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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十九話 黄金の林檎(15)
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サイラスは進軍しながら狂人の調査も進めていった。
捕獲が容易になったことで、調査は順調に進んでいた。
(これは……なるほど、そういうことか)
そしてサイラスは一つの答えを得ていた。
なぜ、敵はこれほどの速度の展開力を発揮できたのか。
ずっと疑問だったその答えの一つを、サイラスは捕らえた狂人の記憶情報の中から発見していた。
(人間の魂は脳内のある部位から産み出されているが、その魂を構成する部品は人によって差がある。その部品の加工能力の性能も人それぞれだ。ゆえに、加工能力の高い人間が選別された専用の部隊があるものだと思っていたが……)
その予想は外れていた。
(そうでは無かった。専用の部隊など存在しない。こいつらは単純に協力して乗っ取りを行っている)
その点においては、サイラスの使役する死神と同じであった。
一つの死神を万能な性能にしようとすると、どうしても大きくなってしまい、生産にかかるコストが膨大なものになってしまう。
だから機能を分割し、それぞれに違う役割を持たせているのだ。
(常に複数で行動しているのはそのため。互いに足りない部品を出し合っているというわけだ)
心の中で言葉にしながら、サイラスは少し落胆していた。
自分の力となるような新しい技術が隠されていないかと期待していたからだ。
ゆえに直後に見つかった情報にも意外性は無かった。
(産み出せる部品の一覧を示す目録がそれぞれの脳内に保存されているのもそのためか。生み出せる部品がかぶらないように部隊が組まれているのだろう)
意外性は無かったが、よく管理されているなとサイラスは感心した。
そしてそれだけでは無かった。
(街に住んでいる人々の情報もあるな……各住所に住んでいる人間の脳を乗っ取るにはどの部品が必要か、その情報がびっしりと網羅されている)
侵攻開始前にかなりの調査がされていたことがわかる情報であった。
だが、これでは対応出来ないものがある。
『遠くからきた部品の違うよそ者』は上手く乗っ取れない可能性がある。
(ああ、そうか、だから――)
先の戦いではこちらの兵士が乗っ取られることがほとんど無かったのだ。
材料さえ用意できれば敵の死体を動かして戦わせられるはず。しかしあの戦いではそれがあまり無かった。
サイラスは納得しながら次の情報に目を通した。
すると、
(ん? これは……)
サイラスの意識はその情報に強く惹かれた。
ぱっと見は兵站線を記した地図のようであった。
が、その経路は明らかにありえない軌跡を描いていた。
障害物を貫通する経路を取っている。
空でも飛んでいなければこんな経路は――そう思った直後、
「!」
報告にあった雲のような怪物とその地図が結びついた。
(そうか、これは魂の補給線か!)
やつらは後方からの補給を常に受けていたのだ。だからあれほどの展開力を発揮できたのだ。
雲のような化け物は侵攻だけで無く、補給や魂の輸送の役目も担っていたのだ。
(ということは、港に人間達が集められているのは――)
その先は言葉にするまでも無かった。
間違い無く、そこが補給の要所。
加工能力の高い者や、生産能力の高い人間が集められているはずだ。
雲のような化け物もそこで生産されているかもしれない。
地図のおかげで雲の巡回経路も把握できた。迎撃の準備も可能になる。
ならば目指すべきは港。そこが重要制圧目標。
(これでようやく――)
敵の戦い方がわかったことで、ようやく後手ではない戦術が組める。
雲に対しては待ち伏せも可能だろう。
これで戦術的優位が取れる可能性がでてきた、サイラスは一瞬そう思ったが、
「……」
そう思うのはまだ早いと、気持ちを改めた。
まだ、疑問は完全には明らかになっていないからだ。
住人を念入りに調査し、対応した戦術が事前に組まれていたとしても、この展開力は速すぎる。
自分が知らない何かがまだある、サイラスはそう思った。
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