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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十七話 地獄の最後尾(13)
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やれやれと、私は言葉にして安堵した。
その報告を最初に聞いた時、無理があると思ったからだ。
あまりにも常識外れの選択肢だった。
しかし私は運が良い。
たまたま上手く事が運び、周囲の人間達も都合良く解釈してくれたようだ。
いや、もしかしたら運が悪いのかもしれない。
この任務の内容を聞いた時の第一印象は無理の一言だった。
事前に細工はしてあったが、ほんのちょっとしたもの。保険のようなもの。バレては元も子も無いので大きな仕掛けはできない。
しかし希望が見えてきた。その細工が上手く機能してくれた。
こんな無茶な仕事を振られた時点で運が悪いと言えるだろう。
私の能力を評価してくれるのは嬉しいが、こんな難しい仕事を追加で突然投げつけてくるのはやめてほしいものだ。
もしもこの任務が成功したら相応の報酬を受け取るべきだろう。その資格が私にはあるはずだ。
◆◆◆
「!? 一気に詰めて来ている! 速いぞ!」
それを最初に感じ取ったデュランがそう声を上げた。
敵は突然急速に動き始めた。
兵士達の警戒心が一瞬で最大まで上昇し、それぞれが持ち場で構える。
「「「……」」」
固唾を呑みながら敵の到着を待つ。
しばらくしてそれは現れた。
だが、それは正面からでは無かった。
「上だ!」
その声に兵士達が視線を上に向けたのと直後、影の群れが屋根から躍り出た。
次々と着地し、橋に向かって駆け出す。
兵士の警告の通りに速い。
陽炎を纏っているかのように、像が揺れて見えるほどに。
そして奇妙だった。
服装や見た目は一般人のそれだったからだ。
しかしその動きはまるで――デュランの脳内でとあるイメージが重なったが、それを言葉にする時間は無かった。
一気に目の前まで詰めてきた影に向かって大剣を振り下ろす。
瞬間、
「!?」
目の前の影は陽炎だけを残して消えた、目にはそう映った。
しかしデュランの感知能力は敵の位置を捕らえ続けていた。
瞬間的に急加速して大剣を右に避けた、デュランの感知能力はそう答えた。
追いかけるようになぎ払う? いや、間に合わない、そう判断したデュランは距離を取るように後ろに地を蹴りながら、大剣を盾にするように正面に構えなおした。
直後に踏み込んできた影がその両手にある獲物を繰り出す。
ナイフと包丁、それはそう見えた。
流し込まれた魔力によって輝く二刀が銀色の軌跡を残す。
ナイフと包丁が交互に繰り出される。
速い。銀色の軌跡が繋がって、いや、重なって太く見えるほどに。
受け止めている大剣から激しく火花が散る。
「っ!」
防御を突破した銀閃がデュランの体に赤い線を描く。
火花と血、二つの赤い装飾に包まれながらデュランは思った。
相手の戦法は完全に手数重視。ゆえに密着状態は不利。懐に入れたのがそもそもの間違いだったと。
ナンティはそれを隣で感じ取っていたが援護する余裕は無かった。
ナンティの相手は一般人にしか見えない奇妙な剣士。
されど、その腕は達人級であり、独特であった。
身のこなしはやわらかく、踊っているようにも見える。
しかしそのやわらかな動作から力強く鋭い斬撃が飛んでくる。
斬り合いでは完全に押されている。
が、ナンティは持ち前の炎魔法で粘っていた。
右手に剣、左手から炎、手数では有利であるはずだったが、敵は炎を踊るようにかいくぐって斬撃を叩き込んできていた。
そして苦戦しているのはデュランとナンティだけでは無かった。
周りの兵士達も同じであった。
橋の上の全員がずるずると後方へと押されていた。
だからある兵士が思わず声を上げた。
「なんだよこいつらは!? まるで――っ!」
まるで、その先を兵士は言葉にしなかった。
まるで魔王軍の精鋭のようだ、それを強く意識してはいけない、そう思ったからだ。
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