃兵達が迎え撃ったが、全てを撃ち落とすことは出来なかった。
 最後の迎撃を突破した五体が、大型大砲に向かって急降下の体当たりをぶちかます。

「っ!!」

 凄まじい閃光と炸裂音に大型大砲が包まれ、砲手の視界が白に染まる。
 間も無く視界が回復。
 どうなった? そんな思いと共に目を見開く。
 そしてそれを見た砲手は声を上げた。

「くそ、やられた! 五号機、砲身に亀裂! 攻撃不能!」

 その声が合図になったかのように、戦況は変化した。

「左右から大きく回り込んで来るぞ!」

 最前線から声が上がる。
 見ると、正面から飛んできていた怪物達は二手にわかれ、対空射撃の範囲内に入らないように迂回し始めていた。
 即座にルイスが声を上げる。

「陣形を変更! 右と左の両翼は方向転換しつつ、大砲の盾になれる位置に移動しろ!」

 その声に、左右の六頭のドラゴンと部隊が動き始める。
 直後に状況はさらに変化した。

「敵が街から出てきたぞ!」
「正面から突っ込んできます!」

 その構成は、大盾持ちと銃を持った狂人達、そして五体のドラゴンであった。
 前列に配置されているフレディはその突撃部隊の規模を見て察した。長年の戦いの経験で予想できた。
 だからフレディは後ろに振り返りながら声を上げた。

「接近戦になるぞ! やれるな? ナンティ!」

 その声に、ナンティは力強い頷きと心の声を返した。
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