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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(19)
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長い。本当に長い。
下に垂れれば中ほどで地面についてしまうだろう。
そんな長い髪がまるで孔雀(クジャク)の羽のように広げられている。
長すぎる。大きすぎる。
そんな大きなものが海の中の海草のようにゆらめいている。
ここは海の中では無い。波など無い。
自然と目を奪われる。
だから気付いた。
(雪を……食べてる?)
その髪の毛は降ってくる雪を捕食していた。
そして直後、
“コレデハタリナイ”
という、心の声が聞こえた。
これがデュランさんの心の声? ベアトリスはそう思ったが、
(いや違う、今のは――)
大勢の人間の声が綺麗に重なったものだ。ベアトリスがそのことに気付いた直後、再び声が響いた。
“モット、モット、モットダ!”
その飢えを感じさせる声が響いたのとほぼ同時にデュランは動いた。
倒した凶人の一人の亡骸に歩み寄る。
デュランはうつぶせになっているその背に手を伸ばした。
まさか? ベルハルトが思ったそのまさかだった。
デュランは背中から生えている異形の腕を掴んで引きちぎった。
そして口元に運び――食べた。
がつがつと、咀嚼音(そしゃくおん)が聞こえてきそうな力強さで口を動かす。
そしてデュランは手と口だけでなく、髪も使い始めた。
髪が、触手が死体におおいかぶさるように群がる。
間も無く、腕はすべて食い尽くされた。
髪の毛達は満足したかのように再び大きく広がり、ありもしない波の中にその身をたゆたわせた。
よく見ると、その身は少し太くなっているように見えた。数も増えているように見えた。
そして髪は今の思いを響かせた。
“モットダ”
まだ足りないの? まだ飢えているの? ベアトリスはそう思った。
が、
(違う、これは飢えているんじゃなくて――)
喜んでいる? そう感じ取れた。
それが正解であることは、直後に響いた叫び声で判明した。
“―――――ッ!”
それは頭が痛くなるほどの絶叫だった。
複数の叫びや気勢が混じった読解不能な声。
しかしすべての声が甲高い。喜びの感情が感じ取れる。歓喜の叫び声だ。
“モットクレ” “モットチョウダイ” “モットダ”
そして響き始めるさまざまな声。
やはり飢えの声ではない。それは、
(これは純粋な欲望……?)
まるで欲しがる子供のようだ、ベアトリスはそう思った。
下に垂れれば中ほどで地面についてしまうだろう。
そんな長い髪がまるで孔雀(クジャク)の羽のように広げられている。
長すぎる。大きすぎる。
そんな大きなものが海の中の海草のようにゆらめいている。
ここは海の中では無い。波など無い。
自然と目を奪われる。
だから気付いた。
(雪を……食べてる?)
その髪の毛は降ってくる雪を捕食していた。
そして直後、
“コレデハタリナイ”
という、心の声が聞こえた。
これがデュランさんの心の声? ベアトリスはそう思ったが、
(いや違う、今のは――)
大勢の人間の声が綺麗に重なったものだ。ベアトリスがそのことに気付いた直後、再び声が響いた。
“モット、モット、モットダ!”
その飢えを感じさせる声が響いたのとほぼ同時にデュランは動いた。
倒した凶人の一人の亡骸に歩み寄る。
デュランはうつぶせになっているその背に手を伸ばした。
まさか? ベルハルトが思ったそのまさかだった。
デュランは背中から生えている異形の腕を掴んで引きちぎった。
そして口元に運び――食べた。
がつがつと、咀嚼音(そしゃくおん)が聞こえてきそうな力強さで口を動かす。
そしてデュランは手と口だけでなく、髪も使い始めた。
髪が、触手が死体におおいかぶさるように群がる。
間も無く、腕はすべて食い尽くされた。
髪の毛達は満足したかのように再び大きく広がり、ありもしない波の中にその身をたゆたわせた。
よく見ると、その身は少し太くなっているように見えた。数も増えているように見えた。
そして髪は今の思いを響かせた。
“モットダ”
まだ足りないの? まだ飢えているの? ベアトリスはそう思った。
が、
(違う、これは飢えているんじゃなくて――)
喜んでいる? そう感じ取れた。
それが正解であることは、直後に響いた叫び声で判明した。
“―――――ッ!”
それは頭が痛くなるほどの絶叫だった。
複数の叫びや気勢が混じった読解不能な声。
しかしすべての声が甲高い。喜びの感情が感じ取れる。歓喜の叫び声だ。
“モットクレ” “モットチョウダイ” “モットダ”
そして響き始めるさまざまな声。
やはり飢えの声ではない。それは、
(これは純粋な欲望……?)
まるで欲しがる子供のようだ、ベアトリスはそう思った。
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