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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十七話 地獄の最後尾(20)
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◆◆◆
ナンティ達が逃げ込んだ路地裏はあっという間に喧騒に包まれていた。
狭い路地の中で兵士と狂人の刃がぶつかり合う。
そしてその激突は空中でも起きていた。
見上げると、壁から壁へ蹴って移動するナンティと狂人達の姿があった。
上から奇襲しようとする狂人達をナンティは迎え討っていた。
ナンティと狂人の影がすれ違い、赤と白、二つの刃の軌跡が交わる。
そして生じた火花の中には影の体から生じた赤色が混じっていた。
直後に、屋根から降りてきた影がナンティに襲い掛かる。
対し、ナンティは即座に壁を蹴りなおし、勢いをつけて迎え討った。
二つの刃が描く赤と白の線が再び交わる。
そして直後、より濃い赤色が再び飛び散ったが、
「っ!」
それは狂人のものでは無かった。
痛みにナンティの表情が歪む。
が、ナンティはすぐに表情を戻し、
「うあああっ!」
気勢を上げて己に活を入れ、壁を蹴り直した。
雄叫びと共に次の狂人に向かって飛び掛かかり、炎の太刀を一閃。
それは刃だけでなく、心にも熱がこもった一撃であったが、
「っ!?」
ナンティは打ち負けた。
一方的に押し負け、姿勢が崩れる。
ナンティは即座に壁に足裏を押し当て、体勢を戻そうとしたが、
(うっ?!)
ナンティの足裏は壁をとらえず、滑った。
剣を土壁に突き刺して落下を防ぐ。
そしてナンティは気付いた。
「はあ、はあっ!」
自分の息があがっていることに。
汗が滝のように流れている。
思い返してみれば、路地に入ってから自分はずっと動きっぱなし。休み無く空中戦を続けている。
対し、敵は適度に交代している。屋根上に逃げて休んでいる。
自分の足に力が入っていないのを感じる。
果たして、次のぶつかり合いは無事ですむのかどうか――
それを考える時間を敵は与えてはくれなかった。
ほぼ真上の屋根から、新たな狂人が飛び出してくる。
これに、ナンティは条件反射的に壁を蹴った。
が、その上昇には先までの勢いは無かった。
遅い。浮き上がり始めた、という感じの上昇。
ゆえに結果は明らかだった。
「ぐぅっ!」
ほぼ一方的にナンティは弾き返された。
そしてそれだけではすまなかった。
直後に狂人が続けて放った光弾がナンティの腹部に直撃。
「げほっ!」
胃液が逆流するかのような感覚が喉をのぼり、悲鳴となって漏れ出す。
その嗚咽する無防備な背後に、新たな狂人が迫っていた。
ナンティの背中に向かって刃を突き出す。
これをナンティは感じ取れていた。
口から酸味のあるつばを垂れ流しながら振り返り、回転斬りで迎撃する。
だが、今回は交差しなかった。
ナンティの力は足だけでなく、腕からも失われていたのだ。
ぶつかり合い、つばぜり合いのような形で止まる二つの刃。
このせめぎ合いにおいてもナンティは押し負け、
「がっは!」
胸部から顎にかけてを跳ね上げるような蹴りが叩き込まれた。
ナンティ達が逃げ込んだ路地裏はあっという間に喧騒に包まれていた。
狭い路地の中で兵士と狂人の刃がぶつかり合う。
そしてその激突は空中でも起きていた。
見上げると、壁から壁へ蹴って移動するナンティと狂人達の姿があった。
上から奇襲しようとする狂人達をナンティは迎え討っていた。
ナンティと狂人の影がすれ違い、赤と白、二つの刃の軌跡が交わる。
そして生じた火花の中には影の体から生じた赤色が混じっていた。
直後に、屋根から降りてきた影がナンティに襲い掛かる。
対し、ナンティは即座に壁を蹴りなおし、勢いをつけて迎え討った。
二つの刃が描く赤と白の線が再び交わる。
そして直後、より濃い赤色が再び飛び散ったが、
「っ!」
それは狂人のものでは無かった。
痛みにナンティの表情が歪む。
が、ナンティはすぐに表情を戻し、
「うあああっ!」
気勢を上げて己に活を入れ、壁を蹴り直した。
雄叫びと共に次の狂人に向かって飛び掛かかり、炎の太刀を一閃。
それは刃だけでなく、心にも熱がこもった一撃であったが、
「っ!?」
ナンティは打ち負けた。
一方的に押し負け、姿勢が崩れる。
ナンティは即座に壁に足裏を押し当て、体勢を戻そうとしたが、
(うっ?!)
ナンティの足裏は壁をとらえず、滑った。
剣を土壁に突き刺して落下を防ぐ。
そしてナンティは気付いた。
「はあ、はあっ!」
自分の息があがっていることに。
汗が滝のように流れている。
思い返してみれば、路地に入ってから自分はずっと動きっぱなし。休み無く空中戦を続けている。
対し、敵は適度に交代している。屋根上に逃げて休んでいる。
自分の足に力が入っていないのを感じる。
果たして、次のぶつかり合いは無事ですむのかどうか――
それを考える時間を敵は与えてはくれなかった。
ほぼ真上の屋根から、新たな狂人が飛び出してくる。
これに、ナンティは条件反射的に壁を蹴った。
が、その上昇には先までの勢いは無かった。
遅い。浮き上がり始めた、という感じの上昇。
ゆえに結果は明らかだった。
「ぐぅっ!」
ほぼ一方的にナンティは弾き返された。
そしてそれだけではすまなかった。
直後に狂人が続けて放った光弾がナンティの腹部に直撃。
「げほっ!」
胃液が逆流するかのような感覚が喉をのぼり、悲鳴となって漏れ出す。
その嗚咽する無防備な背後に、新たな狂人が迫っていた。
ナンティの背中に向かって刃を突き出す。
これをナンティは感じ取れていた。
口から酸味のあるつばを垂れ流しながら振り返り、回転斬りで迎撃する。
だが、今回は交差しなかった。
ナンティの力は足だけでなく、腕からも失われていたのだ。
ぶつかり合い、つばぜり合いのような形で止まる二つの刃。
このせめぎ合いにおいてもナンティは押し負け、
「がっは!」
胸部から顎にかけてを跳ね上げるような蹴りが叩き込まれた。
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