Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十五話 一つの象徴の終わり(5)

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 だからサイラスはその揺らめく右手で腰にある剣を握った。
 魔力を流し込みながらゆっくりと引き抜く。
 光魔法の銀色に輝く刀身が顔を覗かせ始める。
 サイラスはその輝きに装飾をほどこし始めた。
 揺らめく右手から伸びた糸が刀身に伸び、からみつく。
 イメージはもう決まっていた。
 それはバラ。
 糸とトゲという単純で作りやすい形であり、かつ攻撃的。
 しかしこれだけでは甘い。
 だからサイラスはそのトゲに工夫を加えた。
 それは釣り針の形。内部で引っかかる「返し」がついた凶悪な形。
 だがまだ足りない、これではまだ弱い、サイラスはそう思った。
 直後に湧き上がったのは一つのイメージ。
 それは先ほどルイスが見せたものでもあった。
 大量の毒針がついている糸、クラゲの触手のような。
 そのイメージをもとに図面は書き直された。
 命令が飛び、共有され、死神達が部品を作りだす。
 そして作業が終わった死神達はいまだ鞘から引き抜かれている途中の刀身に次々と集まり始めた。
 まるで銀色の輝きに吸い込まれるように。
 渦を描きながらバラバラになり、己も部品の一部となる。
 渦が刀身に巻きつき、一束の銀色の糸となる。
 そしてサイラスは動作を加速させ、刃を一気に引き抜いた。
 勢いのまま上段に振り上げ、確認のために見上げる。
 それはイメージ通りの仕上がりであった。
 銀色の鎖が巻きついたかのような剣。
 鎖の形はいびつであり、生々しい。
 よく見れば、数えきれないほどの小さな針が全体に生えている。
 サイラスはその毒々しい凶悪な刃を見せ付けるように、上段にかかげ続けた。
 サイラス自身も少し見とれていた。
 だが直後、水を差す言葉が前から響いた。

「やれるのかサイラス?!」

 ルイスのその声には二つの思いが含まれていた。
 そんな不安定さで大丈夫か、という思い。
 そしてもう一つは言葉通りの思い。やれるのか、ならば共に来い、そんな思い。
 その思いに応えようとサイラスは口を開いた。
 しかしその口から即座に言葉は出なかった。
 やってみる、思わずこぼれそうになったその言葉をサイラスは飲み込んでいた。
 そんな弱気でどうする、そう思ったゆえにサイラスは言葉を変えて言い直した。

「心配は無用! やってやるさ!」

 見せてやる、そんな思いを響かせながらサイラスは地を蹴った。
 その突進に、敵銃兵達が照準を合わせる。
 が、サイラスは大きな回避行動を取らなかった。
 軸ずらしに見える小さなステップ。
 だが、簡単に修正して狙いなおせる動き。
 されど問題は無かった。
 ルイスから「ここに来い」という指示があったからだ。
 直後、サイラスの目の前に大盾を構えたルイスが割り込んだ。
 同時に銃声が響き、大盾から火花が散る。
 その金属音と共にルイスの心の声が響いた。

「この大盾では何度も受けられない。攻めて押し切るぞ」と。

 言いながらルイスは地を蹴り、「私は右をやる」と付け加えた。
 一瞬遅れてサイラスが左に地を蹴る。
 そしてルイスは手本を見せた。
 右手を突き出し、大量の小さなムカデを放つ。
 滑空しながら飛びついて頭に噛み付き、または地を這って足にからみつく。
 その一撃だけでルイスの正面は虫の惨劇に包まれた。
 サイラスが担当する左側のほとんどまで蹂躙。
 直後にサイラスは撃ち漏らしのような残りものに長剣を振り下ろした。
 斬撃と共に触手が振るわれ、敵にからみつく。
 その神経攻撃によって硬直したところに十字を描くように横一閃。
 縦横に裂かれた体から赤色が派手に噴出す。
 見た目の鮮やかさではサイラスのほうが上であったが、戦果という点ではルイスの圧勝であった。
 だからサイラスはルイスの攻撃をよく感じ取っていた。
 自分に何が足りないのかを探していた。
 分かりやすい部分が一つあった。
 ルイスはナチャとかいう化け物と作業を分担しているのだ。
 体の操縦は全てルイスがやっているが、攻撃に関してはルイスは狙いを定めているだけで、ムカデの操縦はナチャがやっている。
 自分もそうするべきだろう。ルイスがやっているような広範囲攻撃をマネするなら絶対にそうしたほうがいい。
 しかしこれは今後の課題。いまはそれよりも重視すべきことが他にある。
 サイラスがそこまで考えた瞬間、

「!」

 狙われている、それを感じ取ったサイラスは反射的に斬った敵兵の体を掴んだ。
 直後に銃声が響き、肉の盾に重い衝撃が何発も重なる。

「っ!」

 そのうちの一発が貫通し、サイラスの体を撫でながら削った。
 この盾は頼りにならない、そう思ったのと同時に気付いた。
 ルイスが自分を守るように、かばうように立ち回っていることに。
 これではダメだ、アレがいる、そう思ったサイラスは声を上げた。

「デュラン!」

 その呼び声に、後方の乱戦で大立ち回りをしているデュランは即座に反応した。
 目の前の敵を両断し、安全を確保すると同時にデュランはサイラスのほうに向き直り、

「受け取れ!」

 左手にある大盾を豪快に投げた。
 その声が響いたのとほぼ同時に、サイラスが大盾の落下地点に向かって踏み込む。
 全身に銃口が向けられるのを感じる。全身がひりつく。
 しかし右側の感覚についてはサイラスは無視した。
 なぜなら、

「任せろ」

 ルイスが守ってくれるからだ。
 左からの銃撃を頼りない肉の盾で受けしのぎつつ、頭から突っ込むように前に飛び込む。
 直後、サイラスの目の前の地面に、勢いよく飛んできた大盾が突き刺さった。
 滑空しながら左手で掴み、そのまま前転の動作に移行。
 転がりながら体をひねり、回転の軌道を真横に変えながら長剣を一閃。
 長い髪の毛を振り回したかのように、剣先から伸びた糸の束が敵兵の体を撫でる。
 しかしその糸はさらなる改良が加えられていた。
 その効果は直後に目に明らかになった。

「「「っ!」」」

 敵兵達の体に紫電が走る。
 電撃魔法の糸まで練りこんだ合わせ技。
 完全に拘束した、それを感じ取ったサイラスは、

「今だ!」

 声を上げ、

「承知した!」

 ルイスはその声に応えてムカデを放った。
 動けなくなった哀れな標的だけで無く、その後方にいる者まで食らい尽くす。
 しかしこの時、意外なところからルイスを狙う射手がいた。
 その射手は直後に引き金を引き、銃声を響かせた。
 その銃声は食われた者の真後ろから響いた。
 明らかに射線が通っていない。
 しかしその者は知っていた。近距離かつ骨の隙間を通せば銃弾を貫通させられることを。
 そしてその者は目の前の者が生きていても撃つことが出来る残酷さも備えていた。
 そうして放たれた弾丸は狙い通り腹部を貫通し、ルイスの腹に迫ったが、

「甘い!」

 その弾丸は銃声と同時に響いたサイラスの叫びと共に止められた。
 その的確な援護に、ルイスだけでなく後ろに並んでいる仲間達も勢いづく。
 ゆえに一人の兵士がその勢いのままに叫んだ。

「いいぞ、押せ押せーっ!」

 それはルイスとサイラスの活躍に対しての声であったが、周囲にいる銃兵達の心にも響いた。
 感情が伝播し、別の者が声を上げる。

「反撃を許すな! 撃ちまくれ!」

 気付けば、得体の知れない異形を相手にしているという感覚はみなの心から消えていた。
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