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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(15)

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 十分な手ごたえを感じながら三人目の横を通り過ぎる。
 後方でもベアトリスが凶人を倒したことが感じ取れた。
 よし、と、アルフレッドが突破の確信を抱いた直後、

(何?!)

 むくり、と、倒れていた凶人達は何事も無いように立ち上がり始めた。
 凶人達は気力で立ち上がっているのでは無い。それは確実だった。
 三人目は目から頭蓋を突き抜いている。確実に死んでいるからだ。
 どうやら、頭を掴んでいるあの腕は、凶人達に信号を送って操作しているだけでは無いのだ。
 脳が破壊されても動かせるようになっているのだ。そのために全身に細い手をめぐらし、食い込ませたのだ。
 そのことに気付いたと同時にアルフレッドは動いた。
 二刀を時間差で二閃。
 放たれた二つの三日月が凶人の頭を掴んでいる太腕を切断する。
 が、

「っ!」

 やはり無駄か、それを確認しただけになったことに対して、アルフレッドは忌々しさ(いまいましさ)を顔に滲ませた。
 太腕は瞬時につながり、再生してしまった。

「気をつけろ、ベアトリス!」

 即座に目の前で起きていることに対しての警告の声を上げる。
 直後に「わかってる!」というベアトリスの心の声が返ってきた。
 ベアトリスのほうも同じ状況のようであった。
 そして状況は直後にさらに変化した。

「!」

 広く、そして緩やかに、上から何かが迫ってきていることを感じ取った。
 間も無くそれは視界の上部に映りこんだ。
 それは目には雪のように見えた。
 瞬時にその判断は感知能力によって否定された。
 雪ではなく魂、虫の群れだと。
 あの雲から降ってきている。
 そしてこの虫は非常に攻撃的。凶人から噴き出しているあの毒霧と同じもの。
 雲の下にいる限り逃げ場の無い広範囲攻撃。
 アルフレッドはそう思った。
 だが、それだけでは無いことが、直後のさらなる変化によって明らかになった。

「!?」

 雪が凶人達に集まり始めたのだ。
 腕にある無数の穴に吸い込まれている。
 そして凶人達はさらに変貌(へんぼう)した。
 髪の毛を振り乱すように、頭を激しく揺らしながら細い腕をさらに増やし、伸ばす。
 体に結びついている細腕よりもさらに細い。
 その数は数え切れぬほど。本当に髪の毛のように見える。
 そして、新たに伸び生えた細腕達はまるで水の中にあるかのように、上下左右に大きく広がった。
 先端にある小さな口で降ってくる雪を捕まえ、食らう。
 まるで触手。いや、まさしくと言ったところか。
 だからアルフレッドは思った。あれに似ていると。
 海の中にいる、あの名も知らぬ生き物に。
 そして同時に評価を改めた。
 この雪はただの攻撃では無いと。
 同時に凶人達を補助、強化するものなのだ。
 そして恐らく、この雪がやむことは期待できない。
 凶人達の頭を掴んでいる腕から、上に吸い上げられているのを感じる。下に降った雪が回収され、上に循環している。再利用されている。
 これは本当に厄介だ、アルフレッドがそう思った直後に凶人達は再び襲いかかってきた。
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