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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(13)

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 助けて? どういうことだ? アルフレッドの意識がその言葉に釘付けになった瞬間、

「っ!」

 目の前にいる凶人は、その奇妙な腕から大量の虫を噴出した。
 風も無いのにそれに乗ったかのような動きでアルフレッドの体にまとわりつく。
 毒霧のようだ、その印象は正解だった。
 わずかな隙間から鎧の下にもぐりこみ、皮膚から内部に浸透する。
 そして虫達はアルフレッドの神経を攻撃し始めた。
 だが、アルフレッドの心に動揺は無い。
 既に防御用の虫達を体の中で待機させていたからだ。
 そしていざという時のために周りに蝶の精霊を舞わせてある。
 自分の虫達はちゃんと抵抗できている。今はまだ蝶に頼る必要は無い、アルフレッドがそれを一秒に満たない時間で確認した直後、目の前にいる凶人の背から生えている別の腕が動いた。
 頭を狙ったその攻撃を上半身を捻ってかわす。
 アルフレッドにはかすりもしない。が、

「!」

 その腕は避けられた直後に目標を切り替え、軌道上にあった蝶を掴んだ。
 ばりばりと、音はしないがまるでそのように掴んだ蝶をむさぼり食う。
 その食事は一秒もかからず、

「モット……」

 と、さらに欲しがる声を響かせた。
 その声が合図になったかのように、全ての腕がうめき始めた。

「チョウダイ」「ワタシニモ」「ボクニモ」「オレニモ」

 その声と同時に腕は一斉にアルフレッドに襲い掛かった。
 しかし、既にアルフレッドには動揺も、ささいな意識の揺らぎも無かった。
 先の一合で腕の正体を見切ったからだ。
 ゆえに、アルフレッドは冷静に、

「破ッ!」

 一刀の一太刀で全ての腕を迎撃した。
 円を描くような軌道の斬撃で全て斬り飛ばしながら、腕を注意深く観察する。
 そして確認し、アルフレッドは先の一合で感じたことを確信に変えた。
 この腕は飢えているのだ。意図的にそうしているのだ。
 飢えの感覚を利用して攻撃的にしている。
 そして蝶を食われた時に、腕が強い快楽を得ていることもわかった。
 自動的かつ積極的に攻撃させるために、人間の魂をそのように改造して利用しているのだ。
 おぞましい、アルフレッドはそう思いながら、もう一本の刃を握る腕に力を込めた。
 目の前にいる凶人の胴が醜く変わった爪を再び繰り出す。
 その一撃に対し、アルフレッドはしゃがみこむように低姿勢になりながら踏み込み、凶人のわきの下にもぐりこむ形で回避した。
 同時に一閃。
 凶人の真横をもぐりぬけながら胴をなで斬る。
 鮮血と共に振りぬかれたその刃は輝いており、地に水平な軌跡を残した。
 魔力で描かれた軌跡。
 まるで銀色の絵の具を勢いよく垂れ流したかのようなその線を断ち切るように、もう片方の刃を縦に一閃。
 十字が描かれ、交差点から歪んで銀色の旋風と化す。
 放たれた旋風が前方にいる次の凶人に向かって襲い掛かる。
 これに、凶人はその場で立ち止まり、構えた。
 両の手を槍先のように尖らせた形。
 凶人はその両手を二匹の蛇にたとえ、

「蛇アァッ!」

 迫る嵐をその牙で迎え討った。
 連続手刀突きのような型で繰り出された連打が、猛烈な二匹の蛇の牙が旋風を細切れにしていく。
 そして凶人は旋風を打ち破ると同時に、

「アアアァッ!」

 凶人らしい雄叫びを響かせながらアルフレッドに向かって踏み込んだ。
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