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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(9)

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 誰だ? 背後から聞こえたその声にデュランが振り返ると、そこには戦士長が立っていた。
 いや、戦士長のような人だった。
 いや、よく見れば、

(……?)

 それが誰かはわからなかった。
 知らない、という表現は当てはまらなかった。
 顔が認識できないからだ。
 顔が無いわけでは無い。見ているはずなのに記憶することそのものを拒絶されているような感覚。
 だが、それが戦士長だと感じる。
 だからデュランはふと思った。
 自分は戦士長と会ったことがあっただろうか、と。
 無い、と思う。顔がまったく思い出せない。
 理由は察しがつく。自分に心を読まれないためだろう。避けられていたという感覚は当時あった。
 デュランはそんなことを考えていたが、目の前にいる戦士長のような何かはそんなことどうでもいいかのように話を始めた。

「試せる機会はもうあった。この前の魔王軍との決戦の時だ。だがあの時は危険を冒してまで試す必要が無かった」

 試す? 何を? デュランはそれを尋ねるために口を開いたが、声を上手く出せなかった。
 先ほどはつぶやけたのに。この男?の前では色んなことが上手くいかない。
 まるで質問も拒絶されているような感覚。
 そして男?は、やはりデュランを置き去りにするかのように勝手に話を進めた。

「だが今回は違う。ここにはサイラスもルイスもいない」

 サイラスとルイスの名が出たことで何の話をしているのかがおぼろげに理解でき始めた。
 つまり、大量の魂をどうにかしなければならない状況の話だろう。
 戦士長のような何かは、デュランがそれを察するのを待っていたかのように、タイミングよく次の言葉を紡いだ。

「たぶん、あの二人だけでは負けるぞ。あの二人が生きているうちに連携を取ったほうがいい」

 その言葉に対し、デュランは持ち前の勇気を抱いたが、戦士長のような何かは現実を突きつけた。

「しかし状態は悪い。止血はされているが、包帯をきつく巻かれているだけだ。激しく動けば出血し、動き続ければいつかは失血死する。意識も弱い。理性と本能はあまり機能していない」

 普通は戦えない状態。
 であったが、戦士長のような何かは胸を張って言った。

「だが私は自信を持って言おう。用意はできている、と」

 その自信の理由を戦士長のような何かは答えた。

「訓練は既に行われたも同然だった。様々な強者達と行動を長く共にしたことで、私は深く学ぶ機会を得られ、そして試行錯誤する時間もあった」

 話を聞いているうちに、デュランは戦士長のような何かの顔を少しずつ認識できるようになっていた。
 だが、やはり知らない顔だった。
 おそらく、強い男という印象だけで作られた想像の顔だろう、安定しないのは意識が弱いせいなのだ、デュランはそう思った。
 そしてその顔がはっきりしかけた頃、戦士長のような男はデュランにその自信をゆだねる発言をした。

「しかし最後に選ぶのはお前だ。あの二人に賭けて、寝たまま運命を待つ、それでもいい」

 そして戦士長のような何かは最後に問うた。

「どうする?」

 デュランの答えは決まっていた。デュランの勇気は微塵も揺らいでいなかった。
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