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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十三話 女王再臨(4)
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翌週――
「『練習』は順調か?」
ルイスはある作業をするサイラスのもとを訪ねた。
場所はあの秘密の家屋。
そこでサイラスはあることを練習していた。
サイラスはそれについて答えた。
「……どうだろうな。最初よりは出来るようになったと思うが、まだ自信はついていない。上手くなったと胸を張れる実感はまだ無い。技術を比較する相手もいないしな」
比較するとすれば、その相手は教師であるルイスということになる。
ならば胸を張れるはずも無い。
そんなサイラスの気持ちを知った上でなのか、ルイスは薄く笑いながら口を開いた。
「そんなに難しく考える必要は無い。要は、シャロンの戦闘能力が維持されればいいだけだ。それが『調整』において一番重要なことであり、他は二の次だ。そのためならば性格を少し変えてもいい」
そう言った後、ルイスは寝具の上に寝かされている者を見た。サイラスの視線もそれに釣られた。
それはシャロンだった。
十代後半の若々しい姿。
サイラスの『調整』の練習相手とは、シャロン本人であった。
毛布をかぶせられているが、その身は一糸まとわぬ姿。
ゆえにか、サイラスはすぐにシャロンから目を離して口を開いた。
「そうか……だったら問題無いと思うが、ちょっと見てくれないか? 性格の部分に異常が起きているようなんだが」
言われたルイスはシャロンに歩み寄り、頭に手を当てた。
その手が発光し、虫が放たれる。
シャロンの脳内に侵入した虫達は、異常が起きている箇所に間も無く到達し、その問題の内容と原因を突き止めた。
そしてルイスはその内容を声に出した。
「再生と破壊の痕跡があるな」
サイラスはその原因について尋ねた。
「やはり、大工の仕業なのか?」
「その可能性はあるが……」
ルイスは断言出来なかった。
大工の手によって性格がいじられる、それ自体は珍しいことでは無い。
だが、この場合ではそれは普通のことでは無かった。
再生については大工の仕業だと断言できる。
これはシャロンの体では無い。もとは別人であり、違う性格の人格があった。
それを破壊してシャロンの人格を書き込んだ。この行為に対して大工が抵抗を始めるのは珍しいことでは無い。
問題は破壊の痕跡だ。
本来はこれを破壊するのはサイラスの仕事だった。
だが、勝手に破壊されていたという。
大工が自ら再生させようとしたものを自ら壊す? そんなことがあるのだろうか。
あきらめた? 失敗した? 都合の良い解釈はいくらでもできる。
では、やはりシャロンがやったのか?
緊急時に自分を調整出来るように、ある程度の知識と技術は持たせてあるからだ。破壊するだけならば虫が使えれば誰でも出来る。
だからルイスは尋ねた。
「調整の際に、シャロンを起動させたりしたのか?」
サイラスは首を振りながら即答した。
「いいや、そんなことはしていない」
その答えに、ルイスは「そうか」と相槌を打ちながら、調査を続行した。
シャロンの部分を虫に調べさせる。
簡単な調査は間も無く終わった。
その報告内容を、ルイスは声に出した。
「シャロンが活動した形跡は無い。『新品のまま』だな」
虫は繋がって神経の代わりをすることが出来る。そもそも、神経の材料の一つは虫だ。
シャロンの人格の部分は全て虫の集合体で成り立っている。
しかし虫自体の活動限界はあまり長くない。活動させれば老いるように劣化する。栄養を与え続けても、寿命が伸びるだけだ。使い続けるのであれば定期的な交換が必要になる。
だが、このシャロンにはそれが見られない。生まれたての新品のままだ。
(ならば……)
思いつくものはあとは一つだけだった。
ルイスはそれを声に出した。
「たぶんこれは――「やっぱり『アリス』とかいうもう一人の同居人の仕業なのか?」
少し遅れてサイラスがその答えを声に出したゆえに、ルイスの言葉を遮る形になってしまった。
だが、ルイスはそれに不満を抱くことなく口を開いた。
「そうだろうな」
頷きながらそう答えたルイスに対し、サイラスはずっと抱いていた疑問をぶつけることにした。
「すまないが、その『アリス』とかいう同居人についてもう一度教えてくれないか?」
「同居人というよりは、裏方だな」
「その裏方の必要性がよくわからないんだ。その裏方は主に戦闘における人格の変更を補助していると教えられたが、それに裏方が必要なのか? シャロン本人にその技術を持たせてはダメなのか?」
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