Iron Maiden Queen

第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十七話 地獄の最後尾(37)

　両手両足、すべての中で魔力を爆発させる。
　ミシリ、と、聞いたことの無い異音が体全体から鳴り響く。
　その異音と共に屋台は宙を舞った。
　自分にこんな怪力があったのか、そう思えるほどの勢いで屋台は女に向かって飛んだ。
　その屋台の真後ろに張り付くように地を蹴る。
　直後に女の槍先から光が広がった。
　閃光が周囲を包み込む。
　照らされた屋台が影を作り出し、そこだけが黒く切り取られた世界が形成される。
　それがまるで許せないかのように、白は黒を侵略し始めた。
　白蛇が屋台に次々と噛み付く。
　牙が木製の屋台を穿ち、穴を開け始める。
　まるで虫食いのように穴は増え、広がり、そして白の中に溶けるように、粉々に分解されていった。
　影が消え、フレディに白が襲い掛かる。
　直後、

「――ッ！」

　気勢か、それともただの必死の叫びか、判断のつきかねるフレディの心の声が響いた。
　その声と同時に別の音も響いた。
　光魔法の炸裂音。蛇が剣に斬られた音。
　光を反射して銀色に輝く線が、白一色の世界の中に三本描かれる。
　それと共に少量の赤色が白い場面の中に一瞬滲んだ。
　フレディは強行突破を選んでいた。
　大きくない蛇はあえて無視していた。
　多少の被害を無視してでも強引に距離を詰めなければならない、フレディはそう確信していた。
　そしてその確信は正解だった。
　白い世界を抜けた直後、目に入ったのは前傾姿勢で槍を突き出したままの女の姿であった。
　嵐の放出中はこの姿勢で硬直してしまうからだ。
　だからフレディは新たな確信と共に全力で地を蹴った。
　直後に一閃。前に伸びたままの槍を叩き払う。
　そして再び、

（勝機！）

　それはフレディのもとに訪れた。