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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(5)

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 描かれた十三の十字が歪みながら交わり、白い洪水と化す。
 その白い暴力は全てを押し流すかに見えた。
 が、違った。
 白い暴力を使えるのはアルフレッド達だけでは無いのだ。
 同じ白い洪水が前にそびえ立ち、うねり迫る。
 ベアトリスの写し人形達が協力して生み出したもの。
 間も無く二つの洪水はぶつかり合った。
 一瞬のせめぎ合いから、混ざり合うようにからまり始める。
 五分? そう思えた瞬間、

“白中白・白露!”

 アルフレッドの心の叫びが再び響いた。
 その叫びは、からまって乱れる嵐の中に白い波紋を生み出し、

「っ!」

 嵐を抜けた閃光が写し人形の一人を撃ち抜いた。
 数瞬遅れて、白露によって生じた旋風が人形を襲う。
 この白露はベアトリスの手を借りたものでは無い。自身が放った嵐そのものを利用したもの。
 ならば、アルフレッド本人が大きく前に駆け出したということになる。洪水を確実に突破しつつ人形に攻撃をしかけるにはそうせざるを得なかったのだ。
 人形達はそれをわかっていた。
 ゆえに人形達は洪水が消えるタイミングに合わせて踏み込んだ。
 三方向から迫り、同時に串刺すように槍を繰り出す。
 だが、そこにいたのはアルフレッドだけでは無かった。
 やはり寄り添うようにベアトリスが立っていた。

「破ッ!」

 気勢と共にベアトリスが一閃。三本の槍を一撃で叩き払う。
 その金属音と同時にアルフレッドが踏み込み、二刀二閃。正面の人形を赤く散らす。
 直後に稲妻のような足運びで急転、さらなる二閃でもう一人を赤く染める。
 その動作の隙を、アルフレッドの背後を残りの一人は狙っていた。
 が、直後、その背をかばうようにベアトリスが立ちふさがった。
 人形とベアトリス、二人の意識が交錯する。
 やはり似てる、そう思いながらベアトリスは槍を繰り出した。
 閃光のような突き。
 それを人形はなぎ払いで叩き払おうとしたが、

「あぐっ!」

 ベアトリスの突きはそのなぎ払いをものともせず、押し切って人形の胸に突き刺さった。
 瞬間、ベアトリスは思った。
 やはり軽い、と。
 考え方も体の動かし方も自分とよく似ている。だけど軽い。
 直前の三本の時もそう感じた。
 こいつらは明らかに自分の写し。なのにどうして?
 その答えはすぐに分かった。
 こいつらは直前まで一般人だったからだ。
 普通の生活をしていた普通の住人達。
 ならば、自分のように体が鍛えられているはずが無い。この写し人形達には基礎体力が備わってないのだ。
 魔力と槍の扱いが自分と同じように上手い、それだけなのだ。
 ならばいける。勝算はより高くなった、ベアトリスはそう思ったが、

「!」

 新たな敵の動きをベアトリスは感じ取った。
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