242 / 545
第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(14)
しおりを挟む
そして向かってくるのは気勢を上げる一人だけでは無かった。
さらに二人の凶人が追従している。
三人が相手、しかも相手の手数は多い、ならば速さがいる。
であれば、アリスから教えてもらったあの技を試すべきだ、そう考えたアルフレッドは既に構えを変えていた。
二刀を腰の鞘(さや)に戻した形。
しかし握り手は柄(つか)に無い。両手はそれぞれの鍔(つば)を握っている。
いや、挟んでいると言ったほうが正しい。親指と人差し指で鍔を押さえ込むように包み、残りの三本指は鞘を握っている。
鞘と刃、両方に魔力を流し込むための形。
そして鞘は既に輝いていた。
急速に流し込まれた光の魔力によって鞘の内部は銀色に埋まっていた。
刃も同じ。銀色に輝いている。
二つの輝きはぶつかり合い、押し合っていた。
刃を鞘から弾き飛ばして発射してしまいそうなほどのぶつかり合い。
そうならないように、鍔を握って押さえ込んでいる。
間も無く、そのぶつかり合いは鞘全体を振動させるほどに至った。
暴れ馬のようなその感覚を感じた瞬間、アルフレッドは凶人に向かって踏み込んだ。
直後に、アルフレッドは右手を鍔から放した。
刃が勢いよく鞘から飛び出し始める。
それを追いかけるようにアルフレッドは放すと同時に右手を前に滑らせていた。
飛び出した勢いを殺さぬように柄を握る。
ゆえに握り方は逆手持ち。
そしてアルフレッドは勢いのまま右下から左上に弧を描くように、逆袈裟の軌道で刃を振り抜いた。
まだ刃が届かぬ間合い。
されど問題は無い。過剰に込められた魔力が刃の延長となって、先端から伸び放たれていた。
弧を描いたその太い銀色の軌跡は大きな三日月となり、狂人に向かって放たれた。
背丈ほどもある飛ぶ斬撃。
これを、凶人は二匹の蛇で迎え討とうとした。
だが、その三日月はあまりに大きすぎた。
蛇の牙は一方的に砕かれ、凶人の両手からは赤い花が咲いた。
三日月の勢いは止まらず、そのまま凶人の胴に食い込む。
衝突点で魔力が歪み、その身も同じくねじ刻む。
確実な死、それを感じ取った凶人はせめて一糸を報いようと、眼前に迫ったアルフレッドに向かって手を伸ばそうとした。
だが出来なかった。三日月に引き裂かれた両腕はいうことをきかなかった。
何もできぬまま、真横を通り抜けるアルフレッドを見送る。
瞬間、凶人の心にアルフレッドの声が響いた。
“居合術・置き三日月(いあいじゅつ・おきみかづき)”、と。
直後、三日月は凶人の胴を赤く染めながらちぎれ、二つの三日月となった。
だが、凶人の目にはまだ大きな三日月が焼きついていた。
置き去りにする勢いで駆け抜けながら描き、強く印象に残す、ゆえに置き三日月。
だが、一人抜いても次の凶人が目の前にいる。
二人目の凶人は既に爪を振り上げている。
さらに、一人目の凶人の背中から生えていた腕が、まるで敵討ちをしようとしているかのようにアルフレッドに襲いかかり始めていた。
だからアルフレッドはもう一本の刃を解放することにした。
しかしその狙いは前にいる次の凶人でも、後ろから来る腕でも無かった。
狙いは目の前にある半分になった三日月。
アルフレッドはその三日月の下に潜りこむように、低姿勢になりながら地を蹴った。
顔面から地面に衝突しそうなほどの低さ。
その低さからアルフレッドは振り上げるように抜刀した。
鞘から光が伸び走り、三日月を下から真っ二つに一閃。
三日月と斬撃、その二本の線で描かれた十字が数瞬の間で白い旋風と化す。
同時にアルフレッドは再び心の声を響かせた。
“濁流剣・纏い鎌鼬(だくりゅうけん・まといカマイタチ)”
カマイタチを身に纏うという名の通り、アルフレッドの体は旋風の中心にあった。そのために低姿勢でもぐりこんだ。このための置き三日月であった。
されどその身は傷ついていない。白い魔力の刃が己が身を傷つけることが無いように制御されている。
ベアトリスのような神業と呼べる魔力制御技術をもってして、ようやく使える技。
光の旋風の中に身を置くゆえに攻防一体。
しかも全方位に隙は無い。後方から伸び迫っていた腕は瞬く間に切り裂かれた。
目の前の凶人は身を守るために爪を振るい始めた。
直後にアルフレッドはダメ押しに二刀二閃。
十字の斬撃を直接叩き込み、斬って押し倒す。
二人目の凶人が倒れたことで、後ろにいた三人目と視線が交錯する。
しかしその交錯は数瞬。
描いた十字が白い旋風と化し、双方の視界が薄白く遮られる。
アルフレッドはさらに刃を切り返して二刀二閃。
旋風をさらに追加してその規模を濁流に変えながら、凶人に向かって踏み込む。
狭い路地ゆえに、濁流は瞬く間に白く埋め尽くした。
凶人からは白い壁が迫ってきているように見えるほど。
アルフレッドはその白い壁の真後ろから声を響かせた。
“白中白・白露”
より白く眩い円が壁の中に描かれ、直後に閃光の槍となって凶人に襲い掛かる。
これに対し凶人は爪を振るったが、その抵抗はむなしく、間も無く白に飲み込まれた。一瞬、白の中に滲んだ(にじんだ)目に痛いほどの赤色が最後の抵抗となった。
さらに二人の凶人が追従している。
三人が相手、しかも相手の手数は多い、ならば速さがいる。
であれば、アリスから教えてもらったあの技を試すべきだ、そう考えたアルフレッドは既に構えを変えていた。
二刀を腰の鞘(さや)に戻した形。
しかし握り手は柄(つか)に無い。両手はそれぞれの鍔(つば)を握っている。
いや、挟んでいると言ったほうが正しい。親指と人差し指で鍔を押さえ込むように包み、残りの三本指は鞘を握っている。
鞘と刃、両方に魔力を流し込むための形。
そして鞘は既に輝いていた。
急速に流し込まれた光の魔力によって鞘の内部は銀色に埋まっていた。
刃も同じ。銀色に輝いている。
二つの輝きはぶつかり合い、押し合っていた。
刃を鞘から弾き飛ばして発射してしまいそうなほどのぶつかり合い。
そうならないように、鍔を握って押さえ込んでいる。
間も無く、そのぶつかり合いは鞘全体を振動させるほどに至った。
暴れ馬のようなその感覚を感じた瞬間、アルフレッドは凶人に向かって踏み込んだ。
直後に、アルフレッドは右手を鍔から放した。
刃が勢いよく鞘から飛び出し始める。
それを追いかけるようにアルフレッドは放すと同時に右手を前に滑らせていた。
飛び出した勢いを殺さぬように柄を握る。
ゆえに握り方は逆手持ち。
そしてアルフレッドは勢いのまま右下から左上に弧を描くように、逆袈裟の軌道で刃を振り抜いた。
まだ刃が届かぬ間合い。
されど問題は無い。過剰に込められた魔力が刃の延長となって、先端から伸び放たれていた。
弧を描いたその太い銀色の軌跡は大きな三日月となり、狂人に向かって放たれた。
背丈ほどもある飛ぶ斬撃。
これを、凶人は二匹の蛇で迎え討とうとした。
だが、その三日月はあまりに大きすぎた。
蛇の牙は一方的に砕かれ、凶人の両手からは赤い花が咲いた。
三日月の勢いは止まらず、そのまま凶人の胴に食い込む。
衝突点で魔力が歪み、その身も同じくねじ刻む。
確実な死、それを感じ取った凶人はせめて一糸を報いようと、眼前に迫ったアルフレッドに向かって手を伸ばそうとした。
だが出来なかった。三日月に引き裂かれた両腕はいうことをきかなかった。
何もできぬまま、真横を通り抜けるアルフレッドを見送る。
瞬間、凶人の心にアルフレッドの声が響いた。
“居合術・置き三日月(いあいじゅつ・おきみかづき)”、と。
直後、三日月は凶人の胴を赤く染めながらちぎれ、二つの三日月となった。
だが、凶人の目にはまだ大きな三日月が焼きついていた。
置き去りにする勢いで駆け抜けながら描き、強く印象に残す、ゆえに置き三日月。
だが、一人抜いても次の凶人が目の前にいる。
二人目の凶人は既に爪を振り上げている。
さらに、一人目の凶人の背中から生えていた腕が、まるで敵討ちをしようとしているかのようにアルフレッドに襲いかかり始めていた。
だからアルフレッドはもう一本の刃を解放することにした。
しかしその狙いは前にいる次の凶人でも、後ろから来る腕でも無かった。
狙いは目の前にある半分になった三日月。
アルフレッドはその三日月の下に潜りこむように、低姿勢になりながら地を蹴った。
顔面から地面に衝突しそうなほどの低さ。
その低さからアルフレッドは振り上げるように抜刀した。
鞘から光が伸び走り、三日月を下から真っ二つに一閃。
三日月と斬撃、その二本の線で描かれた十字が数瞬の間で白い旋風と化す。
同時にアルフレッドは再び心の声を響かせた。
“濁流剣・纏い鎌鼬(だくりゅうけん・まといカマイタチ)”
カマイタチを身に纏うという名の通り、アルフレッドの体は旋風の中心にあった。そのために低姿勢でもぐりこんだ。このための置き三日月であった。
されどその身は傷ついていない。白い魔力の刃が己が身を傷つけることが無いように制御されている。
ベアトリスのような神業と呼べる魔力制御技術をもってして、ようやく使える技。
光の旋風の中に身を置くゆえに攻防一体。
しかも全方位に隙は無い。後方から伸び迫っていた腕は瞬く間に切り裂かれた。
目の前の凶人は身を守るために爪を振るい始めた。
直後にアルフレッドはダメ押しに二刀二閃。
十字の斬撃を直接叩き込み、斬って押し倒す。
二人目の凶人が倒れたことで、後ろにいた三人目と視線が交錯する。
しかしその交錯は数瞬。
描いた十字が白い旋風と化し、双方の視界が薄白く遮られる。
アルフレッドはさらに刃を切り返して二刀二閃。
旋風をさらに追加してその規模を濁流に変えながら、凶人に向かって踏み込む。
狭い路地ゆえに、濁流は瞬く間に白く埋め尽くした。
凶人からは白い壁が迫ってきているように見えるほど。
アルフレッドはその白い壁の真後ろから声を響かせた。
“白中白・白露”
より白く眩い円が壁の中に描かれ、直後に閃光の槍となって凶人に襲い掛かる。
これに対し凶人は爪を振るったが、その抵抗はむなしく、間も無く白に飲み込まれた。一瞬、白の中に滲んだ(にじんだ)目に痛いほどの赤色が最後の抵抗となった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる