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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(10)

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   ◆◆◆

「……!」

 フレディの意識と視線はアルフレッドとベアトリス、二人の戦いに集中していた。
 もう今の自分が前に立てる状況じゃない、負傷している自分が前に出ても二人の負担が増えるだろう、フレディはそう思っていた。
 だがやれることはある。自分だって虫を使える感知能力者だ。情報提供という援護ができる。
 だからフレディは全力を持って周辺の敵の位置などの情報を二人に送っていた。
 そしてその情報の量は増え続けていた。
 次から次へと増援が来ている。港の方角からだ。
 港を制圧しない限り、この攻勢は止まらないのかもしれない。
 ついには空に浮かぶ雲みたいな化け物まで来た。
 あの二人にはなんとしても踏ん張ってもらわないといけない。
 二人が頑張ってくれているおかげでこっちは順調だ。距離も稼げてる。
 が、もしも二人がやられたら、この程度の距離などすぐに詰められるだろう。
 なんとかして二人をもっと援護してやりたいが、こっちには切れるカードが無い。
 ナンティは俺達の援護で精一杯であり、俺達の守りの要(かなめ)だ。彼女は出せない。
 もしもデュランが動ければ、負傷していなければ――そんなもしもの話に意味は無い、そう思ったフレディがその思考を打ち切った直後、

「!?」

 後方で大きな動揺の感情が生まれたのをフレディは感じ取った。
 何が起きた? それを調べるよりも早く、答えを表す声が響いた。

「ダメだ! デュラン!」

 ナンティの叫び声。
 その一言だけで何が起きたのかを察することが出来た。
 ならば止めないと、そう思ったフレディは後方をよく見回したが、デュランの姿はそこに無かった。
 俺達を避けつつ最前に行くために、裏路地のほうに回りこんだ? そう予想したフレディはそちらに虫を飛ばした。
 その予想は的中であること報告が、すぐに虫から返ってきた。
 既にデュランは路地で敵と交戦状態にあった。
 助けにはいけない。今の状況で戦力を分散させる危険は冒せない。
 だが、フレディには出来ることがあった。
 虫を使って呼び戻せるかもしれない、もしかしたらまた操作できるかもしれないのだ。
 あの時はデュランの弱い意識が協力してくれたから出来た。今回もそうであることを祈りながら、フレディは虫を経由してその背に声をかけた。

(おい、待て! デュラ……?!)

 だが、その呼び声は途中で止まってしまった。
 驚いたからだ。
 この時、フレディはデュランに起きたその驚きの変化の最初の目撃者になっていた。
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