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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十七話 地獄の最後尾(7)

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 ベアトリスは悩ましい表情を作り、しばらくしてから答えた。

「どうと言われましても……うーん……神と魂に執着してること以外は普通の人って感じでした」

 悩みながら参照された彼女の記憶からは、たしかにその通りの印象しか抱けない男であった。
 淡々と事務仕事をこなし、突飛な決断は下さない、そんな男。
 大神官という立場で無ければ目立つことすら無いような男。
 だからルイスは質問を変えることにした。

「大神官はどうやって選ばれている? 投票? 推薦? それとも世襲制か?」

 ベアトリスはその中でもっとも近いと思える答えを選んだ。

「ええと……推薦、だと思います。今の大神官は前の大神官の家族とかそういうのでは無いはずです。今の大神官は前の大神官が連れてきた人です」

 これは予想通りの答えだった。
 だからルイスは続けて尋ねた。

「今の大神官の身元は知ってるか? 出身とか」

 これにベアトリスは心の中で首を振った。

「わかりません」

 が、思い出したことがあったベアトリスは「でも、」と言葉を続けた。

「港町に来たばかりの時はひどい訛りがありました」
「どこの地方の訛りかわかるか?」
「すいません、そこまでは……」

 それ以上ベアトリスから得られる情報は無いようであった。
 しかしルイスは一つ確かなことを得ていた。
 自分の中にある違和感が間違いでは無いことだ。
 最初におかしいと思ったのは展開の速さ。
 あれだけの魂を短期間で展開するには相当の準備がいる。
 しかしその準備に誰も気付けなかった。アリスやナチャですら、だ。
 扱うものが大きくなるほどに目立ちやすくなる、それは全てにおいて言えることだ。
 港町の神官達だけではそんな展開力は無い。ありえない。
 そしてアルフレッドとアリスはその動きをずっと監視していたが気付けなかった。
 だからおかしいのだ。
 まるで誰にも気付かれない聖域でもあるかのよう。
 大神官はその聖域から送り込まれたのでは? そう思える。
 そんな秘密の場所があるとしたら、やはり森の中だろうか。
 山の上という可能性もある。
 そこまで考えた直後、ルイスは今の心境を言葉にした。

(わからないことが多すぎるな)

 全体の状況を一言で表せば、敵の兵站線がどう繋がっているのかわからないということだ。
 そして敵の侵略速度に対して五分以上の反撃速度が必要となる。
 港町が敵の本拠地かどうかすら怪しい。拠点の一つであることは間違い無いだろうが。

(だが、とりあえずは、) 

 南を目指すこと自体は間違っていないはずだ。まずは南の敵を迎え撃ち、制圧する。ルイスはそう結論づけて思考を中断させた。
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