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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(22)
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貫通はしていないが深い。少々振っても抜けないほどに。
ゆえに、直後にデュランが大剣を真上に振り上げても、凶人は先端に突き刺さったままであった。
デュランはその突き刺さったまま踊り続ける凶人を見せ付けるようにかかげ、
「ズゥェヤァッ!」
ベアトリスに襲い掛かろうとしている二体の凶人に向かって、勢い良く振り下ろした。
突き刺さっていた凶人が前に放り投げられる。
放たれたのはそれだけでは無かった。
放出された魔力が飛翔する三日月となって疾走する。
間も無く三日月は放り投げられた凶人に追いつき、その身に食い込んだ。
直後に砕け、白い破片の数々に分裂する。
破片は回転しながら細長く変形し、他の破片とぶつかり合い、混ざり合いながら白い旋風となった。
瞬間、
「!」
ベアトリスは自分も危険であることを感じ取った。
即座に防御魔法を展開。
直後、光の盾の向こう側から、放り投げられた凶人が二人組みのどちらかにぶつかったらしき衝突音と、光魔法の炸裂音が響いた。
そしてベアトリスの危険予知は正しかった。
白い旋風は二人を切り刻んでもまだ力尽きなかった。
進路上にいるベアトリスに襲い掛かる。
「っ!」
蛇のような光の刃が防御魔法の上を滑る感触と、風圧に押されるような感覚が展開している手から伝わる。
だが、盾は破れること無く、旋風は力を失って霧散した。
アルフレッドにも怪我は無い。
だが、ベアトリスは当然の権利として文句を言った。
「ちょっと、あぶな……!」
が、最後まで言えなかった。
言っても無駄に思えたからだ。
デュランの目は虚ろであった。
どこを見ているのか、何に意識を向けているのか、まったくわからない。
やはりどう見ても普通じゃ無い。
だからベアトリスは心の声で遠くにいるフレディに尋ねた。
(彼は前からあんなことをやる人だったの?)
複数の蝶を使って声を伝播する。
そしてフレディの声は即座に返ってきた。
(いいや、違う!)と。
ではどういうことなのか。
思い当たる節があったゆえに、ベアトリスはそれを尋ねた。
(デュランさんの気配は感じ取れる?)
これの回答には数秒の時間を要した。
(……時々なら)
(今は?)
(今は……感じ取れない)
本人は気を失っており、魂の気配も感じ取れないという。
では、今は誰があの体を操作しているのか?
思い当たる節は一つ。
ずっと聞こえ続けている、数え切れないほどの声と意識だ。
そいつらの誰かが、いや、もしかしたら全員がデュランの体を乗っ取ろうとしているのかもしれない。
それはフレディも予想していたことであった。
だからフレディは蝶から心の声を響かせた。
(おい、デュラン、しっかりしろ!)
しかしその声は届くとは思えなかった。
デュランの髪から響いている数多くの声に声量で負けている。
それでもフレディは再び叫んだ。
(デュラン!)
その声が通じたのか、デュランはベアトリスと視線を合わせた。
そして口を開いた。
「「「モットタマシイヲ」」」
複数の人間の意識が混じった声。
その言葉に対し、ベアトリスは槍を構えた。
思わずフレディが声を上げる。
(おい待て、ベアトリス!)
それは無理な相談であった。
だからベアトリスは首を振りながら答えた。
「悪いけど、こんなところでアルフレッドを死なせるわけにはいかないの!」
ゆえに、直後にデュランが大剣を真上に振り上げても、凶人は先端に突き刺さったままであった。
デュランはその突き刺さったまま踊り続ける凶人を見せ付けるようにかかげ、
「ズゥェヤァッ!」
ベアトリスに襲い掛かろうとしている二体の凶人に向かって、勢い良く振り下ろした。
突き刺さっていた凶人が前に放り投げられる。
放たれたのはそれだけでは無かった。
放出された魔力が飛翔する三日月となって疾走する。
間も無く三日月は放り投げられた凶人に追いつき、その身に食い込んだ。
直後に砕け、白い破片の数々に分裂する。
破片は回転しながら細長く変形し、他の破片とぶつかり合い、混ざり合いながら白い旋風となった。
瞬間、
「!」
ベアトリスは自分も危険であることを感じ取った。
即座に防御魔法を展開。
直後、光の盾の向こう側から、放り投げられた凶人が二人組みのどちらかにぶつかったらしき衝突音と、光魔法の炸裂音が響いた。
そしてベアトリスの危険予知は正しかった。
白い旋風は二人を切り刻んでもまだ力尽きなかった。
進路上にいるベアトリスに襲い掛かる。
「っ!」
蛇のような光の刃が防御魔法の上を滑る感触と、風圧に押されるような感覚が展開している手から伝わる。
だが、盾は破れること無く、旋風は力を失って霧散した。
アルフレッドにも怪我は無い。
だが、ベアトリスは当然の権利として文句を言った。
「ちょっと、あぶな……!」
が、最後まで言えなかった。
言っても無駄に思えたからだ。
デュランの目は虚ろであった。
どこを見ているのか、何に意識を向けているのか、まったくわからない。
やはりどう見ても普通じゃ無い。
だからベアトリスは心の声で遠くにいるフレディに尋ねた。
(彼は前からあんなことをやる人だったの?)
複数の蝶を使って声を伝播する。
そしてフレディの声は即座に返ってきた。
(いいや、違う!)と。
ではどういうことなのか。
思い当たる節があったゆえに、ベアトリスはそれを尋ねた。
(デュランさんの気配は感じ取れる?)
これの回答には数秒の時間を要した。
(……時々なら)
(今は?)
(今は……感じ取れない)
本人は気を失っており、魂の気配も感じ取れないという。
では、今は誰があの体を操作しているのか?
思い当たる節は一つ。
ずっと聞こえ続けている、数え切れないほどの声と意識だ。
そいつらの誰かが、いや、もしかしたら全員がデュランの体を乗っ取ろうとしているのかもしれない。
それはフレディも予想していたことであった。
だからフレディは蝶から心の声を響かせた。
(おい、デュラン、しっかりしろ!)
しかしその声は届くとは思えなかった。
デュランの髪から響いている数多くの声に声量で負けている。
それでもフレディは再び叫んだ。
(デュラン!)
その声が通じたのか、デュランはベアトリスと視線を合わせた。
そして口を開いた。
「「「モットタマシイヲ」」」
複数の人間の意識が混じった声。
その言葉に対し、ベアトリスは槍を構えた。
思わずフレディが声を上げる。
(おい待て、ベアトリス!)
それは無理な相談であった。
だからベアトリスは首を振りながら答えた。
「悪いけど、こんなところでアルフレッドを死なせるわけにはいかないの!」
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