上 下
225 / 545
第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十七話 地獄の最後尾(42)

しおりを挟む
 フレディがそう叫ぶと同時に全員の心はますます強く繋がった。
 だから全員がその思いに対して同時に応えた。

「「「雄応ッ!」」」

 ナンティは応えると同時に女に向かって踏み込んだ。
 迎撃で繰り出された突きを受け流しながら、炎を発射。
 これに対し女は防御魔法を展開しながら後退。
 しかし距離は離れない。ナンティも同時に地を蹴りなおしている。
 これはフレディの指示だった。
 炎魔法と光魔法の両方が使えるナンティは女に対して相性が良い、フレディはそう確信していた。
 密着に近い距離であるほど良い、そう指示していた。
 防御魔法は炎の進行を止めることができるが、左右から回り込んで伝わってくる熱は防ぎようが無いからだ。
 近距離で防御魔法を展開されたら同じ手で返せる。光の盾をぶつけ合いながら片手で炎を浴びせればいい。自分のように一方的に押し返されることは無い。
 近距離での体術戦闘で圧倒されなければ有利を取り続けられる! フレディはそう叫び、ナンティはその叫びに応えていた。
 だが、

「……!」

 フレディの表情は緊張で張り詰めていた。
 ナンティが女に対して接近戦で有利、それは確信している。
 が、それはあくまで一対一の話。
 その裏を突く手があることをフレディはわかっていた。
 直後、

「……っ!」

 フレディの眉間のしわはさらに深くなった。
 女はそこを突いてくる、という予想が的中してしまったからだ。
 同じ表情をナンティも浮かべていた。
 その手から炎が撃てなくなっていたからだ。
 女がこちらの仲間を背にしたからだ。
 乱戦を利用した単純な手、同士討ち狙い。
 利用されている、女の背後にいる兵士はすぐに気付いた。
 だから兵士は、

「このぉっ!」

 俺を利用するな、という思いを叫びながらその背に斬りかかった。
 が、

「ごぇっ!」

 その刃は一閃すらさせてもらえなかった。
 後ろ回し蹴りの型で放たれた光る足裏が刃を蹴り払い、同時に繰り出された石突きが兵士のみぞおちに打ち込まれていた。
 ほぼ同時に、ナンティも兵士の動きに合わせて光る刃を繰り出していたが、その斬撃は槍先で器用に払われていた。
 兵士のみぞおちに石突きを突き刺したままでの受け流し。
 その曲芸のような技を披露しながら、女は石突きに体重を乗せるように兵士に向かって軽く跳躍。
 何を――その答えは直後に痛みと共に明らかになった。

「ぅげっ!」

 心臓を踏み抜くような蹴りが兵士の胸に炸裂。
 女はその反動を利用して跳躍。
 この動きをナンティは読んでいた。
 跳躍の真下にもぐりこむように地を蹴る。
 女もその動きを読んでいた。間違い無く追いかけてくると予想していた。
 だから女は兵士を踏み台にすると同時に迎撃動作に入っていた。
 体を横に回転させて繰り出すなぎ払い。
 それはムチのようにしなってみえる一撃であったが、ナンティもその迎撃は読んでいた。
 炎を纏ったナンティの刃と白い槍先がぶつかり合い、火の粉と火花が散る。
 女は着地直前にさらに一閃。刃が再び交差する。
 直後に放たれた炎と援護射撃の光弾を屋台の影に隠れて防ぐ。
 その屋台に向かってナンティは踏み込み、前蹴りを叩き込んだ。
 蹴り飛ばす勢いで倒れた屋台を避けつつ、ナンティから逃げるように女が地を蹴る。
 その女の行く手を塞ぐように三人の兵士が立ちはだかる。
 ナンティに対しても同じ。敵の二つの影がナンティの背後にまとわりつく。
 状況は即座に変化。ナンティと女それぞれに迫った影と兵士に対し、別の兵士と影が「やらせるか」と突っ込む。
 乱戦に一変したその状況に対して最初に変化の一石を投じたのは女であった。
 影にけん制を指示して動きを制限させつつ、槍を三閃。
 障害物が多いことを意識させぬ高速の連撃。
 さらに影の追撃によって三人の兵士が三つの赤い華と散る。
 三つの影は女の次の指示を受けてナンティのほうに足先を向けた。
 対し、女は違っていた。
 女の足先が示す方向、そこにはフレディの姿があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

あのヒマワリの境界で、君と交わした「契約(ゆびきり)」はまだ有効ですか?

朝我桜(あさがおー)
ファンタジー
※小説家になろうから移設中!  赤き血の眷属『紅血人(フェルベ)』と青き血の眷属『蒼血人(サキュロス)』の間の100年にも及ぶ戦争。  だけどそんな長きにわたる戦争も終わった今日。  俺は国境付近で青い髪の少女アセナと出会った。  さかのぼること二年前、晴れて【霊象獣(クレプタン)】から人々を守る【守護契約士】なった俺ことアンシェル。  だけどある時、自分のミスで大先輩に大けがを負わせてしまったんだ。  周囲の人々は気に病むなと言ってくれたけど、俺はいたたまれない日々を過ごしていた。  でもそんなとき出会ったのが、そう……アセナだったんだ。    敵国のスパイに追われていたので一時保護しようとしたんだけど、どういうわけか渋り始め、事情を聞かないことを条件に俺は二人は護衛契約を結んだ。  まぁ……確かに惚れた腫れたの話じゃないといったらウソになる。  ただの色恋沙汰だったら、どんなに良かったことか。  案の定、彼女には秘密があって……。(全48話)

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

SFサイドメニュー

アポロ
SF
短編SF。かわいくて憎たらしい近未来の物語。 ★ 少年アンバー・ハルカドットオムは宇宙船飛車八号の船内コロニーに生まれました。その正体は超高度な人工知能を搭載された船の意思により生み出されたスーパーアンドロイドです。我々人類はユートピアを期待しています。彼の影響を認めれば新しい世界を切り開けるかもしれない。認めなければディストピアへ辿り着いてしまうかもしれない。アンバーは、人間の子どもになる夢を見ているそうです。そう思っててもいい? ★ 完結後は2024年のnote創作大賞へ。 そのつもりになって見直し出したところいきなり頭を抱えました。 気配はあるプロト版だけれど不完全要素がやや多すぎると猛省中です。 直すとしても手の入れ方に悩む部分多々。 新版は大幅な改変になりそう。

通史日本史

DENNY喜多川
歴史・時代
本作品は、シナリオ完成まで行きながら没になった、児童向け歴史マンガ『通史日本史』(全十巻予定、原作は全七巻)の原作です。旧石器時代から平成までの日本史全てを扱います。 マンガ原作(シナリオ)をそのままUPしていますので、読みにくい箇所もあるとは思いますが、ご容赦ください。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

カノン・レディ〜砲兵令嬢戦記〜

村井 啓
ファンタジー
ラーダ王国の武器商、カロネード商会の跡取りとして生まれ育ったエリザベスは、ひょんな事から軍人としての道を歩む事を決意する。 しかし女性が故に、軍隊への入隊志願を受け付けて貰えず、終いには家を継ぐ気が無いと判断され、彼女の父からも勘当を言い渡されてしまう。 エリザベスは最後の手段として、実家から大砲を盗み出し、隣国であるオーランド連邦の紛争地帯に乗り込み、実戦で戦果を挙げ、地方領主様に砲兵士官へと取り立てて貰うという、無謀極まり無い作戦を決行する。 血の繋がらない妹であるエレンを連れて、故郷のラーダ王国を出奔するエリザベス。 はたして彼女は、己の夢である軍団長の座へと上り詰めることが出来るのか!? 近世末期の異世界。世界の中心で産業革命の産声が上がる頃、そこから少し外れた北方大陸においても、砲兵令嬢(カノンレディ)の砲声が今まさに轟かんとしていた。

処理中です...