141 / 545
第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十三話 女王再臨(5)
しおりを挟む
サイラスがそう尋ねた直後、ノックの音が部屋に響いた。
「どうぞ」
ルイスがサイラスの代わりに答えるとドアが開き、一人の女性が一礼と共に部屋に入ってきた。
その女性は玄関で二人を出迎えた女性であった。
女性はお茶と菓子を乗せたトレイをテーブルの上に置き、ルイスに向かって尋ねた。
「何か話し込んでいるようですが、大きな問題でも?」
ルイスは首を振った。
「いいや、大きくは無い」
「そうですか。では失礼します」
女性はルイスとそんな淡白な応答をしたのち、再びの一礼と共に部屋から出て行った。
ドア越しに足音が廊下から響く。
その音が遠ざかってからサイラスは尋ねた。
「質問が二つになってすまないが、彼女達はどういう連中、いや、どういう組織なんだ?」
ルイスはこの土地独特の菓子とお茶をそれぞれ一口含んでから口を開いた。
「王族だという答えだけでは不満か。ちょうどいい。ならばもう少し深く話してやろう。アリスの存在理由についての説明にもなるからな」
ルイスは椅子に腰をおろし、お茶で舌を湿らせながら語り始めた。
「もとは王族というよりも、秘密の集まりという感じだった」
それは期待感を煽る始まり方であった。
「彼らの故郷は豊かな草原が広がるのどかな土地であり、彼らの祖先はそこで放牧をして穏やかに暮らしていた。だから当時は戦いとは無縁だった。だったが、当時から優れた魔法使いと感知能力者が多く生まれていた。そういう血筋なんだろう」
戦いの無い土地に強者が多く生まれていた、大きなことが起きる切欠は大昔に既に出来上がっていたようだ。
サイラスがそんなことを思いながら「ふむ」と相槌を打つと、ルイスは再び口を開いた。
「そういう強者達が村の長をしていた。そして村の長達はときどき集まって宴会を開いていた。それが始まりだ。戦いとは無縁だったが、彼らは強さに憧れていた。だから自分の村で生まれた強い魔法使いや感知能力者を見せびらかしあっていた」
村の代表で行われる秘密の自慢大会、よくありそうな話だ、サイラスはそう思いながらルイスの次の言葉に耳を傾けた。
「強さへの憧れは信仰心のようなものに変わっていった。そしてその集まりの秘匿性が薄れ、村同士の繋がりを強めるための集会にその意味を変え始めた頃、すべての始まりとなるある人物が生まれた」
少し長い前振りだったが、ようやく本編に入ったか、サイラスは期待感を戻しながら話に集中した。
「その者は圧倒的だった。強者の集まりの中でも飛びぬけているほどに。ゆえに、当時の長達は神の生まれ変わりとしてその者を崇めた。ゆえにその者は自然と組織の中心人物となった」
ルイスは乾いた舌を湿らすついでに、お茶を飲みながら次に言うべき内容を整理して口を開いた。
「歴史上ではその時が一番目立っている。一時的ではあったが、その象徴性と求心力で領土を大きく拡大した。危険視されたのか、周辺国から戦争を仕掛けられてもいるな。当時は強力な騎馬隊が草原を駆け回っていたそうだ。今ではその名残すら残ってないがな」
この話に質問をすれば壮大な英雄譚が聞けそうだな、サイラスはそう思ったが、より強い好奇心が別のところにあった。
ルイスもそれをわかっていた。ゆえにルイスは続きを語った。
「しかしいくら強くとも老化にはあらがえなかった。その者は死に抗おうと知恵を絞り始め、崇める者達もそれに協力するようになった。そして彼らは至極平凡で残酷な答えに辿り着いた」
その答えがなんなのかは簡単に予想がついた。
そしてルイスは直後に予想通りの言葉を述べた。
「単純さ。永遠の命だよ。多くの権力者や富裕層が夢見る、平凡なよくある望み。彼らはそれを実現するために考え、一つの答えを出した。それがなんなのかは言うまでも無いな?」
これにサイラスが頷きを返すと、ルイスは言葉を続けた。
「しかし一つ大きな問題があった。虫を使えば人格を写すことが出来ることはわかっていたが、大工の存在を彼らは知らなかった。感じ取れるものもいなかった」
「どうぞ」
ルイスがサイラスの代わりに答えるとドアが開き、一人の女性が一礼と共に部屋に入ってきた。
その女性は玄関で二人を出迎えた女性であった。
女性はお茶と菓子を乗せたトレイをテーブルの上に置き、ルイスに向かって尋ねた。
「何か話し込んでいるようですが、大きな問題でも?」
ルイスは首を振った。
「いいや、大きくは無い」
「そうですか。では失礼します」
女性はルイスとそんな淡白な応答をしたのち、再びの一礼と共に部屋から出て行った。
ドア越しに足音が廊下から響く。
その音が遠ざかってからサイラスは尋ねた。
「質問が二つになってすまないが、彼女達はどういう連中、いや、どういう組織なんだ?」
ルイスはこの土地独特の菓子とお茶をそれぞれ一口含んでから口を開いた。
「王族だという答えだけでは不満か。ちょうどいい。ならばもう少し深く話してやろう。アリスの存在理由についての説明にもなるからな」
ルイスは椅子に腰をおろし、お茶で舌を湿らせながら語り始めた。
「もとは王族というよりも、秘密の集まりという感じだった」
それは期待感を煽る始まり方であった。
「彼らの故郷は豊かな草原が広がるのどかな土地であり、彼らの祖先はそこで放牧をして穏やかに暮らしていた。だから当時は戦いとは無縁だった。だったが、当時から優れた魔法使いと感知能力者が多く生まれていた。そういう血筋なんだろう」
戦いの無い土地に強者が多く生まれていた、大きなことが起きる切欠は大昔に既に出来上がっていたようだ。
サイラスがそんなことを思いながら「ふむ」と相槌を打つと、ルイスは再び口を開いた。
「そういう強者達が村の長をしていた。そして村の長達はときどき集まって宴会を開いていた。それが始まりだ。戦いとは無縁だったが、彼らは強さに憧れていた。だから自分の村で生まれた強い魔法使いや感知能力者を見せびらかしあっていた」
村の代表で行われる秘密の自慢大会、よくありそうな話だ、サイラスはそう思いながらルイスの次の言葉に耳を傾けた。
「強さへの憧れは信仰心のようなものに変わっていった。そしてその集まりの秘匿性が薄れ、村同士の繋がりを強めるための集会にその意味を変え始めた頃、すべての始まりとなるある人物が生まれた」
少し長い前振りだったが、ようやく本編に入ったか、サイラスは期待感を戻しながら話に集中した。
「その者は圧倒的だった。強者の集まりの中でも飛びぬけているほどに。ゆえに、当時の長達は神の生まれ変わりとしてその者を崇めた。ゆえにその者は自然と組織の中心人物となった」
ルイスは乾いた舌を湿らすついでに、お茶を飲みながら次に言うべき内容を整理して口を開いた。
「歴史上ではその時が一番目立っている。一時的ではあったが、その象徴性と求心力で領土を大きく拡大した。危険視されたのか、周辺国から戦争を仕掛けられてもいるな。当時は強力な騎馬隊が草原を駆け回っていたそうだ。今ではその名残すら残ってないがな」
この話に質問をすれば壮大な英雄譚が聞けそうだな、サイラスはそう思ったが、より強い好奇心が別のところにあった。
ルイスもそれをわかっていた。ゆえにルイスは続きを語った。
「しかしいくら強くとも老化にはあらがえなかった。その者は死に抗おうと知恵を絞り始め、崇める者達もそれに協力するようになった。そして彼らは至極平凡で残酷な答えに辿り着いた」
その答えがなんなのかは簡単に予想がついた。
そしてルイスは直後に予想通りの言葉を述べた。
「単純さ。永遠の命だよ。多くの権力者や富裕層が夢見る、平凡なよくある望み。彼らはそれを実現するために考え、一つの答えを出した。それがなんなのかは言うまでも無いな?」
これにサイラスが頷きを返すと、ルイスは言葉を続けた。
「しかし一つ大きな問題があった。虫を使えば人格を写すことが出来ることはわかっていたが、大工の存在を彼らは知らなかった。感じ取れるものもいなかった」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
錬金術師カレンはもう妥協しません
山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」
前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。
病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。
自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。
それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。
依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。
王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。
前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。
ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。
仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。
錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。
※小説家になろうにも投稿中。
他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~
雑木林
ファンタジー
地面に頭をぶつけた拍子に、私は前世の記憶を取り戻した。
それは、他力本願をモットーに生きていた、アラサー女の記憶だ。
現状を確認してみると、今世の私が生きているのはファンタジーな世界で、自分の身体は六歳の幼女だと判明。
しかも、社会的地位が不安定な孤児だった。
更に悪いことは重なり、今世の私には『他者への攻撃不可』という、厄介な呪いがかけられている。
人を襲う魔物、凶悪な犯罪者、国家間の戦争──様々な暴力が渦巻く異世界で、か弱い私は生きていけるのか……!?
幸いにも、魔物使いの才能があったから、そこに活路を見出したけど……私って、生まれ変わっても他力本願がモットーみたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる