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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十七話 地獄の最後尾(10)

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   ◆◆◆

 我々は人間よりもはるかに寿命が長かった。
 脳も大きく、記憶容量もはるかに多かった。
 ゆえに、我が一族は人間が賢者と呼ぶ存在をはるかに超えるほどの知識を有するようになった。
 しかしその知識を同族と共有しようとは思わなかった。最初は。
 知ることで不幸になってしまうことをよく知っているからだ。
 だが、人間界への進出が軌道に乗ったことで事情が変わった。
 我々は皆を地上に招きたくなった。皆と共に地上で暮らしたくなった。我らだけの楽園を作りたくなった。
 そのためには大量の肉体と魂が必要であった。
 数が揃えばいいというわけでは無い。『質』も重要であった。
 依代(よりしろ)となる肉体に求められる条件は一つ、優秀な感知能力者であることであった。
 我々の全ての知識を一つの人間の脳に収納することは不可能であることが、実験の結果でわかっていた。
 ゆえに、知識を相互に共有できる感知能力者の肉体でなければならない。
 本にして保存するという案もあったが、それは少数派だった。
 我々の知識が人の目に映る可能性を生み出すべきでは無い、我々の多くはそう考えていた。
 そして気付いた。我々にも人間と同じ感情があることを。
 それは信仰心。
 我々は知識というものに信仰を抱いていた。
 知識を蓄えることだけが神という存在に近づくことができる唯一の手段、我々はそう考えるようになった。
 優秀な肉体を手に入れて血を繋ぎ、静かに、そして穏やかに神への階段を上る。それが我々の望み。
 我々はその望みを叶えるために行動を開始した。
 それからしばらくすると、我が一族は同胞達から『深き一族』と呼ばれるようになった。
 単純に見識が深いからであったが、我々の故郷ともかみ合っているゆえに、我々はその呼び方をとても気に入っている。
 だから地上でもそう名乗るつもりだ。
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