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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十四話 奇妙な再戦(12)
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その言葉と共に死者達は一斉にオレグに向かって襲い掛かった。
それはまるで恐怖の小説にありそうな光景であった。
生者の暖かな血肉を求めて群がっているかのよう。
しかし、
「むん!」
気勢と共に振るわれた大盾に、死者の群れは一斉に吹き飛ばされた。
死者は愚鈍。恐怖で相手の心を縛っていなければ五分にもならない。
だが、相手を強制的に動かすという仕事は簡単にできる。既に証明された。
盾を大きく振ったせいでオレグの胸元が大きく開いている。
そこに向かって踏み込みながらサイラスは心の声を響かせた。
この数の有利にさらに自分のあの能力が加われば! と。
その呼び声にもう一人の自分は即座に応えた。
直後、
「っ!」
オレグは動揺した。
踏み込んできたサイラスが死者を盾にするように影に隠れたからだ。
相手の構えが見えない。思考も読めない。次の手が予測不能。
右から飛び出してくる!? それとも左から?!
わからない。ゆえにオレグは少し距離を取ろうとしたが、
「!?」
繰り出された攻撃はそのどちらでも無かった。
突然死体が加速して体当たりを仕掛けてきた、そう見えた。
違う! すぐにオレグは気付いた。
サイラスが後ろから突き飛ばしたのだ。
だが、
(この程度!)
この程度の速度の体当たりなど効かぬ! 揺るぎもしない! オレグはそんな心の声を響かせて受け止めようとした。
しかしそれが間違いであったことは、
「ぐっ!?」
直後に走った痛みで気付かされた。
見ると、自分の腹にサイラスの長剣が刺さっていた。
その刃は目の前にいる死体の胸から飛び出していた。
サイラスが背後から串刺しにしたのだ。
弱い部分を狙われた、剣先が貫通している、ねじこまれる、それらの言葉が同時に一斉に脳裏に走った。
だからオレグは思わず光る左手で刃を掴んだ。
そうするだろうとサイラスは読んでいた。
ゆえに、次の瞬間、
「っ!」
オレグの手に電流が走った。
紫電によって肩までの筋肉が硬直する。
その隙を突いて左右から死体が飛び掛ってくる。
瞬間、
(破ッ!)
オレグは腕の中で星を爆発させてその拘束に抗った。
左手から防御魔法を展開して目の前にいる死体を突き飛ばし、続けて右手の盾を大きく振って左右からの死体をなぎ払う。
「?!」
その感触にオレグは動揺した。
手ごたえが一人分足りない、そう思えた。
その感覚が正しいことは直後に明らかになった。
突き飛ばした死体の後ろに誰もいない。長剣を誰も握っていない。
やつはどこに?!
拘束演算による緩慢な時間の中で探す。
そしてオレグは一つの異音を見つけた。
それは真下から響いていた。
その音からオレグは自分の真下で何が起きているかを解析し、それを心の声にした。
(股下を!?)
突き飛ばしと同時に股下に滑り込んだ?!
その心の声を響かせた直後、
「ぐっ!」
今度は両足に痛みが走った。
先ほど経験したばかりの痛み。
だが鈍い。電流のほとんどは全身鎧の金属装甲のほうに流れてしまっていた。
だからオレグは星を爆発させるまでも無く、反撃することができた。
振り返りながら、大盾を下段に振るう。
鈍い音と共に手ごたえが伝わる。
瞬間、
「っ!」
その手ごたえとほぼ同時に銃声が響いた。
そして振り返ったオレグは見た。
防御魔法と共に吹き飛ぶサイラスが右手に何かを構えているのを。
それは腰にぶらさげていた銃だった。
そしてその銃口から発射された弾丸は右膝に直撃していた。
「……っ!」
踏ん張れない。自然と下半身が崩れる。
膝をついたオレグに四方から死体が群がり、抱きつく。
まるで恐怖小説の一ページのよう。
されどオレグはその恐怖のシーンを、
「うっとうしいぞ!」
大盾を振り回し、豪快に破り払った。
まるで娯楽小説の一シーンのように、死体が四方に吹き飛ぶ。
その豪快さに色を添えるように、
「でぇやっ!」
もう一人の豪の者であるデュランが直後に切りかかった。
デュランの思考と動きは感じ取れていた。オレグは即座に反応していた。
迎撃に振るった大盾が振り下ろされた大剣とぶつかり合う。
やはり我が有利、手ごたえから感じ取ったオレグはそのままデュランを押し倒そうとした。
が、直後に割り込んできた二体の死体が大盾と腕にしがみついた。
押し合いが有利から五分に一変する。
さらに左足にもう一人しがみつき、五分の均衡が崩れ始める。
しかしデュランは両手持ちであるのに対し、オレグは片手持ち。
だからオレグは空いている左手で足にしがみついた死体の腕をつかみ、
「ぬおぉぁっ!」
それをもう一つの武器として振り回した。
「がっは!」
人の形をした鈍器にデュランと死体がまとめて吹き飛ばされる。
受身を取れぬまま地面に激突。
そこへ追い討ちとしてオレグが左手の死体を投げつける。
だがその追い討ちは同じ人の形をした肉の壁に食い止められた。
デュランを守るように次々と集まってくる。
そしてデュランの姿が肉の壁によって完全に隠されたのと同時に、
「っ!」
サイラスの銃撃がオレグの体に撃ちこまれた。
やはり死体を操っているあの男を先に倒さねば、そう思ったオレグはサイラスのほうに向かって地を蹴りなおした。
死体の壁が再び眼前に形成され始め、サイラスの姿がその影に隠れ始める。
死体を盾で吹き飛ばしながらその影を追う。
完全に見失うと音以外で感知する手段が無くなる。ゆえにオレグはより強く地を蹴ろうとしたが、
「っ!」
その足は再びの銃撃に止められた。
サイラスの射撃じゃ無い。方向がまったく違う。
足が止まった直後にまた銃撃。
そして気付いた。
明らかに周囲からの銃撃が激しくなってきていることに。
死体の壁も密度を増し始めている。
何が起きているのか、オレグはそれに感付いた。
が、
「残念だがもう遅い」
その感は正解だという、サイラスの声が響いた。
そしてサイラスはその姿を堂々と晒した。
それだけでは無かった。
糸の切れた人形のように死体が次々と倒れ始めたのだ。
まるで人形劇が終わったかのよう。
どうしてサイラスが死体の制御をやめたのか、その答えは一つしか無かった。
邪魔になるからだ。
何の、それは全ての死体が倒れたのと同時に明らかになった。
オレグは完全に包囲されていた。
大量の銃口がオレグに向けられていた。
そして目の前にいるサイラスは口を開いた。
「これで詰み。お前の負けだ」
あの時と同じだった。
魔王が敗れたあの時と。
かばってくれる味方がいなくなり、そして魔王は銃弾の雨に倒れた。
今のオレグも同じ状況に立たされていた。
それはまるで恐怖の小説にありそうな光景であった。
生者の暖かな血肉を求めて群がっているかのよう。
しかし、
「むん!」
気勢と共に振るわれた大盾に、死者の群れは一斉に吹き飛ばされた。
死者は愚鈍。恐怖で相手の心を縛っていなければ五分にもならない。
だが、相手を強制的に動かすという仕事は簡単にできる。既に証明された。
盾を大きく振ったせいでオレグの胸元が大きく開いている。
そこに向かって踏み込みながらサイラスは心の声を響かせた。
この数の有利にさらに自分のあの能力が加われば! と。
その呼び声にもう一人の自分は即座に応えた。
直後、
「っ!」
オレグは動揺した。
踏み込んできたサイラスが死者を盾にするように影に隠れたからだ。
相手の構えが見えない。思考も読めない。次の手が予測不能。
右から飛び出してくる!? それとも左から?!
わからない。ゆえにオレグは少し距離を取ろうとしたが、
「!?」
繰り出された攻撃はそのどちらでも無かった。
突然死体が加速して体当たりを仕掛けてきた、そう見えた。
違う! すぐにオレグは気付いた。
サイラスが後ろから突き飛ばしたのだ。
だが、
(この程度!)
この程度の速度の体当たりなど効かぬ! 揺るぎもしない! オレグはそんな心の声を響かせて受け止めようとした。
しかしそれが間違いであったことは、
「ぐっ!?」
直後に走った痛みで気付かされた。
見ると、自分の腹にサイラスの長剣が刺さっていた。
その刃は目の前にいる死体の胸から飛び出していた。
サイラスが背後から串刺しにしたのだ。
弱い部分を狙われた、剣先が貫通している、ねじこまれる、それらの言葉が同時に一斉に脳裏に走った。
だからオレグは思わず光る左手で刃を掴んだ。
そうするだろうとサイラスは読んでいた。
ゆえに、次の瞬間、
「っ!」
オレグの手に電流が走った。
紫電によって肩までの筋肉が硬直する。
その隙を突いて左右から死体が飛び掛ってくる。
瞬間、
(破ッ!)
オレグは腕の中で星を爆発させてその拘束に抗った。
左手から防御魔法を展開して目の前にいる死体を突き飛ばし、続けて右手の盾を大きく振って左右からの死体をなぎ払う。
「?!」
その感触にオレグは動揺した。
手ごたえが一人分足りない、そう思えた。
その感覚が正しいことは直後に明らかになった。
突き飛ばした死体の後ろに誰もいない。長剣を誰も握っていない。
やつはどこに?!
拘束演算による緩慢な時間の中で探す。
そしてオレグは一つの異音を見つけた。
それは真下から響いていた。
その音からオレグは自分の真下で何が起きているかを解析し、それを心の声にした。
(股下を!?)
突き飛ばしと同時に股下に滑り込んだ?!
その心の声を響かせた直後、
「ぐっ!」
今度は両足に痛みが走った。
先ほど経験したばかりの痛み。
だが鈍い。電流のほとんどは全身鎧の金属装甲のほうに流れてしまっていた。
だからオレグは星を爆発させるまでも無く、反撃することができた。
振り返りながら、大盾を下段に振るう。
鈍い音と共に手ごたえが伝わる。
瞬間、
「っ!」
その手ごたえとほぼ同時に銃声が響いた。
そして振り返ったオレグは見た。
防御魔法と共に吹き飛ぶサイラスが右手に何かを構えているのを。
それは腰にぶらさげていた銃だった。
そしてその銃口から発射された弾丸は右膝に直撃していた。
「……っ!」
踏ん張れない。自然と下半身が崩れる。
膝をついたオレグに四方から死体が群がり、抱きつく。
まるで恐怖小説の一ページのよう。
されどオレグはその恐怖のシーンを、
「うっとうしいぞ!」
大盾を振り回し、豪快に破り払った。
まるで娯楽小説の一シーンのように、死体が四方に吹き飛ぶ。
その豪快さに色を添えるように、
「でぇやっ!」
もう一人の豪の者であるデュランが直後に切りかかった。
デュランの思考と動きは感じ取れていた。オレグは即座に反応していた。
迎撃に振るった大盾が振り下ろされた大剣とぶつかり合う。
やはり我が有利、手ごたえから感じ取ったオレグはそのままデュランを押し倒そうとした。
が、直後に割り込んできた二体の死体が大盾と腕にしがみついた。
押し合いが有利から五分に一変する。
さらに左足にもう一人しがみつき、五分の均衡が崩れ始める。
しかしデュランは両手持ちであるのに対し、オレグは片手持ち。
だからオレグは空いている左手で足にしがみついた死体の腕をつかみ、
「ぬおぉぁっ!」
それをもう一つの武器として振り回した。
「がっは!」
人の形をした鈍器にデュランと死体がまとめて吹き飛ばされる。
受身を取れぬまま地面に激突。
そこへ追い討ちとしてオレグが左手の死体を投げつける。
だがその追い討ちは同じ人の形をした肉の壁に食い止められた。
デュランを守るように次々と集まってくる。
そしてデュランの姿が肉の壁によって完全に隠されたのと同時に、
「っ!」
サイラスの銃撃がオレグの体に撃ちこまれた。
やはり死体を操っているあの男を先に倒さねば、そう思ったオレグはサイラスのほうに向かって地を蹴りなおした。
死体の壁が再び眼前に形成され始め、サイラスの姿がその影に隠れ始める。
死体を盾で吹き飛ばしながらその影を追う。
完全に見失うと音以外で感知する手段が無くなる。ゆえにオレグはより強く地を蹴ろうとしたが、
「っ!」
その足は再びの銃撃に止められた。
サイラスの射撃じゃ無い。方向がまったく違う。
足が止まった直後にまた銃撃。
そして気付いた。
明らかに周囲からの銃撃が激しくなってきていることに。
死体の壁も密度を増し始めている。
何が起きているのか、オレグはそれに感付いた。
が、
「残念だがもう遅い」
その感は正解だという、サイラスの声が響いた。
そしてサイラスはその姿を堂々と晒した。
それだけでは無かった。
糸の切れた人形のように死体が次々と倒れ始めたのだ。
まるで人形劇が終わったかのよう。
どうしてサイラスが死体の制御をやめたのか、その答えは一つしか無かった。
邪魔になるからだ。
何の、それは全ての死体が倒れたのと同時に明らかになった。
オレグは完全に包囲されていた。
大量の銃口がオレグに向けられていた。
そして目の前にいるサイラスは口を開いた。
「これで詰み。お前の負けだ」
あの時と同じだった。
魔王が敗れたあの時と。
かばってくれる味方がいなくなり、そして魔王は銃弾の雨に倒れた。
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