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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十三話 女王再臨(1)
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◆◆◆
女王再臨
◆◆◆
アルフレッドとベアトリスはすぐに北を目指して進み始めた。
しかしその移動は徒歩であった。
ベアトリスが走れるほどに回復していないからだ。
ドラゴンによる攻撃はそれほどまでに強烈だったのだ。
アルフレッドが先頭に立ってナタを振るい、壁のような草を刈って道を作る。
ゆえにその進行は遅々としたものであった。
憂鬱になる遅さ。
しかもベアトリスは体が痛むのだからなおさらだ。
だからベアトリスは、
「ねえ?」
気を紛らわせるためにアルフレッドの背に声をかけた。
「うん?」
「北に行く理由はわかったけども、その古い王族の知り合いっていうのは、どんな人なの?」
「さあ? それは俺も知らないなあ。アリスなら知ってるかも」
直後、二人の心に、
(わたしも知らないわ。付き合いはとっくに切れてしまってるから。でもわたしの分身が中にいるはず。だから見ればわかる)
という、アリスの声が響いた。
その言葉に、ベアトリスは思った。本当にアテの薄い旅なんだなあ、と。
だから、
「そっかぁ……」
ベアトリスはそんな思いを滲ませた溜息のような声を漏らした。
そしてベアトリスは気分を紛らわせ続けるために、違う話題を振ることにした。
「そういえば、ちょっと気になってることがあるんだけど」
「うん?」
「わたしを助けるためにドラゴンを出したじゃない?」
「うん」
「でも、わざわざそんなことをしなくても、一個目の果実を作った時に宿り木から材料を継ぎ足して強化しておけば、それで終わってたんじゃないかな?」
その言葉にアルフレッドは立ち止まり、ベアトリスのほうに振り返って答えた。
「……言われて気づいた。その通りだと思う」
その顔には、「そんなことに気づかなかった自分はバカなのか?」という自分を卑下する思いがにじんでおり、実際それは心の声になっていた。
計算速度がいくら速くても、自分はやはりどこか抜けている、そんな自虐的な声まで響き始めた。
だからベアトリスはすかさずフォローを入れた。
「あ、でも、気にしなくていいよ! 私を助けるために全力を出してくれたってことだし、私はうれしいよ!」
「ベアトリス……ありがとう、なぐさめでも嬉しいよ」
「なぐさめなんかじゃないよ! キミが本気で助けようとしてくれたことを、わたしはちゃんと感じてたもの」
自然と二人の距離は近くなり、手を握り合っていた。
甘酸っぱい気持ちが二人の心を支配していた。
その感覚はアリスも共有していた。
だから、
(はいはい、そうね、愛ゆえの勢いってことで良いと思うわよ)
アリスは思わず疎外感のようなものに対しての不満を漏らした。
直後にアリスはそれが疎外感では無いことに気づいた。
アルフレッドのことは家族だと、息子のようなものだと思っている。
これはそれに対しての気持ちなのだと。
自分は寂しさを感じているのだと。
育てた子供が他の家に行く、それはこんな気持ちになるものなのかもしれないと、アリスは思った。
(……)
だからアリスはみっともない言葉を吐かないようにその口を閉じることにした。
女王再臨
◆◆◆
アルフレッドとベアトリスはすぐに北を目指して進み始めた。
しかしその移動は徒歩であった。
ベアトリスが走れるほどに回復していないからだ。
ドラゴンによる攻撃はそれほどまでに強烈だったのだ。
アルフレッドが先頭に立ってナタを振るい、壁のような草を刈って道を作る。
ゆえにその進行は遅々としたものであった。
憂鬱になる遅さ。
しかもベアトリスは体が痛むのだからなおさらだ。
だからベアトリスは、
「ねえ?」
気を紛らわせるためにアルフレッドの背に声をかけた。
「うん?」
「北に行く理由はわかったけども、その古い王族の知り合いっていうのは、どんな人なの?」
「さあ? それは俺も知らないなあ。アリスなら知ってるかも」
直後、二人の心に、
(わたしも知らないわ。付き合いはとっくに切れてしまってるから。でもわたしの分身が中にいるはず。だから見ればわかる)
という、アリスの声が響いた。
その言葉に、ベアトリスは思った。本当にアテの薄い旅なんだなあ、と。
だから、
「そっかぁ……」
ベアトリスはそんな思いを滲ませた溜息のような声を漏らした。
そしてベアトリスは気分を紛らわせ続けるために、違う話題を振ることにした。
「そういえば、ちょっと気になってることがあるんだけど」
「うん?」
「わたしを助けるためにドラゴンを出したじゃない?」
「うん」
「でも、わざわざそんなことをしなくても、一個目の果実を作った時に宿り木から材料を継ぎ足して強化しておけば、それで終わってたんじゃないかな?」
その言葉にアルフレッドは立ち止まり、ベアトリスのほうに振り返って答えた。
「……言われて気づいた。その通りだと思う」
その顔には、「そんなことに気づかなかった自分はバカなのか?」という自分を卑下する思いがにじんでおり、実際それは心の声になっていた。
計算速度がいくら速くても、自分はやはりどこか抜けている、そんな自虐的な声まで響き始めた。
だからベアトリスはすかさずフォローを入れた。
「あ、でも、気にしなくていいよ! 私を助けるために全力を出してくれたってことだし、私はうれしいよ!」
「ベアトリス……ありがとう、なぐさめでも嬉しいよ」
「なぐさめなんかじゃないよ! キミが本気で助けようとしてくれたことを、わたしはちゃんと感じてたもの」
自然と二人の距離は近くなり、手を握り合っていた。
甘酸っぱい気持ちが二人の心を支配していた。
その感覚はアリスも共有していた。
だから、
(はいはい、そうね、愛ゆえの勢いってことで良いと思うわよ)
アリスは思わず疎外感のようなものに対しての不満を漏らした。
直後にアリスはそれが疎外感では無いことに気づいた。
アルフレッドのことは家族だと、息子のようなものだと思っている。
これはそれに対しての気持ちなのだと。
自分は寂しさを感じているのだと。
育てた子供が他の家に行く、それはこんな気持ちになるものなのかもしれないと、アリスは思った。
(……)
だからアリスはみっともない言葉を吐かないようにその口を閉じることにした。
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