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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(17)

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   ◆◆◆

 翌日、シャロン達は出陣した。

「「「……」」」

 報告で聞いていたが、それでも目の前に広がるその光景に兵士達は絶句した。
 港町は既に要塞化されていた。
 屋根には射撃台が設置されており、銃兵達が上にずらりと並んでいた。
 これまでの戦いでは見られなかった大砲も数多く配置されている。
 奪われたものでは無い。狂人達は作ったのだ。
 だが、兵士達が絶句した理由はそれでは無かった。

「……すげえな、こりゃあ」
「もう何を見ても驚かないと思っていたが、これは……」

 兵士の一人が思わず声を漏らす。
 そう言ってしまうのも無理は無い光景であった。
 十を超える数のドラゴンが見える。
 感知能力者で無くとも、その姿は見えていた。
 なぜなら、光っているからだ。
 既にその巨体には光魔法の魔力が充填されていた。
 そして上には同じ数の雲が。
 雷雲のように光っており、伸び降ろされた手がドラゴンと繋がっている。
 そしてドラゴンの体から生えている触手は周辺の狂人達と繋がっていた。
 光るクモの巣のように見えるほどに張り巡らされている。
 そしてそれだけでは無かった。
 ドラゴンと雲の間にそれはいた。
 それは小さなドラゴンのように見えた。
 ドラゴンらしく飛んでいる。いや、泳いでいるように見えた。
 体をくねらせながら飛行している。まるで魚のように。
 羽の形状も違う。
 下にいるドラゴンが有する攻撃補助のための羽とは違う。明らかに飛行のためのもの。空を切り、風に乗るための形。
 だから兵士の一人は思った。
 アレに似ている、と。
 海面から飛び出して滑空する「トビウオ」と呼ばれている魚に似ている、兵士はそう思った。
 光る体を揺らしながら群れをなして空を飛び回るその光景は幻想的にすら見えた。
 ゆえに、

「まるで違う世界に来ちゃったみたい……」

 ベアトリスは思わずそう漏らした。
 その言葉と、目の前に広がっているその圧倒的光景に、アルフレッドは思った。

(かつての神話の戦いもこんな……こんな想像もつかないような規模の戦いだったのか……)

 これにアリスが答えた。

(昔と今では違うわ。今は人間の脳が発達したおかげで展開しやすくなったから)

 どういうことなんだ? アルフレッドが尋ねるとアリスは答えた。

(大昔の人間は虫の生産力が貧弱だったのよ。魂の構造と部品にもほとんど差が無かった。だから簡単に乗っ取られてしまっていたの)

 そういうことなのか、と、アルフレッドが納得を示すと、アリスは言葉を付け加えた。

(でも……強くなった人間達が乗っ取られたらどうなるか、その答えの一つがこれというわけね)

 乗っ取るのが難しくなっただけで、できないわけでは無いのだ。
 必要な部品が細分化したが、事前に調べておけば何も問題は無い。
 そして準備さえ整えばこんな地獄が生み出される。
 その事実と目の前の現実に、

(……)

 アルフレッドは心が痛むのを感じた。
 どうしてこの世界はこんな風になってしまうのか、こんな風にできているのか。
 もしも創造神なんてものが本当にいるのなら、なぜその者はこんな風に設計したのか。この未来が予想できなかったのか。
 そんなルイスと同じような感情をアルフレッドは抱いた。
 しかしその感傷の時間はわずか。
 アルフレッドはすぐに気を持ち直した。
 たとえ真実が何であったとしても、今の自分に世界を変える力など無い。
 今の自分にできるのは目の前の地獄に立ち向かうことだけ。
 そんな思いとともにアルフレッドが覚悟を固めると、場にルイスの声が大きく響いた。

「それではこれより、シエルダ制圧作戦を開始する!」
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