Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(7)

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 応えると同時にベアトリスは左手を突き出し、防御魔法を展開した。
 嵐の構え。
 であるが、その構えはこれまでとは少し違う部分があった。
 大量の蝶が槍にまとわりついているのだ。
 そしてベアトリスはその槍を突き出す前に一言を添えた。

(みんな、おねがい!)

 蝶を友人のように扱うベアトリスらしいその言葉のあと、ベアトリスは槍を突き出した。
 貫かれた光の盾が歪み、渦を描き始める。
 蝶達はその渦の中に吸い込まれるように飛び込んだ。
 回転し、圧縮されるその力の中では、蝶としての形と機能を保てない。普通は。
 しかしベアトリスは違った。
 渦の中で細く長くはなっている。しかし壊れていない。蝶としての機能を保っている。蝶の内部に組まれた回路は傷ついていない。
 魂は光魔法に対しての抵抗力が強く、弾きあって滑るような挙動を見せる。まるで水と油のように。
 これはその性質と、ベアトリスが得意とする魔力制御技術を活かした技。
 そしてその技の成功を確信したベアトリスは、

“白中・墨流蝶!(はくちゅう・すみながし)”

 その技の名を心で叫び、嵐を解き放った。
 墨流蝶(すみながし)、それはある蝶の名である。
 白の中に蝶が舞うゆえにであったが、その名は絵画の技法である「墨流し(すみながし)」とも掛け合わされていた。
 墨流しとは、水面に墨汁や絵の具を流して模様を描く技法。
 ベアトリスは閃光による白一色の視界を水面と見立てたのだ。
 そして流すのは蝶。ゆえに墨流蝶。
 嵐と共に吐き出され、波に乗るように蝶が乱れ舞う。
 白と共に流された蝶達は屋根上にいる銃兵達に迫り、そして襲い掛かった。
 屋根の上で伏せつつ、防御魔法を展開して受けしのごうとする銃兵達。
 斜め下から放たれた白い濁流が赤い屋根瓦をすべて剥ぎ取るように巻き上げ、そのまま銃兵達まで飲み込む。
 その白い暴力の中で銃兵達は見た。
 蝶を利用した墨流し、その美しさを。
 しかしその感動は痛みと引き換え。
 そして安くない。屋根上にいた銃兵達は命と引き換えにその芸術を鑑賞することになった。
 さらに、恐ろしいことが起こった。
 ゆらりと、全身を嵐に赤く刻まれた銃兵達が立ち上がったのだ。
 その頭部には蝶がむらがっていた。
 首の無いものもいた。首に蝶が群がっていた。
 動く死体と化した銃兵達は、ゆらりとその銃口をかつての仲間達に向けた。
 そしてかつての仲間同士での撃ち合いが始まる。
 これが墨流蝶であった。
 蝶で精神攻撃をしかけつつ嵐で身を切り刻み、骸(むくろ)と化せば乗っ取って利用する、無慈悲な複合攻撃であった。
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