上 下
187 / 545
第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十七話 地獄の最後尾(4)

しおりを挟む

   ◆◆◆

 デュラン達は無事に敵の狂気に満ちた猛攻をしのぎ、そして振り切った。
 が、

「……マジかよ」

 既に同じ狂気に包まれていた街を前に、兵士の一人は絶望の声を漏らした。
 自分達が戦っている間に相手は別働隊を回りこませていたのだ。
 二階建て以上の物件が所狭しと立ち並ぶ都市といっていいその街からは、あちこちから悲鳴が上がっていた。
 その恐怖と混沌を前に、別の兵士は尋ねた。

「……どうする?」
「……っ」

 隊長は答えなかった。即答できなかった。
 だから兵士達は次々と声を上げた。

「逃げるしかねえだろ!」
「でもどこに?」
「北に戻ってこのことを知らせるべきだろう」

 直後、フレディが口を開いた。

「それは必要無い。俺の仲間がもう向かってる」

 フレディは「それに」と言葉を繋げた。

「ルイス司令官はこれを予想していた。だから本隊もきっと出陣してる」

 おそらく魔王の脱走は部隊を出撃させるための自作自演、フレディはそう確信していたが、その思いは言葉にしなかった。

「「「……」」」

 フレディの言葉に兵士達は選択肢を失ったが、

「でも、仮に本隊がこっちに向かってきてるとしても、いつ到着するんだよ?」

 言葉に「きっと」をつけたことが仇になった。
 逃げたいという気持ちは揺るいでいなかった。
 しかし直後、その気持ちに対してデュランが口を開いた。

「……この規模の街でならば、これだけ家屋が密集しているのであれば戦う手段はある」

 これに隊長が反応した。

「遮蔽物を利用した接近戦か?」

 デュランは頷きを返したが、その頷きに兵士達の多くは賛同できなかった。
 そしてそれは隊長も例外では無かった。
 なぜなら――単純なその答えを兵士の一人が声に出した。

「俺達だけではどうにもならないだろ、これは」

 これにデュランは反論した。

「勝つ必要は無い。いや、これは勝てない。だが、俺達だけでも時間稼ぎはできる」

 デュランがそう言った直後、街から違う音が響いた。
 それは戦闘音に聞こえた。
 気勢のような声も聞こえる。
 これに兵士は口を開いた。

「戦ってるやつらがいるぞ!」
「自警団か?」

 その戦闘音は悲鳴と比べれば小さなものであったが、直後に響いた新たな声に皆の心は揺れた。
 それは明らかに避難誘導であった。

「間違い無い! 住民を逃がしてるやつがいる!」

 自分達以外にも戦えるやつらがいる、戦ってるやつらがいる、その事実は直後に勇気に変わった。
 隊長はその勇気が揺らぐ前に声を上げた。

「総員近接戦闘準備! 我らも加勢するぞ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

アラロワ おぼろ世界の学園譚

水本茱萸
SF
——目覚めたら、すべてが「おぼろげ」な世界—— ある日を境に、生徒たちは気づく。自分たちの記憶が「二重」に重なり合っていることに。前の世界の記憶と、今の世界の記憶。しかし、その記憶は完全なものではなく、断片的で曖昧で「おぼろげ」なものだった。 謎の存在「管理者」により、失われた世界から転生した彼らを待っていたのは、不安定な現実。そこでは街並みが変わり、人々の繋がりが揺らぎ、時には大切な人の存在さえも「おぼろげ」になっていく。 「前の世界」での記憶に苦しむ者、現実から目を背ける者、真実を追い求める者——。様々な想いを抱えながら、彼らの高校生活が始まる。これは、世界の片隅で紡がれる、いつか明晰となる青春の群像劇。 ◎他サイトにも同時掲載中です。

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...