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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(11)
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その時、最前線では銃声が止んでいた。
みな雲を見上げていた。
雲に降りてくる気配は無かった。
アルフレッドとベアトリスはその異様さに気圧されながら身構えていた。
対し、敵は何かを待っているようであった。
その何かは直後に始まった。
雲から太い糸が垂れてきた、そう見えた。
いや、よく見ると違った。
先端に手がついている。長い腕だった。
さらに一本では無い。雨のように何本も何本も垂れ始めた。
そして最初に伸び垂れ始めた一本が、屋根上にいたある影の頭を掴んだ。
瞬間、
「―――ッ!」
影は声無き絶叫を上げた。
頭の中から響いた声。魂の叫び。
それは感知能力者にとっては頭痛がするほどであり、
「「「―――ッ!」」」
間も無く、あちこちから絶叫の大合唱が始まった。
みな苦痛の表情を浮かべていた。
みな悶えるように身をよじっていた。
だが、ある時を境に絶叫は止まった。
「「「……」」」
みな、うなだれたまま動かない。
まるで糸が切れた人形。
直後、その動かない人形の頭から毛が伸び始めた。
いや、毛では無い。細長い手だ。
頭を鷲づかみにしている手から伸びているのか、それとも本当に頭から生えているのか、その判断は遠目ではつかなかった。
伸びた何十本もの細腕は影の体のあちこちを掴み、その爪を食い込ませた。
いや、食い込ませたという表現は生ぬるい。本当に指が皮膚の中に埋まっている。突き刺さっている。
「「「……ッ!」」」
その痛みによってか、人形達は痙攣(けいれん)を始めた。
それはすぐに止まった。
止まると同時に、人形達は姿勢を正した。
まるで意識を取り戻したかのよう。
いや、やはりそうは見えない。白目を向いているものが多い。
だが、糸は繋がった、そう見えた。
それは正解のようであった。
人形達はそれぞれに戦闘態勢を取り始めたからだ。
そして人形達はさらなる変化を見せた。
両腕と同じ太さのものが、背中から何本も伸び生え始めたのだ。
まるで羽、いや、そんな美しいものでは無い。巨大なクモを背負ったかのようだ、と表現したほうが正しい。
そして変化はそれで終わりでは無かった。
新たに伸び生えた全ての腕が腐り始めたのだ。
感知能力者にはそう見えた。
皮膚がただれ、穴だらけになり始めた、そう見えた。
そして腐った腕はその穴から粉のようなものを撒き散らし始めた。
虫だ。
攻撃的。しかも毒霧といっていいほどの量。
対策をしていなければ、近づくだけで被害を受けるだろう。
そこまでの変化を見て、アルフレッドはようやく気付いた。何かに似ているとは思っていた。それがようやく言葉になった。
直後にアルフレッドはそれを心から声に出した。
(これは、)
これはアレと、ルイス殿やサイラス殿が見せたものと同じ類のものだと。
あの雲は巨人やドラゴンとは違うのだ。自らが戦うために来たのでは無い、仲間を強化するための存在なのだと。
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