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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(29)

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   ◆◆◆

 フレディからの報告を受けたアルフレッド達はすぐに移動を開始した。
 だが、道中の敵は無視しなかった。
 デュランに魂を与えるために、立ちふさがる者は可能な限り倒す。
 気勢と轟音と共に移動し、あとには赤い染みと残骸を残していく。
 それを繰り返しているうちに目的地に到着した。

「見えたぞ! あれだ!」

 狭い路地の奥にあるその物件が視界に入ったと同時に、アルフレッドは指を差した。
 その物件は集会所らしき建物であった。
 三階建てであり、大きな鐘がぶらさがっているちょっとした塔がある。
 三階以上あり、できるだけ大きな建物、それが条件の一つだった。
 そしてもう一つの条件は三角屋根では無いこと。
 その物件は平屋根であった。
 足場として申し分無い。
 だが、その安定感のある足場には銃兵がずらりと並んでいた。
 下は集会所らしく広場になっており、凶人達が陣形を組んで待ち受けている。

「どうする?」

 それを見てベアトリスは念のために聞いた。
 アルフレッドは迷うことなく答えた。

「やろう。今も探してもらってるけど、ここ以外に都合の良い物件はまだ見つかってない」

 ベアトリスが「ならやるしかないね」と答えると、今度はアルフレッドが確認してきた。

「準備はいいかい? ベアトリス」

 ベアトリスは頷きを返しながら答えた。

「やるだけやってみるよ!」

 力強く「任せて」とは答えられなかった。
 無理も無い。一発本番だからだ。
 その不安を感じ取ったアルフレッドは励ましの言葉をかけた。

「心配しなくていい。俺も援護するから。それに一回で成功させる必要は無いんだし。ダメだったら仕切りなおせばいい」

 そう励ましたあと、アルフレッドは後ろを向き、そこにいるデュランに向かって口を開いた。

「じゃあデュランさん、お願いできますか?」

   ◆◆◆

「くそ、あの物件以外には無いな」

 街全体の調査を終えたフレディはその残念な結果に対し、内心で舌打ちした。
 ならばここからはアルフレッド達の援護に注力すべきだ、そう思ったフレディは新たな虫達を展開し、例の物件の方向に飛ばした。
 直後、

(なんだあれは?!)

 突如、その方向から大きな光があふれだした。
 ある建物と建物の隙間から、路地からあふれ出していた。
 アルフレッド達が身を隠していると思われる路地。
 その路地から神々しいほどの光があふれてる。
 よく見ると、その光は炎のようにゆれていた。
 拡大して見ると、それは炎では無く触手だった。
 たわわな実をつけたぶどうのような触手が、光を放ちながらゆらめいている。
 まるで雲の一部がそこに降りてきたかのような感覚。大きな存在感。
 いったい何が起きてるんだ? そんな好奇心を滲ませながら、フレディの虫は現場に向かって飛んでいった。

   ◆◆◆

 路地は光と触手に埋め尽くされていた。
 そしてその光のから声が響いた。

「魔力蓄積率、八割を突破」

 誰の声でも無い。触手の中で活動しているある魂からの報告の声。
 報告の声は続いた。

「索敵情報を射手の知覚と同期」

 その声と同時にベアトリスの視界に変化が起きた。
 敵の位置と遮蔽物が輪郭をもって浮き上がる。
 光に包まれているのにまったく眩しくない。良好な視界。全ての敵の位置が手に取るようにわかる。
 その良好な視界の中で、ベアトリスはいまの自分がどうなっているのかを確認した。
 狭い路地は触手とぶどうに埋め尽くされていた。
 その触手が自分の体に巻きつき、あちこちに繋がっていた。
 ぶどうは強い光を放っている。
 その光の正体は、自分の体から吸い上げられた魔力であることが感じ取れた。
 痛みは無い。
 そして声は再び響いた。

「射手の筋肉と骨格と魔力の経路を調査中……完了。照準補正値を射手の身体能力に合わせて調整中……完了」

 その声の直後、水平に構えている槍の感覚が少し変わった。

「射手の魔力放出性能を調査中……完了。反動抑制の補正値を調整中……完了」

 これらの調整はわずか数秒の出来事であったが、高速演算による加速した時間感覚の中ゆえに、ベアトリスには長く感じられた。
 そして声は全ての準備が完了したことを告げた。

「初期調整終了。魔力蓄積率、九割を突破。発射準備完了」

 その声の直後にアルフレッドの心の声が響いた。

(撃てベアトリス! 先制攻撃だ!)

 アルフレッドはベアトリスの真後ろにいた。
 アルフレッドの体にも触手が繋がっている。
 そしてベアトリスはその声と同時に動いた。
 槍先だけを遮蔽物の影から出す。
 屋上にいる銃兵からはベアトリスの体は見えない。槍先だけが飛び出しているように見えていた。
 槍先は眩く輝いており、

“いくよ!”

 ベアトリスは心の叫びと共にその輝きを爆発させた。
 槍先から閃光が伸び始める。
 並の動体視力の目にはそう見えた。
 実際は違った。それは数珠のように繋がった光弾であった。
 弾の形状は丸では無く、槍先の形に依存した細長い形状。
 距離と共に空気抵抗に圧縮されて減速しつつ丸型になっていくが、見える範囲は全て有効射程内。
 弾速は閃光のように速い。
 その閃光のような弾が屋上にいる銃兵を撃ち倒す。
 そしてベアトリスは屋上に並んでいる銃兵達を槍先でなぞるように動かした。
 閃光がその通りにうごき、並んでいる銃兵達をなぎ倒す。
 銃兵達は防御魔法を展開したが、この圧倒的な連射の前には意味を成していなかった。
 防御魔法が次々と破れ、炸裂音が派手にこだまする。
 その攻撃の凶悪性を瞬時に察知した凶人達は即座に動き出した。
 だが、既にベアトリスの槍先は向けられていた。
 直後に地上への制圧射撃が始まる。
 凶人達は全力で地を蹴って回避行動を取ったが、やはり意味は無かった。
 凄まじい弾幕が地上を光と炸裂音で埋め尽くす。
 敵の悲鳴も、おそらくその身から噴出したであろう赤色も、すべて光と炸裂音の中に掻き消えた。

(こ、これは……!)

 す、すごい。すごすぎて気持ちがいい。ベアトリスは不謹慎にも興奮してしまった。
 しかしやむを得ないことであった。それはあまりにも圧倒的な体感であった。
 これはアルフレッドのアイディアであった。
 デュランが回収した魂を使えばドラゴンでもなんでも作れる、そう思ったのだ。
 そしてアルフレッドが設計し、デュランと協力して完成させたのは、いわゆる「設置式の機銃」であった。
 弾は三人から吸い上げた魔力。砲身はある理由から槍となり、ゆえに射手は自動的にベアトリスとなった。
 その性能は見たとおりであった。
 そしてこれだけの連射にもかかわらず、その反動は気にならないほどであった。
 魔力を使った筋肉操作による反動抑制機能と、自動補正のおかげで照準はまったくぶれなかった。
 照準合わせはほぼ自動。「次はあれを狙う」と考えるだけで勝手に動かしてくれる。さらに、敵の回避行動も自動で追尾してくれる。完璧な偏差射撃をしてくれる。
 あとですごい筋肉痛になる気がする、ベアトリスの心配事はそれだけであった。
 しかしその欠点を考慮しても、ベアトリスはやみつきになりそうであった。
 ドラゴンと一体化していた時の魔王もこんな気持ちだったのだろうか、ベアトリスはそう思った。
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