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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十七話 地獄の最後尾(14)
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しかしみな同じ思いを抱いていた。
だから壁の後ろにいる兵士は叫んだ。
「弾を惜しむな! 撃ちまくれ!」
ここで残りの全部を撃ちつくしてもいい、そんな思いが含んだその叫びは瞬時に伝播した。
そしてその共感の連鎖は直後に銃声に変わった。
横雨のような一斉射撃が橋の上に赤い染みを散らす。
だが、その染みは敵のものだけでは無かった。
「ぐっ!?」
「撃たれてるぞ!」
「屋根の上からだ!」
間も無く銃声はさらに激しくなった。
敵の一斉射撃が橋の上に降り注ぐ。
その雨はあまりにも激しすぎた。
「これはダメだ!」
「壁の向こうに後退するしかない!」
でもこの銃撃の雨の中をどうやって?! その心の問いに対してデュランが手本を見せた。
橋の上に置かれている障害物を持ち上げ、盾にしながらさがる。
それを見た兵士達が次々と真似をし始める。
が、
「ぐあっ!」
ハズレの盾を拾ってしまった者がいた。
「くそ! このテーブル、弾が抜ける!」
直後に箪笥を抱えた二人組みがその者の前に立ってかばう。
兵士は即座に穴だらけになったテーブルを捨て、三人目となって箪笥を運び始めた。
まるで引越し作業をしているかのようなその後退を、壁にいる兵士達が銃撃で援護する。
しかしその援護はまばらになり始めていた。
「弾切れだ!」
「こっちもだ!」
補給はずっと受けられていない。みな物資が尽きかけていた。
既に投石で戦っているものがいる有様。
「ぅあっ?!」
箪笥の左側を持っていた兵士の足に穴が開き、倒れる。
「がんばれ! もう少しだ!」
真ん中の兵士が肩を貸し、無理矢理立たせる。
その三人組を援護するために、壁の兵士達は銃を構えながら体を出したが、
「「「うあああ!」」」
その援護は狙われていた。
銃撃の雨が壁にも降り注ぎ始める。
「ダメだ! 撃ち返せ無い!」
上半身を出すことすら難しいほどの弾の雨。
橋の上の仲間達が倒れる音が雨の音の中に混じる。
だから兵士の一人が声を上げた。
「感知能力があるやつに弾を渡せ!」
なぜ? 聞き返すよりも早くその答えを察した兵士は弾が入った袋を投げ渡した。
感知能力者ならば目に頼らずとも敵の位置がわかる。銃を握る腕を出すだけで狙って撃てる。
直後に弾を受け取った兵士は察した通りにやり始めた。
感知能力がある魔法使い達もそれにならう。
その援護によってデュラン達は壁の後ろに到着。
しかしこの後どうすればいいのかは誰にも分かっていなかった。
そしてそれを考える時間を敵は与えてはくれないようであった。
「おい、なんかやばそうだぞ!」
それを感じ取った兵士は声を上げた。
橋の向こうで敵の大盾兵が横一列に並んだからだ。
その大盾兵の後ろにさらに敵が横に並ぶ。
そして敵は二列の形で突撃を開始した。
「突っ込んでくるぞ!」
弾が残っている者は迫る大盾に向かって撃ち込んだが、その突撃を止めるにはまったく力が足りないようであった。
「壁を閉じろ!」
言われるよりも早くデュラン達は動いていた。
家具を積み上げ、壁の隙間を塞ぐ。
直後に大盾兵の体当たりが炸裂。
轟音と共に壁が揺れる。
だが揺れただけ、しのいだ、兵士の一人がそんなひとまずの安堵を覚えた直後、
「「「!?」」」
肌を刺すような熱気が壁の向こうから伝わってきた。
何が起きてる? その疑問の答えをデュランが叫んだ。
「火をつけられた!」
大盾兵の後ろに並んでいたのは炎魔法の使い手だったのだ。
壁の材料の多くは家具。ほとんどが燃えるものでできている。
こうなっては答えは一つであった。
「ここはもうダメだ! 隊長達と合流しよう!」
「でもどうやって逃げる!? 壁から離れた瞬間にハチの巣にされるぞ!」
これに対しての答えも一つしか思い浮かばなかった。
ナンティがそれを叫んだ。
「さっき私達がやったのと同じやり方はどう?!」
それは名案に思えた。
「たしかにそれしか無いな!」
「燃え移る前に頑丈なやつを選んだほうがいい!」
その声を合図に全員が壁を漁り始めた。
奪い合うように、されど協力して頑丈そうな家具を掘り出す。
「よし、行こう!」
準備ができた者から走り出す。
予想していた通り、直後に弾の雨が降り始めた。
「ぎゃ!」「うっ!」
家具の選択を間違えた者と、運悪く集中攻撃を浴びた者が倒れ始める。
ナンティもその不運な後者の一人であるように見えた。
「うぅ!」
弾の雨がナンティが抱える樽を穴だらけにする。
直後、一発の弾丸が貫通し、ナンティの右腕に穴を開けた。
支えられない、樽を落としてしまう、死ぬ、その確信が背筋を駆け上った。
「――っ!」
過剰に分泌された脳内麻薬と極度の緊張は、世界が止まったように思えるほどの計算速度を生み出したが、それでも命を拾うための答えは見出せなかった。
だからナンティは目を閉じそうになったが、
「!」
そのまぶたが落ちる前に視界は暗くなった。
目の前に突然壁が出来た、一瞬そう錯覚したが、直後にそれがデュランであることにナンティは気付いた。
家具と大剣を背負ったデュランと視線が交錯する。
次の瞬間、着弾の炸裂音と共にその巨体が揺れた。
「ぐおおお!」
その衝撃に抗うために吼えるデュラン。
だが、デュランの体躯をもってしてもその足は千鳥足になっていた。
倒れないようにナンティが後ろから支える。
支えながら、支えられながら二人は共に後退。
そして民家まで辿り着いた二人は、ドアに体当たりして中に飛び込んだ。
「助かった?」
命を拾えたことに驚きを隠せないナンティは疑問系でそう言った。
しかしデュランから答えは返ってこなかった。
その理由に気付いたナンティは叫んだ。
「デュラン?!」
見ると、デュランの背中は血だらけであった。
だから壁の後ろにいる兵士は叫んだ。
「弾を惜しむな! 撃ちまくれ!」
ここで残りの全部を撃ちつくしてもいい、そんな思いが含んだその叫びは瞬時に伝播した。
そしてその共感の連鎖は直後に銃声に変わった。
横雨のような一斉射撃が橋の上に赤い染みを散らす。
だが、その染みは敵のものだけでは無かった。
「ぐっ!?」
「撃たれてるぞ!」
「屋根の上からだ!」
間も無く銃声はさらに激しくなった。
敵の一斉射撃が橋の上に降り注ぐ。
その雨はあまりにも激しすぎた。
「これはダメだ!」
「壁の向こうに後退するしかない!」
でもこの銃撃の雨の中をどうやって?! その心の問いに対してデュランが手本を見せた。
橋の上に置かれている障害物を持ち上げ、盾にしながらさがる。
それを見た兵士達が次々と真似をし始める。
が、
「ぐあっ!」
ハズレの盾を拾ってしまった者がいた。
「くそ! このテーブル、弾が抜ける!」
直後に箪笥を抱えた二人組みがその者の前に立ってかばう。
兵士は即座に穴だらけになったテーブルを捨て、三人目となって箪笥を運び始めた。
まるで引越し作業をしているかのようなその後退を、壁にいる兵士達が銃撃で援護する。
しかしその援護はまばらになり始めていた。
「弾切れだ!」
「こっちもだ!」
補給はずっと受けられていない。みな物資が尽きかけていた。
既に投石で戦っているものがいる有様。
「ぅあっ?!」
箪笥の左側を持っていた兵士の足に穴が開き、倒れる。
「がんばれ! もう少しだ!」
真ん中の兵士が肩を貸し、無理矢理立たせる。
その三人組を援護するために、壁の兵士達は銃を構えながら体を出したが、
「「「うあああ!」」」
その援護は狙われていた。
銃撃の雨が壁にも降り注ぎ始める。
「ダメだ! 撃ち返せ無い!」
上半身を出すことすら難しいほどの弾の雨。
橋の上の仲間達が倒れる音が雨の音の中に混じる。
だから兵士の一人が声を上げた。
「感知能力があるやつに弾を渡せ!」
なぜ? 聞き返すよりも早くその答えを察した兵士は弾が入った袋を投げ渡した。
感知能力者ならば目に頼らずとも敵の位置がわかる。銃を握る腕を出すだけで狙って撃てる。
直後に弾を受け取った兵士は察した通りにやり始めた。
感知能力がある魔法使い達もそれにならう。
その援護によってデュラン達は壁の後ろに到着。
しかしこの後どうすればいいのかは誰にも分かっていなかった。
そしてそれを考える時間を敵は与えてはくれないようであった。
「おい、なんかやばそうだぞ!」
それを感じ取った兵士は声を上げた。
橋の向こうで敵の大盾兵が横一列に並んだからだ。
その大盾兵の後ろにさらに敵が横に並ぶ。
そして敵は二列の形で突撃を開始した。
「突っ込んでくるぞ!」
弾が残っている者は迫る大盾に向かって撃ち込んだが、その突撃を止めるにはまったく力が足りないようであった。
「壁を閉じろ!」
言われるよりも早くデュラン達は動いていた。
家具を積み上げ、壁の隙間を塞ぐ。
直後に大盾兵の体当たりが炸裂。
轟音と共に壁が揺れる。
だが揺れただけ、しのいだ、兵士の一人がそんなひとまずの安堵を覚えた直後、
「「「!?」」」
肌を刺すような熱気が壁の向こうから伝わってきた。
何が起きてる? その疑問の答えをデュランが叫んだ。
「火をつけられた!」
大盾兵の後ろに並んでいたのは炎魔法の使い手だったのだ。
壁の材料の多くは家具。ほとんどが燃えるものでできている。
こうなっては答えは一つであった。
「ここはもうダメだ! 隊長達と合流しよう!」
「でもどうやって逃げる!? 壁から離れた瞬間にハチの巣にされるぞ!」
これに対しての答えも一つしか思い浮かばなかった。
ナンティがそれを叫んだ。
「さっき私達がやったのと同じやり方はどう?!」
それは名案に思えた。
「たしかにそれしか無いな!」
「燃え移る前に頑丈なやつを選んだほうがいい!」
その声を合図に全員が壁を漁り始めた。
奪い合うように、されど協力して頑丈そうな家具を掘り出す。
「よし、行こう!」
準備ができた者から走り出す。
予想していた通り、直後に弾の雨が降り始めた。
「ぎゃ!」「うっ!」
家具の選択を間違えた者と、運悪く集中攻撃を浴びた者が倒れ始める。
ナンティもその不運な後者の一人であるように見えた。
「うぅ!」
弾の雨がナンティが抱える樽を穴だらけにする。
直後、一発の弾丸が貫通し、ナンティの右腕に穴を開けた。
支えられない、樽を落としてしまう、死ぬ、その確信が背筋を駆け上った。
「――っ!」
過剰に分泌された脳内麻薬と極度の緊張は、世界が止まったように思えるほどの計算速度を生み出したが、それでも命を拾うための答えは見出せなかった。
だからナンティは目を閉じそうになったが、
「!」
そのまぶたが落ちる前に視界は暗くなった。
目の前に突然壁が出来た、一瞬そう錯覚したが、直後にそれがデュランであることにナンティは気付いた。
家具と大剣を背負ったデュランと視線が交錯する。
次の瞬間、着弾の炸裂音と共にその巨体が揺れた。
「ぐおおお!」
その衝撃に抗うために吼えるデュラン。
だが、デュランの体躯をもってしてもその足は千鳥足になっていた。
倒れないようにナンティが後ろから支える。
支えながら、支えられながら二人は共に後退。
そして民家まで辿り着いた二人は、ドアに体当たりして中に飛び込んだ。
「助かった?」
命を拾えたことに驚きを隠せないナンティは疑問系でそう言った。
しかしデュランから答えは返ってこなかった。
その理由に気付いたナンティは叫んだ。
「デュラン?!」
見ると、デュランの背中は血だらけであった。
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