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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(30)
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ゆえに、ベアトリスは興奮のままに心の声を響かせた。
(いける! これならいけるよ! アルフレッド!)
だが、アルフレッドはその興奮をとがめた。
(いいや、簡単に終わらせられるほどこいつらは甘くない! 油断しちゃダメだ!)
直後にアルフレッドの指摘は現実のことになった。
それをデュランが声に出した。
(大きく回り込んでくるぞ!)
路地から大きく身を乗り出せば射線は作れる。しかしそれは自殺行為に等しいことであった。
敵の銃兵達はいまもベアトリスを狙っていた。家屋の窓から照準を合わせていた。
建物の壁は木造。間違いなく壊せる。壁ごと撃ち抜ける。
だが今はまだ早い、それは最終手段、ベアトリスはそう思った。
建物を確保するという条件が無ければ今すぐ撃ち抜いてやるのに、ベアトリスはそんな思いにやきもきした。
そんな思いを払うように、アルフレッドの心の声が響いた。
(先制攻撃は成功だ! ベアトリスは予定していた次の射撃位置に移動してくれ! 迂回してくる連中は俺とデュランさんでなんとかする!)
直後に二人の気配はベアトリスから離れた。
だが、遠くは無い。繋がっている触手が届く範囲までだ。アルフレッドもデュランも魔力の供給という仕事があるからだ。
ゆえに、三人は互いの位置と間隔を意識しながら移動することになった。
されど、この不自由さが問題になることは無かった。
なぜなら、
(食らえ!)
ベアトリスの火力がやはり圧倒的であった。
ベアトリスの槍先に捕捉された凶人になすすべは無かった。
安全な遮蔽さえ確保できれば、視界内の敵は即座に征圧できる、それほどの火力であった。
アルフレッとデュランはベアトリスの左右と背後をカバーするように立ち回る。
先ほどアルフレッドが言ったように、移動ルートはあらかじめ決まっていた。
それは広い道路の裏道。
ベアトリスが少し槍先を道路に出すだけで広い射界が得られるからだ。
さらに、あの建物と違って壊してもいい。しかも多くが木造だ。
分厚い石壁以外の遮蔽物は破壊できる。
ゆえに、
(隠れても無駄だよ!)
ベアトリスは容赦なくぶっぱなした。
すさまじい破壊音と共に舞い上がった木屑が視界を埋め尽くす。
しかし感知は完璧。
(そこだ!)
煙の中にまぎれている凶人も即撃破。
いまこの場においてわたしは最強、ベアトリスはそう思っていたが、
(うーん……『今は』イイ感じだけど……長引くと怪しいかな?)
ベアトリスの興奮は既に冷めていた。
ベアトリスは状況を整理できていた。
問題は、『遮蔽の少ない平屋根の上に登らないといけない』ことと、『集会所の周りが開けている』ということだ。
つまり、考えなしに突っ込んだら周りから撃たれ放題であるということ。
だから周囲の敵を撃ち払って隙を作る必要がある。
だが、少々の好機ではダメだ。離脱するときの安全の確保も考えると、最低でも三十秒は欲しい。
三十秒は長い。それだけの時間を作ろうとするならば、かなり場を荒らさないと厳しい。
しかし敵はもう既に慎重になっている。
積極的に近づいてこない。
だからこちらから一気に近づいて襲撃している。
そしてほとんど遮蔽の影から出てこない。
だから先の射撃は壁ごと撃ちぬいた。
それも問題だ。
壁を壊すのだから、当然こちらが利用できる遮蔽も減ることになる。
今の自分は最強だが、それは自分が遮蔽を利用して一方的に射撃できる状況を作れるからだ。
そしてこの最強も『今だけ』の話だ。
材料が魂なのだから時間と共に消耗し、劣化していく。
定期的な交換が必要になるが、それは雪では足りない。敵を狩る必要がある。
しかし敵は積極的に近づいてこなくなった。いまは明らかに補給よりも消耗のほうが多い。
この武装は気に入ったが、この作戦を達成できるほどでは無いのではないか? そう思ったベアトリスは声を上げた。
「アルフレッド!」
どうする? このまま続けるか、それとも武装を解除して一旦仕切りなおすか。そんな問いを含んだ呼び声。
その問いに対し、
「……っ」
アルフレッドは即答できなかった。
アルフレッドにもわからなかった。
ベアトリスが危惧しているとおり、作戦を変えるべきか? そう思った。
が、直後、
「っ?!」
状況は予期せぬ形で一変した。
(いける! これならいけるよ! アルフレッド!)
だが、アルフレッドはその興奮をとがめた。
(いいや、簡単に終わらせられるほどこいつらは甘くない! 油断しちゃダメだ!)
直後にアルフレッドの指摘は現実のことになった。
それをデュランが声に出した。
(大きく回り込んでくるぞ!)
路地から大きく身を乗り出せば射線は作れる。しかしそれは自殺行為に等しいことであった。
敵の銃兵達はいまもベアトリスを狙っていた。家屋の窓から照準を合わせていた。
建物の壁は木造。間違いなく壊せる。壁ごと撃ち抜ける。
だが今はまだ早い、それは最終手段、ベアトリスはそう思った。
建物を確保するという条件が無ければ今すぐ撃ち抜いてやるのに、ベアトリスはそんな思いにやきもきした。
そんな思いを払うように、アルフレッドの心の声が響いた。
(先制攻撃は成功だ! ベアトリスは予定していた次の射撃位置に移動してくれ! 迂回してくる連中は俺とデュランさんでなんとかする!)
直後に二人の気配はベアトリスから離れた。
だが、遠くは無い。繋がっている触手が届く範囲までだ。アルフレッドもデュランも魔力の供給という仕事があるからだ。
ゆえに、三人は互いの位置と間隔を意識しながら移動することになった。
されど、この不自由さが問題になることは無かった。
なぜなら、
(食らえ!)
ベアトリスの火力がやはり圧倒的であった。
ベアトリスの槍先に捕捉された凶人になすすべは無かった。
安全な遮蔽さえ確保できれば、視界内の敵は即座に征圧できる、それほどの火力であった。
アルフレッとデュランはベアトリスの左右と背後をカバーするように立ち回る。
先ほどアルフレッドが言ったように、移動ルートはあらかじめ決まっていた。
それは広い道路の裏道。
ベアトリスが少し槍先を道路に出すだけで広い射界が得られるからだ。
さらに、あの建物と違って壊してもいい。しかも多くが木造だ。
分厚い石壁以外の遮蔽物は破壊できる。
ゆえに、
(隠れても無駄だよ!)
ベアトリスは容赦なくぶっぱなした。
すさまじい破壊音と共に舞い上がった木屑が視界を埋め尽くす。
しかし感知は完璧。
(そこだ!)
煙の中にまぎれている凶人も即撃破。
いまこの場においてわたしは最強、ベアトリスはそう思っていたが、
(うーん……『今は』イイ感じだけど……長引くと怪しいかな?)
ベアトリスの興奮は既に冷めていた。
ベアトリスは状況を整理できていた。
問題は、『遮蔽の少ない平屋根の上に登らないといけない』ことと、『集会所の周りが開けている』ということだ。
つまり、考えなしに突っ込んだら周りから撃たれ放題であるということ。
だから周囲の敵を撃ち払って隙を作る必要がある。
だが、少々の好機ではダメだ。離脱するときの安全の確保も考えると、最低でも三十秒は欲しい。
三十秒は長い。それだけの時間を作ろうとするならば、かなり場を荒らさないと厳しい。
しかし敵はもう既に慎重になっている。
積極的に近づいてこない。
だからこちらから一気に近づいて襲撃している。
そしてほとんど遮蔽の影から出てこない。
だから先の射撃は壁ごと撃ちぬいた。
それも問題だ。
壁を壊すのだから、当然こちらが利用できる遮蔽も減ることになる。
今の自分は最強だが、それは自分が遮蔽を利用して一方的に射撃できる状況を作れるからだ。
そしてこの最強も『今だけ』の話だ。
材料が魂なのだから時間と共に消耗し、劣化していく。
定期的な交換が必要になるが、それは雪では足りない。敵を狩る必要がある。
しかし敵は積極的に近づいてこなくなった。いまは明らかに補給よりも消耗のほうが多い。
この武装は気に入ったが、この作戦を達成できるほどでは無いのではないか? そう思ったベアトリスは声を上げた。
「アルフレッド!」
どうする? このまま続けるか、それとも武装を解除して一旦仕切りなおすか。そんな問いを含んだ呼び声。
その問いに対し、
「……っ」
アルフレッドは即答できなかった。
アルフレッドにもわからなかった。
ベアトリスが危惧しているとおり、作戦を変えるべきか? そう思った。
が、直後、
「っ?!」
状況は予期せぬ形で一変した。
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