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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(28)
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すごい、ベアトリスはそう思った。
デュランの力に限界が見えない。
敵が残っている限り食い続け、成長していく。
そして相性が良い。アレはずっと雪を降らせ続けている。デュランにエサを与え続けているようなものだ。
逃げ続けて粘る必要は無くなったのかもしれない。そう思いながらベアトリスはアレを見上げた。
雲のような見た目をしているが、雲と同じ高さにいるわけでは無い。
おそらく、腕を伸ばせる長さがあの高さで限界なのだろう。あれ以上高い所に浮き上がると、腕が地面まで届かなくなるのだ。凶人達を操作できなくなり、雪の多くが回収不能になるのだろう。
あの雲がこんな超広範囲の攻撃を長時間続けていられるのは、凶人達を利用して効率良く魂を回収しているからのはずだ。
そして絶妙な高さだ。がんばればこちらの攻撃も届くかもしれない、そう思える高さにいる。
なんとかできないだろうか? ベアトリスがそう思った直後に後方から声が響いた。
「やろう、ベアトリス!」
アルフレッドの声。
同時に地を蹴る音が後方から響き、気配が急速に近づいてくる。
その迫る気配に向かってベアトリスが振り返ると、アルフレッドはもう真後ろといっていい距離にまで近づいてきていた。
その動きの鋭さから確認する必要は無いような気がしたが、それでもベアトリスは尋ねた。
「もう大丈夫なの?」
アルフレッドは即答した。
「ああ、待たせてすまなかった」
それでも念のために、ベアトリスは蝶を使ってアルフレッドの状態を調べた。
結果は完璧だった。万全といっていい状態までアルフレッドは回復していた。
さすがの回復力だ、ベアトリスはそう感心しながら、先の「やろう」という言葉について尋ねた。
「なにか作戦があるの?」
アルフレッドは頷いて答えた。
「試してみる価値はあると思う」
答えながら、アルフレッドは視線をデュランのほうに向けた。
デュランは豪快に凶人達を蹴散らし、そして食らっていた。
その力強さを確認しながら、アルフレッドは口を開いた。
「彼の力があればなんとかなるかもしれない」
そう言ってからアルフレッドはベアトリスのほうに視線を戻し、「だけど、」と言葉を繋げた。
「まだ足りない。もっと彼を太らせる必要がある。ベアトリス、協力してくれないか?」
聞かれるまでも無かった。ベアトリス「もちろん。任せて」と答えた。
◆◆◆
(あの三人なら本当にひっくる返せるかもしれない)
離れたところにいるフレディもアルフレッドやベアトリスと同じ気持ちであった。
完全な撤退戦だった。なのに今はどうだ。あの三人は敵の追撃を押し返すどころか、逆に食い破りそうだ。
その気持ちの支えとなっているのはやはりデュラン。
気持ちがいいほどの豪快さで食い散らかしている。
ゆえにいつまでも見ていたい気持ちになったが、
(おっと、今はそれよりも自分の仕事に集中しないとな)
フレディにはアルフレッドから依頼されたある仕事があった。
それは、複数の条件を満たす物件を探してほしいというもの。
この町であれば難しい条件じゃない。きっと見つかる、そう自分を信じ込ませながらフレディはそれを探した。
虫を使って高所から見回す。
雪が降っているゆえに、現状ではそれほど簡単な作業では無い。
すぐにある虫からの信号が途絶えた。
雪に攻撃されて撃墜されたのだ。
明らかに狙われている。
雪のように見えるが、こいつらはどれも凶暴な虫だ。容赦無く襲ってくる。屋内などの閉所で無ければ生存し続けることは難しい。
次々と撃墜され、信号が途絶えていく。
残り十匹――五、四、三――
これはダメか、そう思ったフレディが虫を作り直す作業に入ろうとした瞬間、最後の一匹から位置情報と画像が届いた。
攻撃されながらの撮影ゆえに鮮明では無い。だが、条件を満たしていることは間違い無かった。
(アルフレッド! 良さそうなのが見つかったぞ!)
フレディは通話用の虫を使って心の声を送り、アルフレッドにその情報を転送した。
デュランの力に限界が見えない。
敵が残っている限り食い続け、成長していく。
そして相性が良い。アレはずっと雪を降らせ続けている。デュランにエサを与え続けているようなものだ。
逃げ続けて粘る必要は無くなったのかもしれない。そう思いながらベアトリスはアレを見上げた。
雲のような見た目をしているが、雲と同じ高さにいるわけでは無い。
おそらく、腕を伸ばせる長さがあの高さで限界なのだろう。あれ以上高い所に浮き上がると、腕が地面まで届かなくなるのだ。凶人達を操作できなくなり、雪の多くが回収不能になるのだろう。
あの雲がこんな超広範囲の攻撃を長時間続けていられるのは、凶人達を利用して効率良く魂を回収しているからのはずだ。
そして絶妙な高さだ。がんばればこちらの攻撃も届くかもしれない、そう思える高さにいる。
なんとかできないだろうか? ベアトリスがそう思った直後に後方から声が響いた。
「やろう、ベアトリス!」
アルフレッドの声。
同時に地を蹴る音が後方から響き、気配が急速に近づいてくる。
その迫る気配に向かってベアトリスが振り返ると、アルフレッドはもう真後ろといっていい距離にまで近づいてきていた。
その動きの鋭さから確認する必要は無いような気がしたが、それでもベアトリスは尋ねた。
「もう大丈夫なの?」
アルフレッドは即答した。
「ああ、待たせてすまなかった」
それでも念のために、ベアトリスは蝶を使ってアルフレッドの状態を調べた。
結果は完璧だった。万全といっていい状態までアルフレッドは回復していた。
さすがの回復力だ、ベアトリスはそう感心しながら、先の「やろう」という言葉について尋ねた。
「なにか作戦があるの?」
アルフレッドは頷いて答えた。
「試してみる価値はあると思う」
答えながら、アルフレッドは視線をデュランのほうに向けた。
デュランは豪快に凶人達を蹴散らし、そして食らっていた。
その力強さを確認しながら、アルフレッドは口を開いた。
「彼の力があればなんとかなるかもしれない」
そう言ってからアルフレッドはベアトリスのほうに視線を戻し、「だけど、」と言葉を繋げた。
「まだ足りない。もっと彼を太らせる必要がある。ベアトリス、協力してくれないか?」
聞かれるまでも無かった。ベアトリス「もちろん。任せて」と答えた。
◆◆◆
(あの三人なら本当にひっくる返せるかもしれない)
離れたところにいるフレディもアルフレッドやベアトリスと同じ気持ちであった。
完全な撤退戦だった。なのに今はどうだ。あの三人は敵の追撃を押し返すどころか、逆に食い破りそうだ。
その気持ちの支えとなっているのはやはりデュラン。
気持ちがいいほどの豪快さで食い散らかしている。
ゆえにいつまでも見ていたい気持ちになったが、
(おっと、今はそれよりも自分の仕事に集中しないとな)
フレディにはアルフレッドから依頼されたある仕事があった。
それは、複数の条件を満たす物件を探してほしいというもの。
この町であれば難しい条件じゃない。きっと見つかる、そう自分を信じ込ませながらフレディはそれを探した。
虫を使って高所から見回す。
雪が降っているゆえに、現状ではそれほど簡単な作業では無い。
すぐにある虫からの信号が途絶えた。
雪に攻撃されて撃墜されたのだ。
明らかに狙われている。
雪のように見えるが、こいつらはどれも凶暴な虫だ。容赦無く襲ってくる。屋内などの閉所で無ければ生存し続けることは難しい。
次々と撃墜され、信号が途絶えていく。
残り十匹――五、四、三――
これはダメか、そう思ったフレディが虫を作り直す作業に入ろうとした瞬間、最後の一匹から位置情報と画像が届いた。
攻撃されながらの撮影ゆえに鮮明では無い。だが、条件を満たしていることは間違い無かった。
(アルフレッド! 良さそうなのが見つかったぞ!)
フレディは通話用の虫を使って心の声を送り、アルフレッドにその情報を転送した。
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