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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十九話 黄金の林檎(14)
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フレディのそばにはナンティの姿があった。
ナンティは術後のフレディの世話を行っていた。
手術の跡、フレディは高熱を発し、丸一日眠っていた。
その熱が引き、体調が良くなり始めたある日、フレディとナンティは同じテントで雑談する機会を得た。
最初は腕の痛くないのかとか、義手はどんな感じになる予定なのかなど、当たり障りの無い会話であった。
が、フレディが速く義手をつけて戦場に立ちたいとやる気を見せた直後、ナンティの雰囲気が変わった。
なにか気に障ることを言ったか? まったく見当がつかなかったゆえにフレディは「どうした?」と聞こうとしたが、ナンティが先に口を開いた。
「お前は本当に強くなったな。あの戦いで右腕を失ったというのに……まだ立ち向かおうとしている」
何の話だ? フレディは本当に分からなかったゆえに、危うくナンティの心を覗きそうになってしまった。
ナンティは視線をフレディから少し外しながら再び口を開いた。
「私は……怖くてたまらない」
それはあまりに意外な言葉だった。
だからフレディはそれを声に出した。
「あんなに勇敢に戦っていたじゃないか。突然どうした?」
何かあったのか? その疑問にナンティは答えた。
「あの時は必死だっただけだ。それに……」
ナンティは気持ちを整理し、適切な言葉を選んでから言葉を続けた。
「私の勇気はただの虚勢だったんだ。それを先の戦いで私は思い知らされた」
そんなこと無い、フレディはそう言おうとしたが、ナンティはそれをさせなかった。
「……私は男として振舞えるように育てられた。だから自分を強く見せるように振舞っていた。私はそれを本物の勇気だと勘違いしていただけなんだ」
フレディは否定したくなったが、言いたいことを全部言わせたほうがいいと思い、口を閉じた。
ナンティはゆっくりと語り始めた。
「……激戦の中ではそんな虚勢などに価値は無いことを、あの戦いで痛感させられた」
ナンティはそう言ったあと、フレディのほうに視線を向け直してから口を開いた。
「私が戦えていたのは他の者達が勇気をわけてくれていたからだ。あの隊長や、お前が私をひっぱってくれたからなんだ」
「俺が? それは買いかぶりすぎだと思うが」
過大評価だと言うフレディに対し、ナンティは首を振りながら口を開いた。
「お前がいたから私は最後まで戦えたんだ。自覚が無いんだろうから言うけど、お前はあの戦いで本当にすごいことをやったんだぞ?」
「……」
フレディには返す言葉が思いつかなかった。
だからフレディは失礼と思いながら、ナンティの心の中を虫で探った。
そして、間も無く虫から返ってきた報告の内容は予想通りのものであった。
ゆえにフレディは口を開いた。
「……お前が俺と比べるのは違うと思う」
「……?」
どういうこと? ナンティがそんな疑問の眼差しを向けると、フレディは答えた。
「俺とお前じゃ背負ってるものが違うんだ。お前は部族の皆のために、村の仲間達の未来のために戦ってる。だけど俺は違う。俺にはそういうのは無い。俺は一人だから無茶なことも出来るんだ」
それは少し違う気がする、そう思ったナンティは言い返そうとしたが、言葉は浮かんでこなかった。
それを感じ取ったフレディは続けて口を開いた。
「それにな、怖いのなんて当たり前だと思うぞ。俺達はサイラス様やシャロン様のように強くないんだからな。怖くて当たり前だ」
そう言ったあと、フレディは荷物の上にある銃のほうに視線を向け、再び口を開いた。
「怖くても戦いようはある。怖いんなら近づかなきゃいいんだよ。そのための銃なんだ。あれのおかげで無能力者の俺達でも魔王を倒せたんだからな」
そう言いながら、フレディは良いセリフを思いついた。
それは本当に悪くない案であるように思えた。
だからフレディはそれを声に出した。
「その銃で援護してくれればいい。俺が前に出るから、お前は後ろから俺を守ってくれ」
かっこつけるために言っているわけでは無い、それがフレディの心から伝わってきた。
ゆえにそれはナンティにとって本当に気持ちの良いセリフであった。
そして気づけば、ナンティの心から恐怖は消えていた。
だからナンティは感謝の気持ちと共に口を開いた。
「わかった。任せて」
気づけば、その口調からは虚飾である男らしさが少し抜けていた。
その声から信頼がフレディの心に伝わってきた
だからフレディのその信頼に応えた。
「ああ、頼んだぞ。俺が壁になる。誰もお前に近づけさせはしない」
フレディは真剣であったが、それは少し歯が浮いてしまいそうなセリフであった。
だからナンティは思わず笑顔になった。
その笑顔につられてフレディも笑顔に。
そして二人は気持ちよく笑い合った。
二人はそのまま長く話しこんだ。
二人の間には大きな何かが生まれ始めていた。
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