Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十七話 地獄の最後尾(38)

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 相手が上体を戻して後方に地を蹴るよりも早く、ふところに飛び込む。
 当然のように女は防御魔法を展開。
 これに対し、フレディは再び博打をしかけた。
 結果は右。
 されど、女は既に対策済み。
 フレディの思考をわざと読まず、目だけで対応する。反応の遅れは無い。
 しかし対応されることをフレディはわかっていた。当然そうするだろうと思っていた。
 だからフレディはイカサマをした。
 今回は右になる記憶を選んでいた。
 なぜならそこに、女のすぐそばに、とても都合のいい位置に屋台があるからだ。
 だからフレディは屋台の目の前で小さく跳躍した。
 そしてフレディは右足の中で魔力を爆発させ、屋台を蹴り倒す勢いで足を繰り出した。

「っ!」

 右足首がイッた、そう思えるほどの痛みが走る。
 だがかまわない、これが最後の勝機、次はきっと無い、フレディはそう思っていた。
 そして足首を犠牲にした甲斐はあるように見えた。
 女の真上をぎりぎり飛び越える軌道。しかも鳥のように速い。
 さらに、女はこの上という選択肢と、速さに反応できていないようであった。
 やれる、フレディはそう思った。
 あとはこの逆手持ちに変えた剣で上から首をなで斬るだけ。
 そのはずだった。

「?!」

 瞬間、フレディの背中に怖気が走った。
 女の頭に一匹の蝶がついていたからだ。
 いつからそこにいる? なんのために?
 その疑問を抱いた直後に『女は切り替わった』。
 フレディの策にはまった女の意識は消え、かわりに出てきたのはフレディの動きを完全にとらえている女であった。
 その変化を見てフレディは答えに気付いた。
 こいつは反応できていないフリをしていたのだ。
 または保険のためか。
 それはどちらも正解であった。
 女はフレディの予想外の動きに即座に、かつ機械的に対応できるように、演算回路を組んだ蝶を頭に取り付けておいたのだ。
 だからフレディは思った。

(そこまでするのかよ!?)

 女からすればザコと呼べる自分に対し、おそらくこいつは全力を出していると。
 だからフレディはほんの少しだけ奇妙な感情を抱いた。
 本当にほんの少しだけだが、女を本気にさせたことにフレディは興奮していた。
 しかしその感覚は一瞬で消え、あとには怖気だけが残った。
 怖気の理由は考えるまでも無かった。
 女が迎撃動作に入ったからだ。
 それは、フレディの跳躍以上の加速と初速で繰り出された。
 突き出されていた槍を振り上げ、そのまま後ろに弧を描くように振り下ろす軌道、そう見えた。
 その対空迎撃で放たれた槍の速度は、ムチのようにしなって見えるほどであり、

「――っ!」

 直後にフレディに炸裂した。
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