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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十三話 女王再臨(5)

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 サイラスがそう尋ねた直後、ノックの音が部屋に響いた。

「どうぞ」

 ルイスがサイラスの代わりに答えるとドアが開き、一人の女性が一礼と共に部屋に入ってきた。
 その女性は玄関で二人を出迎えた女性であった。
 女性はお茶と菓子を乗せたトレイをテーブルの上に置き、ルイスに向かって尋ねた。

「何か話し込んでいるようですが、大きな問題でも?」

 ルイスは首を振った。

「いいや、大きくは無い」
「そうですか。では失礼します」

 女性はルイスとそんな淡白な応答をしたのち、再びの一礼と共に部屋から出て行った。
 ドア越しに足音が廊下から響く。
 その音が遠ざかってからサイラスは尋ねた。

「質問が二つになってすまないが、彼女達はどういう連中、いや、どういう組織なんだ?」

 ルイスはこの土地独特の菓子とお茶をそれぞれ一口含んでから口を開いた。

「王族だという答えだけでは不満か。ちょうどいい。ならばもう少し深く話してやろう。アリスの存在理由についての説明にもなるからな」

 ルイスは椅子に腰をおろし、お茶で舌を湿らせながら語り始めた。

「もとは王族というよりも、秘密の集まりという感じだった」

 それは期待感を煽る始まり方であった。

「彼らの故郷は豊かな草原が広がるのどかな土地であり、彼らの祖先はそこで放牧をして穏やかに暮らしていた。だから当時は戦いとは無縁だった。だったが、当時から優れた魔法使いと感知能力者が多く生まれていた。そういう血筋なんだろう」

 戦いの無い土地に強者が多く生まれていた、大きなことが起きる切欠は大昔に既に出来上がっていたようだ。
 サイラスがそんなことを思いながら「ふむ」と相槌を打つと、ルイスは再び口を開いた。

「そういう強者達が村の長をしていた。そして村の長達はときどき集まって宴会を開いていた。それが始まりだ。戦いとは無縁だったが、彼らは強さに憧れていた。だから自分の村で生まれた強い魔法使いや感知能力者を見せびらかしあっていた」

 村の代表で行われる秘密の自慢大会、よくありそうな話だ、サイラスはそう思いながらルイスの次の言葉に耳を傾けた。

「強さへの憧れは信仰心のようなものに変わっていった。そしてその集まりの秘匿性が薄れ、村同士の繋がりを強めるための集会にその意味を変え始めた頃、すべての始まりとなるある人物が生まれた」

 少し長い前振りだったが、ようやく本編に入ったか、サイラスは期待感を戻しながら話に集中した。

「その者は圧倒的だった。強者の集まりの中でも飛びぬけているほどに。ゆえに、当時の長達は神の生まれ変わりとしてその者を崇めた。ゆえにその者は自然と組織の中心人物となった」

 ルイスは乾いた舌を湿らすついでに、お茶を飲みながら次に言うべき内容を整理して口を開いた。

「歴史上ではその時が一番目立っている。一時的ではあったが、その象徴性と求心力で領土を大きく拡大した。危険視されたのか、周辺国から戦争を仕掛けられてもいるな。当時は強力な騎馬隊が草原を駆け回っていたそうだ。今ではその名残すら残ってないがな」

 この話に質問をすれば壮大な英雄譚が聞けそうだな、サイラスはそう思ったが、より強い好奇心が別のところにあった。
 ルイスもそれをわかっていた。ゆえにルイスは続きを語った。

「しかしいくら強くとも老化にはあらがえなかった。その者は死に抗おうと知恵を絞り始め、崇める者達もそれに協力するようになった。そして彼らは至極平凡で残酷な答えに辿り着いた」

 その答えがなんなのかは簡単に予想がついた。
 そしてルイスは直後に予想通りの言葉を述べた。

「単純さ。永遠の命だよ。多くの権力者や富裕層が夢見る、平凡なよくある望み。彼らはそれを実現するために考え、一つの答えを出した。それがなんなのかは言うまでも無いな?」

 これにサイラスが頷きを返すと、ルイスは言葉を続けた。

「しかし一つ大きな問題があった。虫を使えば人格を写すことが出来ることはわかっていたが、大工の存在を彼らは知らなかった。感じ取れるものもいなかった」
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