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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十四話 奇妙な再戦(6)

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 しかし直後、その声の発生位置を目標にして別の魔の戦士が地を蹴った。
 別方向から別の狙撃主を狙って大きく跳躍。
 その魔の戦士は有利な乱戦になっても盾を捨てていなかった。
 狙撃主の頭蓋めがけて大盾を振り上げる。
 瞬間、魔の戦士の目の前に、狙撃主をかばうように一つの影が割り込んだ。
 それはナンティ。
 狙いをナンティの頭蓋に切り替え、振り下ろす。
 対し、ナンティは輝く左手を振り上げた。
 その手から生まれた同じ輝きの光の傘が大盾とぶつかり合う。
 一瞬の硬直。
 二つの思考が刹那で交錯し、二人は同時に動いた。
 それは速さ比べ。
 魔の戦士は盾の横から光る爪を。
 対し、ナンティは繰り出されるその爪に向かって右手の銃を構えた。
 魔の戦士の爪が光の傘を貫き、銃身に向かって伸びる。
 そしてその爪先が銃口に触れた瞬間、ナンティの指は引き金を引ききった。
 銃声と共に魔の戦士の指がちぎれ飛び、左肩に風穴を開ける。
 その衝撃に、魔の戦士は構えを崩した。
 今だ、そう思ったナンティは風穴が赤い蛇口に変わったのと同時に踏み込んだ。
 魔の戦士は大盾の影に隠れるように空中で姿勢を制御。
 しかしナンティの踏み込みのほうが速い。

(もらった!)

 そしてナンティは心の気勢を響かせながら銃剣を繰り出した。
 刃が深々と魔の戦士の胸に突き刺さる。
 胸骨の隙間を縫って心臓まで入った感触。
 仕留めた、そう思った。
 が、

「!」

 直後、魔の戦士が残った数本の指で銃身を握り締めたのと同時に、ナンティの背中に悪寒が走った。
 まだ動ける?! 相討ち狙い!? 焦りの色が滲んだ心の声をナンティが響かせたのを合図に二人は動いた。
 魔の戦士が右手の大盾を投げ捨て、同じくナンティが拘束された右手の銃を手放す。
 そして二人は同時にその右手を輝かせた。
 再びの意識の交錯。
 この時、ナンティは自ら後手を選んだ。
 先手を譲り受けた魔の戦士が光る右爪を繰り出す。
 これをナンティは伏せるように身を屈めて避けながら、腰の得物に光る右手をかけた。
 それは肉切り包丁のような長いナタ。
 森での生活で使っていたもの。
 銃剣があるのだから武器としては必要無い。
 それでも使い道はある、なによりも慣れた得物だから持っているだけで安心する、そんな理由でナンティはぶらさげていた。
 そしてナンティがその柄を握り締めた瞬間、その手の輝きは色を変えた。
 白から赤に転じたと同時に抜刀一閃。
 炎を纏った刃が振り上げられる。
 ナンティ自身も少し浮き上がる勢いの振り上げ。
 狙いはアゴ。
 勢いのままアゴ下から刃を頭蓋の中までねじ込む。アゴで引っ掛った場合は首にねじこみ、気道を中から焼く。
 そのつもりだったが、

「っ!」

 その刃は胸に突き刺さった。
 自ら体を前に倒した!? 骨で止められた?! 気付いたと同時にナンティは攻撃の手を切り替えた。
 手首を捻り、胸の中に刃をねじ込む。
 剣先が肺に入った、その感触を感じたと同時にナンティは魔力を一気に流し込んだ。
 刀身が激しく燃え盛り、傷口からあふれ出す。
 全てを焼き焦がしながら燃え上がり、戦士の口から噴出する。
 今度こそ仕留めた、ナンティはそう思った。
 が、

「!?」

 敵の戦意が消えていないのを、反撃が来ることをナンティは感じ取った。
 まだ動けるのか?! 三度目のその事実に気付けたが、次の迎撃手段は浮かばなかった。
 マズい! ナンティの焦りが頂点に達する。
 直後、

「!」

 一つの銃声と同時に、戦士の首は奇妙に折れ曲がった。
 見ると、その側頭部には穴が開いていた。蛇口から赤い蛇が伸び始めていた。
 誰が? それに気付くのにも時間はかからなかった。
 だからナンティはフレディの方に振り返りながら口を開いた。

「ありがとう、たすか――」

 が、お礼の言葉を述べている場合では無かった。
 だからナンティはそれを叫んだ。

「後ろだ!」

 それは今にもフレディに向かって飛びかかろうとしていた。
 しかしこの時すでに、フレディは次の弾の装填をほぼ完了していた。
 だからフレディは焦ること無く振り返り、

「ぐっ!?」

 飛びかかってきた魔の戦士の額にお見舞いした。
 ただの体当たりになった死体の飛びかかりを避けながら、フレディは見た。
 その胸に穴が開いているのを。
 こいつは俺が倒したやつか? 確信は得られなかったが、一つ分かったことがあった。

「しぶといな」

 思わずフレディは呟き、そのしぶとさを心の声にして確認した。
 こいつらは胸に穴が開いても倒れない。意識が途絶えるまで戦おうとする。
 貫通率を下げるために胴体を狙っているのが仇になっている。
 ならば認識を改める必要がある、そう思ったフレディは声を上げた。

「虫からの戦闘不能報告を信じすぎるな! 狙えるなら頭を狙え!」

 叫びながら装填し、叫び終えると同時に発射。
 その銃声が響き終わるのを待ってから、一人の狙撃主は口を開いた。

「フレディ! 移動したほうがいいんじゃないか?!」

 その理由を別の狙撃主が答えた。

「オレグの勢いが止まらない! 総大将のほうにどんどん近づいてる!」

 言われてフレディはもう一つのことに気付いた。
 サイラスの気配が近くに無いのだ。
 どこに? それはすぐに見つかった。見当がついていた。
 やはりオレグに迫っている。
 しかし食い止められている。こっちよりも激しい乱戦の中に身を置いている。
 だからフレディはナンティに向かって叫んだ。

「ナンティ、デュラン! 俺達は大丈夫だ! サイラス様の援護に向かってくれ!」

 俺達も良い狙撃位置を探しながら移動する、その思いを含んだ言葉を受け取ったナンティとデュランは「「わかった」」と頷くと同時に走り出した。
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