237 / 545
第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(9)
しおりを挟む
誰だ? 背後から聞こえたその声にデュランが振り返ると、そこには戦士長が立っていた。
いや、戦士長のような人だった。
いや、よく見れば、
(……?)
それが誰かはわからなかった。
知らない、という表現は当てはまらなかった。
顔が認識できないからだ。
顔が無いわけでは無い。見ているはずなのに記憶することそのものを拒絶されているような感覚。
だが、それが戦士長だと感じる。
だからデュランはふと思った。
自分は戦士長と会ったことがあっただろうか、と。
無い、と思う。顔がまったく思い出せない。
理由は察しがつく。自分に心を読まれないためだろう。避けられていたという感覚は当時あった。
デュランはそんなことを考えていたが、目の前にいる戦士長のような何かはそんなことどうでもいいかのように話を始めた。
「試せる機会はもうあった。この前の魔王軍との決戦の時だ。だがあの時は危険を冒してまで試す必要が無かった」
試す? 何を? デュランはそれを尋ねるために口を開いたが、声を上手く出せなかった。
先ほどはつぶやけたのに。この男?の前では色んなことが上手くいかない。
まるで質問も拒絶されているような感覚。
そして男?は、やはりデュランを置き去りにするかのように勝手に話を進めた。
「だが今回は違う。ここにはサイラスもルイスもいない」
サイラスとルイスの名が出たことで何の話をしているのかがおぼろげに理解でき始めた。
つまり、大量の魂をどうにかしなければならない状況の話だろう。
戦士長のような何かは、デュランがそれを察するのを待っていたかのように、タイミングよく次の言葉を紡いだ。
「たぶん、あの二人だけでは負けるぞ。あの二人が生きているうちに連携を取ったほうがいい」
その言葉に対し、デュランは持ち前の勇気を抱いたが、戦士長のような何かは現実を突きつけた。
「しかし状態は悪い。止血はされているが、包帯をきつく巻かれているだけだ。激しく動けば出血し、動き続ければいつかは失血死する。意識も弱い。理性と本能はあまり機能していない」
普通は戦えない状態。
であったが、戦士長のような何かは胸を張って言った。
「だが私は自信を持って言おう。用意はできている、と」
その自信の理由を戦士長のような何かは答えた。
「訓練は既に行われたも同然だった。様々な強者達と行動を長く共にしたことで、私は深く学ぶ機会を得られ、そして試行錯誤する時間もあった」
話を聞いているうちに、デュランは戦士長のような何かの顔を少しずつ認識できるようになっていた。
だが、やはり知らない顔だった。
おそらく、強い男という印象だけで作られた想像の顔だろう、安定しないのは意識が弱いせいなのだ、デュランはそう思った。
そしてその顔がはっきりしかけた頃、戦士長のような男はデュランにその自信をゆだねる発言をした。
「しかし最後に選ぶのはお前だ。あの二人に賭けて、寝たまま運命を待つ、それでもいい」
そして戦士長のような何かは最後に問うた。
「どうする?」
デュランの答えは決まっていた。デュランの勇気は微塵も揺らいでいなかった。
いや、戦士長のような人だった。
いや、よく見れば、
(……?)
それが誰かはわからなかった。
知らない、という表現は当てはまらなかった。
顔が認識できないからだ。
顔が無いわけでは無い。見ているはずなのに記憶することそのものを拒絶されているような感覚。
だが、それが戦士長だと感じる。
だからデュランはふと思った。
自分は戦士長と会ったことがあっただろうか、と。
無い、と思う。顔がまったく思い出せない。
理由は察しがつく。自分に心を読まれないためだろう。避けられていたという感覚は当時あった。
デュランはそんなことを考えていたが、目の前にいる戦士長のような何かはそんなことどうでもいいかのように話を始めた。
「試せる機会はもうあった。この前の魔王軍との決戦の時だ。だがあの時は危険を冒してまで試す必要が無かった」
試す? 何を? デュランはそれを尋ねるために口を開いたが、声を上手く出せなかった。
先ほどはつぶやけたのに。この男?の前では色んなことが上手くいかない。
まるで質問も拒絶されているような感覚。
そして男?は、やはりデュランを置き去りにするかのように勝手に話を進めた。
「だが今回は違う。ここにはサイラスもルイスもいない」
サイラスとルイスの名が出たことで何の話をしているのかがおぼろげに理解でき始めた。
つまり、大量の魂をどうにかしなければならない状況の話だろう。
戦士長のような何かは、デュランがそれを察するのを待っていたかのように、タイミングよく次の言葉を紡いだ。
「たぶん、あの二人だけでは負けるぞ。あの二人が生きているうちに連携を取ったほうがいい」
その言葉に対し、デュランは持ち前の勇気を抱いたが、戦士長のような何かは現実を突きつけた。
「しかし状態は悪い。止血はされているが、包帯をきつく巻かれているだけだ。激しく動けば出血し、動き続ければいつかは失血死する。意識も弱い。理性と本能はあまり機能していない」
普通は戦えない状態。
であったが、戦士長のような何かは胸を張って言った。
「だが私は自信を持って言おう。用意はできている、と」
その自信の理由を戦士長のような何かは答えた。
「訓練は既に行われたも同然だった。様々な強者達と行動を長く共にしたことで、私は深く学ぶ機会を得られ、そして試行錯誤する時間もあった」
話を聞いているうちに、デュランは戦士長のような何かの顔を少しずつ認識できるようになっていた。
だが、やはり知らない顔だった。
おそらく、強い男という印象だけで作られた想像の顔だろう、安定しないのは意識が弱いせいなのだ、デュランはそう思った。
そしてその顔がはっきりしかけた頃、戦士長のような男はデュランにその自信をゆだねる発言をした。
「しかし最後に選ぶのはお前だ。あの二人に賭けて、寝たまま運命を待つ、それでもいい」
そして戦士長のような何かは最後に問うた。
「どうする?」
デュランの答えは決まっていた。デュランの勇気は微塵も揺らいでいなかった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる