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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十七話 地獄の最後尾(18)
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「で、ルイスはどういうつもりなんだ?」
シャロンと二人きりの馬車の中でサイラスは尋ねた。
シャロンのもとに虫が帰ってきた、そしてシャロンは次の虫を送らない、この事から会話が終わったのだと判断してサイラスは口を開いていた。
それは正解であり、シャロンは答えた。
「様子を見るため、それだけだと」
あまりにも淡白な答え。
普通はそう聞こえる。
しかしその一言だけでサイラスはルイスが同じ違和感を抱いていることに気付いた。
「やはり、ルイスはアルフレッドのことが気になっているようだな」
これに、シャロンは「当然でしょ」という顔で口を開いた。
「あの魔王に勝手に温情を与えたんだから、そりゃあそうでしょう。私なんかそのことをルイスから聞かされた時、本気でアルフレッドを処罰しそうになったわよ」
物騒な流れだがちょうどいい、そう思ったサイラスは尋ねた。
「今はどう思ってる?」
「今? そうねえ……」
シャロンは少し考えてから答えた。
「人見知りが激しい。まだ私達となじめてない、そんな感じかしら」
同じ認識であることをサイラスは頷きで返した。
だからサイラスはこの馬車にいるもう一人に同じ質問をすることにした。
「アリス、きみはどう思う? もしも同じように親代わりになって子供を育てることになったとしたら、きみはあの行動を許せるか?」
誘導的な質問であった。
だからアリスは言った。
「そういう遠まわしな質問の仕方は好きじゃないわ」
これにサイラスは、
「そうかすまない」
素直に謝り、そして聞きたかった事を尋ねた。
「ならば率直に聞こう。あっちのアリスのことをどう思う? 自分と同じアリスだと思うか?」
「同じでは無い。それは断言できるわ」
そのように即答したあと、アリスはその理由を述べた。
「でもそれ自体はおかしなことじゃない。わたしは本体から別れて長い時間が経っている。その長い時間の中で双方が違うものになったとしても、それは当然と言えること」
本当に当然のことだった。
サイラスもそれは分かっていた。
なのにサイラスがそれをあえて尋ねる理由、それも察していたアリスはその理由を述べた。
「だけど彼女は怪しい。その点については同意見よ」
ゆえに、こっちのアリスはむこうのアリスに対して距離を取っていた。それがアルフレッドが馴染めないでいる原因の一つであった。
そしてサイラスとこっちのアリスはルイスが見落としている違和感の正体に気付いていた。
アリスはそれを二人にしか聞こえないように小さな声で響かせた。
「今の敵の展開力を見る限りに、本体のわたしにまともな抵抗ができるとは思えない。だからわたし達は絶対に間に合わない。本体のわたしはもう死んでいるか、乗っ取られているかのどちらかのはず」
それは皆があえて口にしなかったことであった。
そしてアリスはその先に踏み込んだ。
「そしてそれは過去についても同じことが言える。アルフレッドは『わたしからの知らせを受けて』動いたと言った。そして『アルフレッドはわたしの窮地に単身で駆けつけ、多くの敵を倒した』。とてもロマンチックだけど……正直できすぎた話だと思うわ」
アリスはそこで一呼吸置いた。
そして言葉を整理してから、決定打となる疑問点を述べた。
「そもそもおかしいのよ。どうして敵はわたしの本体とアルフレッドを倒すためにドラゴンや巨人を出さなかったのかしら? 魔王の時はあっさり出したのに」
その疑問に対し、サイラスは口を開いた。
「私も同じ疑問を抱いた。そしてこう思った」
その興味を引く言葉に、シャロンとアリスが同時に「何?」と尋ねた。
サイラスは確信に近い感覚と共にその推察を述べた。
「おそらく、アルフレッドは殺されないように手加減されている」
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