Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(20)

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 直後、デュランはベアトリスのほうに向き直った。
 なぜこっちを見る? そんな警戒心と共にベアトリスがデュランの思考を読もうとする。
 が、

(わからない……!)

 その思考はあまりに数が多すぎた。
 わかることは一つ。あの髪の毛のようなものは、上にいる雲と似たようなものであること。
 多数の魂の集合体。
 しかもそれぞれに人格が残っている。部品としてバラバラにされたりしていない。
 あの雲からも数多くの人格が感じ取れる。
 だが、人格が抱いている感情はまったく違う。
 雲からは暗く重い感情だけ。悲痛なものしか感じ取れない。
 しかしデュランのほうは対照的に違う。
 喜び、充実、安息、幸福、さらには希望まで感じ取れる。
 その違いがどんな意味を持つのか。
 それを考える余裕は無かった。なぜなら、

「!」

 後方の敵が突っ込んでくるのを感じ取ったからだ。
 アルフレッドの肩を一時的に離し、振り返りながら防御魔法を展開。
 そして振り返った回転の勢いを乗せるように、ベアトリスは槍を突き出した。
 防御魔法を貫き、嵐と変える。
 その嵐に、アルフレッドの治療を行っていた蝶が混じった。
 墨流蝶となって狭い路地を嵐と共に埋め尽くし、迫る五人の凶人達を飲み込む。
 だが、

「っ!」

 成果の少なさに、ベアトリスの表情は少し歪んだ。
 先頭の一人に重症を与えただけ。
 凶人達は先頭の者を盾にしたのだ。
 ならば密着される前にもう一撃! そう考えたベアトリスは再び槍を構えたが、

「!?」

 再びの後ろからの気配の接近に、ベアトリスは思わず振り向いた。
 それはデュランだった。デュランが突っ込んできていた。
 反射的に身構える。
 が、デュランはベアトリスの真横を素通りし、

「ィヤアァッ!」

 奇妙な気勢と共に、背負うようにかついでいた大剣を振り下ろした。
 銀色の刃から巨大な三日月が放たれる。
 それはただの三日月では無かった。
 糸を引いている。
 見ると、その三日月には髪の毛がからまっていた。
 いや、髪の毛にしては太い。細い蛇というほうが近い。
 そして直後、デュランは振り下ろした大剣を振り上げた。
 振り下ろした時よりも速い。
 その速さから放たれた三日月は先に放たれた三日月に追いつき、ぶつかりあった。
 重なった二つの大きな三日月、それは縦に細長い×字を中空に描いた。
 間も無くその×字は歪み、回転し始め、そして濁流となった。
 瞬間、

(!? これは?!)

 ベアトリスの意識はその嵐に釘付けになった。
 なぜなら、それは自分の技とまったく同じだったからだ。墨流蝶だったからだ。
 完璧であった。回転しながら収束する力の渦に巻き込まれても、蛇はちぎれたりしなかった。
 この男は一度見ただけで完璧にマネしたのか?! あの無骨な大剣で?! そんな驚きの表情がベアトリスの顔に滲み始めた。
 そしてその表情が完成するよりも早く、放たれた嵐は蛇の群れと共に凶人達を飲み込んだ。
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