223 / 545
第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十七話 地獄の最後尾(40)
しおりを挟む
気付くと同時に思い出した。
気を失う直前、自分が虫の大量展開を開始したことを。
それは危機感から生じた、ただの本能的な行動だった。
しかしその虫達が、気を失ったという緊急事態に対処したのだ。
上空で集合して一つの魂となって仮の人格を作り、とりあえず動かせるように線を結んだのだ。
ならばやれるのか?! そう思ったフレディは積極的に自分を動かし始めたが、
(……重い! 鈍い!)
所詮、それは急ごしらえの突貫工事だった。
反応が鈍い。そして細かい部分の制御が難しい。難しすぎる。
動作の加速と減速にすら気を使わねばならない有様。
ものすごく重くてすべりやすいものを――でかい氷を操っているような感覚。
自分の脳はこれを普段から自動的に制御してくれていたのか――そんな感心に浸る余裕は無かった。
このままだとやられるだけ。そう焦った瞬間、フレディは感じ取った。
女が屋根上にいる銃兵に向かって命令を出したのを。
誰かあれを撃て、と。
なんということだ。この状況で女は慎重になっている。女自身は防御と警戒態勢に徹し、屋根上の味方に攻撃させることで安全に終わらせようとしている。
この状況からでもやつは逆転を狙ってくる、本気で女はそう思っている!
そして次の瞬間、さらなる絶望をフレディは感じ取った。
上にいる自分が巨大な蝶に包囲されつつあることを。
巨大に見える理由は、自分が小さいからだ。
直後に蝶は襲い掛かってきた。
虫を展開して迎撃を試みる。
しかし戦力差は圧倒的であった。
虫が一方的に蹴散らされる。
間も無く、迎撃を突破した一羽の蝶がフレディに襲い掛かった。
体当たりのような攻撃をフレディは避けようとしたが、
「っ!」
速度差も圧倒的であり、フレディは体の一部をもぎとられた。
全体に電気が走ったかのようなノイズが走る。
痛みは無い。そんな機能はこの体には無い。だが、フレディは思わず意識を下にいる自分に向けた。
見ると、下にいる自分は痙攣のようなものを起こしていた。奇妙な悲鳴も上げているようであった。
ノイズのせいだ。それが線を伝わり、下にいる自分を誤動作させている。
接続を一旦切る? そんなことを考える余裕も無かった。
迎撃を突破してきた蝶の群れが一斉に襲い掛かってきたからだ。
なすすべも無くやられる、それは明らかだった。
もうどうしようも無い。虫が用意してくれたこの最後の希望すらも女は容赦なく潰しにきた。
だからフレディは叫んだ。
誰か、と。
◆◆◆
痛みによって目を覚まし、うなされ、再び意識を落とす、デュランはそれを繰り返していた。デュランの意識は点滅していた。
失血のせいで夢と現実の区別もついていない。
だからその声が本物かどうかもわからなかった。
ただの幻聴かもしれない。
しかしそれでもデュランはその声に応えようと思った。夢の中で人助けをしようとするかのように。
気を失う直前、自分が虫の大量展開を開始したことを。
それは危機感から生じた、ただの本能的な行動だった。
しかしその虫達が、気を失ったという緊急事態に対処したのだ。
上空で集合して一つの魂となって仮の人格を作り、とりあえず動かせるように線を結んだのだ。
ならばやれるのか?! そう思ったフレディは積極的に自分を動かし始めたが、
(……重い! 鈍い!)
所詮、それは急ごしらえの突貫工事だった。
反応が鈍い。そして細かい部分の制御が難しい。難しすぎる。
動作の加速と減速にすら気を使わねばならない有様。
ものすごく重くてすべりやすいものを――でかい氷を操っているような感覚。
自分の脳はこれを普段から自動的に制御してくれていたのか――そんな感心に浸る余裕は無かった。
このままだとやられるだけ。そう焦った瞬間、フレディは感じ取った。
女が屋根上にいる銃兵に向かって命令を出したのを。
誰かあれを撃て、と。
なんということだ。この状況で女は慎重になっている。女自身は防御と警戒態勢に徹し、屋根上の味方に攻撃させることで安全に終わらせようとしている。
この状況からでもやつは逆転を狙ってくる、本気で女はそう思っている!
そして次の瞬間、さらなる絶望をフレディは感じ取った。
上にいる自分が巨大な蝶に包囲されつつあることを。
巨大に見える理由は、自分が小さいからだ。
直後に蝶は襲い掛かってきた。
虫を展開して迎撃を試みる。
しかし戦力差は圧倒的であった。
虫が一方的に蹴散らされる。
間も無く、迎撃を突破した一羽の蝶がフレディに襲い掛かった。
体当たりのような攻撃をフレディは避けようとしたが、
「っ!」
速度差も圧倒的であり、フレディは体の一部をもぎとられた。
全体に電気が走ったかのようなノイズが走る。
痛みは無い。そんな機能はこの体には無い。だが、フレディは思わず意識を下にいる自分に向けた。
見ると、下にいる自分は痙攣のようなものを起こしていた。奇妙な悲鳴も上げているようであった。
ノイズのせいだ。それが線を伝わり、下にいる自分を誤動作させている。
接続を一旦切る? そんなことを考える余裕も無かった。
迎撃を突破してきた蝶の群れが一斉に襲い掛かってきたからだ。
なすすべも無くやられる、それは明らかだった。
もうどうしようも無い。虫が用意してくれたこの最後の希望すらも女は容赦なく潰しにきた。
だからフレディは叫んだ。
誰か、と。
◆◆◆
痛みによって目を覚まし、うなされ、再び意識を落とす、デュランはそれを繰り返していた。デュランの意識は点滅していた。
失血のせいで夢と現実の区別もついていない。
だからその声が本物かどうかもわからなかった。
ただの幻聴かもしれない。
しかしそれでもデュランはその声に応えようと思った。夢の中で人助けをしようとするかのように。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる