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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十七話 地獄の最後尾(40)

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 気付くと同時に思い出した。
 気を失う直前、自分が虫の大量展開を開始したことを。
 それは危機感から生じた、ただの本能的な行動だった。
 しかしその虫達が、気を失ったという緊急事態に対処したのだ。
 上空で集合して一つの魂となって仮の人格を作り、とりあえず動かせるように線を結んだのだ。
 ならばやれるのか?! そう思ったフレディは積極的に自分を動かし始めたが、

(……重い! 鈍い!)

 所詮、それは急ごしらえの突貫工事だった。
 反応が鈍い。そして細かい部分の制御が難しい。難しすぎる。
 動作の加速と減速にすら気を使わねばならない有様。
 ものすごく重くてすべりやすいものを――でかい氷を操っているような感覚。
 自分の脳はこれを普段から自動的に制御してくれていたのか――そんな感心に浸る余裕は無かった。
 このままだとやられるだけ。そう焦った瞬間、フレディは感じ取った。
 女が屋根上にいる銃兵に向かって命令を出したのを。
 誰かあれを撃て、と。
 なんということだ。この状況で女は慎重になっている。女自身は防御と警戒態勢に徹し、屋根上の味方に攻撃させることで安全に終わらせようとしている。
 この状況からでもやつは逆転を狙ってくる、本気で女はそう思っている!
 そして次の瞬間、さらなる絶望をフレディは感じ取った。
 上にいる自分が巨大な蝶に包囲されつつあることを。
 巨大に見える理由は、自分が小さいからだ。
 直後に蝶は襲い掛かってきた。
 虫を展開して迎撃を試みる。
 しかし戦力差は圧倒的であった。
 虫が一方的に蹴散らされる。
 間も無く、迎撃を突破した一羽の蝶がフレディに襲い掛かった。
 体当たりのような攻撃をフレディは避けようとしたが、

「っ!」

 速度差も圧倒的であり、フレディは体の一部をもぎとられた。
 全体に電気が走ったかのようなノイズが走る。
 痛みは無い。そんな機能はこの体には無い。だが、フレディは思わず意識を下にいる自分に向けた。
 見ると、下にいる自分は痙攣のようなものを起こしていた。奇妙な悲鳴も上げているようであった。
 ノイズのせいだ。それが線を伝わり、下にいる自分を誤動作させている。
 接続を一旦切る? そんなことを考える余裕も無かった。
 迎撃を突破してきた蝶の群れが一斉に襲い掛かってきたからだ。
 なすすべも無くやられる、それは明らかだった。
 もうどうしようも無い。虫が用意してくれたこの最後の希望すらも女は容赦なく潰しにきた。
 だからフレディは叫んだ。
 誰か、と。

   ◆◆◆

 痛みによって目を覚まし、うなされ、再び意識を落とす、デュランはそれを繰り返していた。デュランの意識は点滅していた。
 失血のせいで夢と現実の区別もついていない。
 だからその声が本物かどうかもわからなかった。
 ただの幻聴かもしれない。
 しかしそれでもデュランはその声に応えようと思った。夢の中で人助けをしようとするかのように。
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