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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(37)
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その破壊の跡から、雹に混じって火の粉が降る。
すさまじい、アルフレッド達の心にはその言葉しか無かった。
が、デュランだけは違った。彼の心に浮かんだ言葉は破壊力に対しての感想では無かった。
デュランの意識は先ほどの巻き線による、電撃魔法による加速技術に執着していた。
魔法の球に重さはほとんど無い。球自体を加速させても威力への恩恵は薄い。
なのにキーラがわざわざ加速させた理由は射程を伸ばすためだ。空気抵抗による減速の影響を突破し、爆発魔法を雲に直撃させるためだ。
だが、もしも今の技術を重量物に適用したら? そのまま大砲に適用したらどうなる?
「……」
その破壊力はデュランには想像できなかった。
だが、ある思いはより強くなっていた。
やはり人はいつか神を超えるのではないかという思いだ。
人の力に限界など無い、そう思うようになっていた。
いつか人は森羅万象すべてを自由に扱い、支配する時が来るのでは無いか。
そんな遠い想像がデュランの心に浮かび始めた直後、
「まだ終わってないか。しぶといわね」
まだ生きている、それを感じ取ったキーラは次の球を手の平から産み出した。
既に先の射撃による砲身への損傷はほとんど回復していた。
キーラはその修復が完全に終わるのを待ってから、次の球に火をつけた。
爆音と共に球が発射され、轟音と共に天に穴が開く。
修復の間をおきながらさらに二発目、三発目。
ダメ押しに四発目。
そして念のための五発目が直撃する頃には、雲はその原型をとどめてはいなかった。
バラバラになりながら崩れ落ちていく。
降り散るその断片は雹と呼べる大きさでは無く、まるで綿菓子のような大きさであった。
活動も再生の気配も無い。
今度こそ――そんな意識がアルフレッド達に浮かび始めた瞬間、あの男の声が心に響いた。
「標的の完全な沈黙を確認した。よくやった」
だが、彼らの仕事はまだ終わっていないようであった。
「我らはこれより地上の連中の掃討に移る」
その言葉を聞いて、アルフレッドはふと思った。
異国の戦士である彼らがどうしてこの戦いに参戦してくれたのだろうか、と。
アルフレッドがそんな疑問を抱いた直後、男の声が再び響いた。
「そうだ、一つ頼み事を聞いてもらえるかな?」
アルフレッドが「自分にできることなら」と返すと、男は言った。
「ルイスに『雲水という男が会いたがっている』と伝えてくれ」
その頼みにアルフレッドは返事を返そうとしたが、その前にキーラの声が割り込んだ。
「その掃討戦の話、私も参加させてもらえるかしら? こっちは敵の兵糧を奪いにいくつもりだったから、お互いに協力できると思うんだけど、どうかしら?」
「……」
雲水という男は即答しなかった。
その理由をアルフレッドは感じ取った。
雲水と名乗った男から、ぴりぴりとした気配が放たれているのを。
雲水だけからじゃない。他の異国の戦士達からも似たような感覚が放たれ始めていた。
まさか、双方はかつて敵対関係にあったのか?
アルフレッドがその正解にたどり着いた直後、雲水はようやく心の声を響かせた。
「……いいだろう。だが、この戦いだけだ」
ぴりぴりとしたままのその返事に対し、キーラは対照的に穏やかな声を響かせた。
「それでいいわ。助かる」
戦力から考えれば、助かるのは異国の戦士達のほうだろうが、キーラは謙虚にそう答えた。
そして、キーラはアルフレッドのほうに視線を向けながら口を開いた。
「あなたはどうするの? アルフレッド」
私と一緒にこない? その言葉はそう誘っているように思えた。
しかしアルフレッドはその誘いには乗るわけにはいかなかった。
「味方の撤退を援護します」
その言葉にキーラは少し残念そうに口を開いた。
「そう。ならしょうがないわね」
「あの……」
「ん? なに?」
アルフレッドは思わず口を開いてしまった。
ここに向かう直前、ルイスは言った。
キーラはこちらに都合よく動いてくれるように私が調整しなおしておいた、と。
だからこの戦場にもくるかもしれないと思った。そして会えた。
言ってあげるべきだろうか?
アルフレッドは迷った。
直後、その迷いに対してベアトリスが口を開いた
「アルフレッド」
それはやめておいたほうがいい、という思いを含んだ呼び声。
その声にアルフレッドは「はっ」となった。
もしも言えば自分だけでは無く、ベアトリスにまで害が及ぶ可能性があることにアルフレッドは気づいた。
ルイスがあんなことを直前に言ったのは警告の意味が含まれているはず。
ならば、監視がついている可能性がある。一時の情に流されてうかつなことを言うべきでは無い。
そのことに気づいたアルフレッドは、
「すいません、なんでもないです」
唐突に話を終わらせ、持ち前の技で心を閉ざした。
その終わらせ方と心を隠したことで、キーラはなんとなく察しがついた。
ゆえにキーラはアルフレッドの意思を尊重し、
「そう。何を言おうとしたのかは知らないけど、そのほうがいいと思うわ」
少し矛盾した言葉を返した。
そしてキーラはアルフレッドから視線を外し、背を向けながら言った。
「さあ、仲間のところに行ってあげなさい。撤退を援護してあげるんでしょう? そっちはそっちでがんばってね」
「はい。キーラさんもお気をつけて」
アルフレッドはそう言葉を返した直後に、勢いよく屋根を蹴ってその場から離れた。
ベアトリスとデュランもすぐにアルフレッドのあとに続く。
そして三人の気配が遠くに離れたのを感じ取ったキーラは、前方にいる凶人達の気配に向かってつぶやくように口を開いた。
「私の軍を真似て作ったようだけど……私の仲間達はこんな狂った獣の群れでは断じて無かった」
それはキーラにとって屈辱にも等しい存在であった。
ゆえに、キーラははっきりとした怒りを声ににじませながら言った。
「私が直々にしつけてあげる。一人も逃さないわよ」
すさまじい、アルフレッド達の心にはその言葉しか無かった。
が、デュランだけは違った。彼の心に浮かんだ言葉は破壊力に対しての感想では無かった。
デュランの意識は先ほどの巻き線による、電撃魔法による加速技術に執着していた。
魔法の球に重さはほとんど無い。球自体を加速させても威力への恩恵は薄い。
なのにキーラがわざわざ加速させた理由は射程を伸ばすためだ。空気抵抗による減速の影響を突破し、爆発魔法を雲に直撃させるためだ。
だが、もしも今の技術を重量物に適用したら? そのまま大砲に適用したらどうなる?
「……」
その破壊力はデュランには想像できなかった。
だが、ある思いはより強くなっていた。
やはり人はいつか神を超えるのではないかという思いだ。
人の力に限界など無い、そう思うようになっていた。
いつか人は森羅万象すべてを自由に扱い、支配する時が来るのでは無いか。
そんな遠い想像がデュランの心に浮かび始めた直後、
「まだ終わってないか。しぶといわね」
まだ生きている、それを感じ取ったキーラは次の球を手の平から産み出した。
既に先の射撃による砲身への損傷はほとんど回復していた。
キーラはその修復が完全に終わるのを待ってから、次の球に火をつけた。
爆音と共に球が発射され、轟音と共に天に穴が開く。
修復の間をおきながらさらに二発目、三発目。
ダメ押しに四発目。
そして念のための五発目が直撃する頃には、雲はその原型をとどめてはいなかった。
バラバラになりながら崩れ落ちていく。
降り散るその断片は雹と呼べる大きさでは無く、まるで綿菓子のような大きさであった。
活動も再生の気配も無い。
今度こそ――そんな意識がアルフレッド達に浮かび始めた瞬間、あの男の声が心に響いた。
「標的の完全な沈黙を確認した。よくやった」
だが、彼らの仕事はまだ終わっていないようであった。
「我らはこれより地上の連中の掃討に移る」
その言葉を聞いて、アルフレッドはふと思った。
異国の戦士である彼らがどうしてこの戦いに参戦してくれたのだろうか、と。
アルフレッドがそんな疑問を抱いた直後、男の声が再び響いた。
「そうだ、一つ頼み事を聞いてもらえるかな?」
アルフレッドが「自分にできることなら」と返すと、男は言った。
「ルイスに『雲水という男が会いたがっている』と伝えてくれ」
その頼みにアルフレッドは返事を返そうとしたが、その前にキーラの声が割り込んだ。
「その掃討戦の話、私も参加させてもらえるかしら? こっちは敵の兵糧を奪いにいくつもりだったから、お互いに協力できると思うんだけど、どうかしら?」
「……」
雲水という男は即答しなかった。
その理由をアルフレッドは感じ取った。
雲水と名乗った男から、ぴりぴりとした気配が放たれているのを。
雲水だけからじゃない。他の異国の戦士達からも似たような感覚が放たれ始めていた。
まさか、双方はかつて敵対関係にあったのか?
アルフレッドがその正解にたどり着いた直後、雲水はようやく心の声を響かせた。
「……いいだろう。だが、この戦いだけだ」
ぴりぴりとしたままのその返事に対し、キーラは対照的に穏やかな声を響かせた。
「それでいいわ。助かる」
戦力から考えれば、助かるのは異国の戦士達のほうだろうが、キーラは謙虚にそう答えた。
そして、キーラはアルフレッドのほうに視線を向けながら口を開いた。
「あなたはどうするの? アルフレッド」
私と一緒にこない? その言葉はそう誘っているように思えた。
しかしアルフレッドはその誘いには乗るわけにはいかなかった。
「味方の撤退を援護します」
その言葉にキーラは少し残念そうに口を開いた。
「そう。ならしょうがないわね」
「あの……」
「ん? なに?」
アルフレッドは思わず口を開いてしまった。
ここに向かう直前、ルイスは言った。
キーラはこちらに都合よく動いてくれるように私が調整しなおしておいた、と。
だからこの戦場にもくるかもしれないと思った。そして会えた。
言ってあげるべきだろうか?
アルフレッドは迷った。
直後、その迷いに対してベアトリスが口を開いた
「アルフレッド」
それはやめておいたほうがいい、という思いを含んだ呼び声。
その声にアルフレッドは「はっ」となった。
もしも言えば自分だけでは無く、ベアトリスにまで害が及ぶ可能性があることにアルフレッドは気づいた。
ルイスがあんなことを直前に言ったのは警告の意味が含まれているはず。
ならば、監視がついている可能性がある。一時の情に流されてうかつなことを言うべきでは無い。
そのことに気づいたアルフレッドは、
「すいません、なんでもないです」
唐突に話を終わらせ、持ち前の技で心を閉ざした。
その終わらせ方と心を隠したことで、キーラはなんとなく察しがついた。
ゆえにキーラはアルフレッドの意思を尊重し、
「そう。何を言おうとしたのかは知らないけど、そのほうがいいと思うわ」
少し矛盾した言葉を返した。
そしてキーラはアルフレッドから視線を外し、背を向けながら言った。
「さあ、仲間のところに行ってあげなさい。撤退を援護してあげるんでしょう? そっちはそっちでがんばってね」
「はい。キーラさんもお気をつけて」
アルフレッドはそう言葉を返した直後に、勢いよく屋根を蹴ってその場から離れた。
ベアトリスとデュランもすぐにアルフレッドのあとに続く。
そして三人の気配が遠くに離れたのを感じ取ったキーラは、前方にいる凶人達の気配に向かってつぶやくように口を開いた。
「私の軍を真似て作ったようだけど……私の仲間達はこんな狂った獣の群れでは断じて無かった」
それはキーラにとって屈辱にも等しい存在であった。
ゆえに、キーラははっきりとした怒りを声ににじませながら言った。
「私が直々にしつけてあげる。一人も逃さないわよ」
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