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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十七話 地獄の最後尾(44)

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 デュランは担架の上に寝たままの姿勢で、手だけを突き出していた。
 だから女は再び叫んだ。
 なぜだ!? あいつは完全に戦闘不能だったはずだ! と。
 事実、いまも意識は落ちている。
 すると、直後に目の前から答えが返ってきた。
 その通りだ、あいつはまぎれもなく戦闘不能だ、と。
 それはフレディの声。
 二人の意識と視線が再び交錯する。
 その交錯を確認してから、フレディは再び心の声を響かせた。

「だが、あいつは時々目を覚ましていた。意識が明滅していた。脳の機能は完全には落ちてはいなかった。ならば『俺でも遠隔操作できるのではないか』と思った」

 サイラス様のように、その部分は女に対しては不要であったゆえに響かせなかった。
 そしてフレディは覚悟の答えを述べた。

「お前が『戦闘不能のあいつを警戒していない』ことはわかってた。だから俺はこれに賭けたんだ」

 その答えに、

「……っ」

 女の意識は硬直したが、

「!」

 数瞬でその硬直は解けた。
 こんな話を聞いている場合では無かったことに気付いたからだ。
 高速演算同士での早口会話とはいえ、数秒ほど時間を無駄にしてしまった。
 いや、もしや、この会話すら罠だった? そんな思いと共に女は振り返りはじめた。
 なぜなら、後ろから、

「破あぁっ!」

 ナンティが最大速度で突っ込んできているからだ。
 既に真後ろ。あと一歩で剣の間合い。
 拘束を解いて槍で迎撃は出来ない。間に合わない。
 ゆえに、女は左手で真後ろに防御魔法を展開しながら回避行動を取り始めた。
 だが次の瞬間、女の左手は光の傘を開く前にナンティの左拳によってたたき払われてしまった。
 両手の守りを失った。ならば――

(ならば!)

 足技で! 女はそう叫ぶと同時に繰り出そうとしたが、それもナンティは読んでいた。

「っ!」

 女が左足を伸ばし始めた直後に、それは蹴り払われた。
 しまった、思わずそんな言葉を女は響かせてしまった。
 片足とはいえ、払われたせいで下半身が崩れたからだ。
 回避行動まで妨害された形。
 だが、払われたのは片足、まだもう片方の右足は生きている――そんな何かにすがるような思いを響かせながら女は地を蹴った。
 直後、ナンティはその思いごと斬り捨てるように一閃した。
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