126 / 545
第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十一話 森の中の舞踏会(16)
しおりを挟む
視界が自身が放った閃光に包まれる。
白く染まって何も見えない。
膜に覆われているバークは波をほとんど出さないため、こうなるとアルフレッドには情報が入らない。
が、アルフレッドの精霊は後方からちゃんと見ていた。
バークの選択は防御。
後方に跳躍しながら防御魔法を展開。
しかし精霊に認識できたのはそこまでだった。
間も無く、バークの体は嵐に白く包まれた。
轟音と共に砂煙が舞い上がる。
どうなった? アルフレッドのその問いに答えられるものは誰もいなかった。
明らかなのは、バークの攻撃が止まったことだけ。
だからアルフレッドは警戒状態を維持したままその場で待った。
煙幕が少しずつ薄まる。
そしてアルフレッドの視界に入ったのは、尻餅をついたバークの姿だった。
追撃するべきか? アルフレッドがそう思った瞬間、
「まいった。私の負けだ」
バークは両手を挙げて降参を宣言した。
そしてバークは握手を求めるように右手を差し出し、口を開いた。
「すまないが、立ち上がるのを手伝ってくれないか?」
自力で立てるような気がするが――アルフレッドはそう思いつつも、近づいてその手を取った。
瞬間、
「!」
アルフレッドの両肩は小さく跳ね上がった。
バークの手から虫が流れ込んできたからだ。
その小さな虫達はアルフレッドの脳裏にある映像を映した。
それはある戦いの記憶のようであった。
今よりも若く見えるバークが大神官と対峙している。
そして両者は同時に右手を突き出し、その手を輝かせた。
大神官がどんな戦い方をするのか、その情報はまったくと言っていいほどに無い。
だからアルフレッドは受け取ったその記憶の再生に集中しようとしたが、
「引き起こしてくれるとありがたいんだが」
それは直後に響いたバークの声によって中断された。
相手の手を握っただけで固まってしまっていたようだ。
だからアルフレッドは慌てて引き起こした。
「ありがとう」
立ち上がったバークは礼を返し、体の砂埃を軽く払ったあと口を開いた。
「さすがだ。想像以上だったぞ」
しかしその言葉はアルフレッドの心にまったく響かなかった。
勝利の実感はまったく無かった。
なぜなら手を握った瞬間、「合格だ」というバークの心の声が響いたからだ。
だからアルフレッドはあの映像について尋ねようとした。
が、バークは先手を打つように先に口を開いた。
「お前がどうしてこんなことをしでかしたのか、その真意は読めないが、お前はまたここに戻ってくるんだろう?」
これにアルフレッドが頷くと、バークは続けて言った。
「そうか。ならばわたしは『準備』をしておく。そして『その時』が来るのを期待して待っていることにしよう」
準備? 何の? その問いを尋ねることもやはり出来なかった。
バークはアルフレッドに背を向け、クラリスに向かって声を上げた。
「帰るぞ、クラリス!」
そしてバークはさっさと歩き始めた。
とても力強い足取り。
無傷、そうとしか見えなかった。
バークは最後まで全力を出さなかった。最後まで自分は試されただけ、そんなことをアルフレッドが思った直後、バークは振り返って言った。
「……期待して待つには、まだ少し気が早かったか。きみにはまだもう一戦あるからな」
それはその通りだった。自分はある人を待っている。
それが誰か、バークは気付いているように見えた。
だからか、バークは、
「勝てよ、アルフレッド」
そう言ったあと、再び背を向けてクラリスと共に森の中に消えていった。
第十二話 すべてはこの日のために に続く
白く染まって何も見えない。
膜に覆われているバークは波をほとんど出さないため、こうなるとアルフレッドには情報が入らない。
が、アルフレッドの精霊は後方からちゃんと見ていた。
バークの選択は防御。
後方に跳躍しながら防御魔法を展開。
しかし精霊に認識できたのはそこまでだった。
間も無く、バークの体は嵐に白く包まれた。
轟音と共に砂煙が舞い上がる。
どうなった? アルフレッドのその問いに答えられるものは誰もいなかった。
明らかなのは、バークの攻撃が止まったことだけ。
だからアルフレッドは警戒状態を維持したままその場で待った。
煙幕が少しずつ薄まる。
そしてアルフレッドの視界に入ったのは、尻餅をついたバークの姿だった。
追撃するべきか? アルフレッドがそう思った瞬間、
「まいった。私の負けだ」
バークは両手を挙げて降参を宣言した。
そしてバークは握手を求めるように右手を差し出し、口を開いた。
「すまないが、立ち上がるのを手伝ってくれないか?」
自力で立てるような気がするが――アルフレッドはそう思いつつも、近づいてその手を取った。
瞬間、
「!」
アルフレッドの両肩は小さく跳ね上がった。
バークの手から虫が流れ込んできたからだ。
その小さな虫達はアルフレッドの脳裏にある映像を映した。
それはある戦いの記憶のようであった。
今よりも若く見えるバークが大神官と対峙している。
そして両者は同時に右手を突き出し、その手を輝かせた。
大神官がどんな戦い方をするのか、その情報はまったくと言っていいほどに無い。
だからアルフレッドは受け取ったその記憶の再生に集中しようとしたが、
「引き起こしてくれるとありがたいんだが」
それは直後に響いたバークの声によって中断された。
相手の手を握っただけで固まってしまっていたようだ。
だからアルフレッドは慌てて引き起こした。
「ありがとう」
立ち上がったバークは礼を返し、体の砂埃を軽く払ったあと口を開いた。
「さすがだ。想像以上だったぞ」
しかしその言葉はアルフレッドの心にまったく響かなかった。
勝利の実感はまったく無かった。
なぜなら手を握った瞬間、「合格だ」というバークの心の声が響いたからだ。
だからアルフレッドはあの映像について尋ねようとした。
が、バークは先手を打つように先に口を開いた。
「お前がどうしてこんなことをしでかしたのか、その真意は読めないが、お前はまたここに戻ってくるんだろう?」
これにアルフレッドが頷くと、バークは続けて言った。
「そうか。ならばわたしは『準備』をしておく。そして『その時』が来るのを期待して待っていることにしよう」
準備? 何の? その問いを尋ねることもやはり出来なかった。
バークはアルフレッドに背を向け、クラリスに向かって声を上げた。
「帰るぞ、クラリス!」
そしてバークはさっさと歩き始めた。
とても力強い足取り。
無傷、そうとしか見えなかった。
バークは最後まで全力を出さなかった。最後まで自分は試されただけ、そんなことをアルフレッドが思った直後、バークは振り返って言った。
「……期待して待つには、まだ少し気が早かったか。きみにはまだもう一戦あるからな」
それはその通りだった。自分はある人を待っている。
それが誰か、バークは気付いているように見えた。
だからか、バークは、
「勝てよ、アルフレッド」
そう言ったあと、再び背を向けてクラリスと共に森の中に消えていった。
第十二話 すべてはこの日のために に続く
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
小役人のススメ -官僚のタマゴと魔王による強国造り物語-
伊東万里
ファンタジー
毎日更新するよう頑張りたいと思います。
国家の進む方針やその実行組織など、豊かで幸せな国になるためには何が必要なのかを考えることをテーマにしています。
【あらすじ】
地方貴族の三男アルフレッド・プライセン。12歳。
三男は、長男、次男に比べ地位が低く、「貴族の三男はパンの無駄」といわれるほどに立場が弱い。子爵家の父の重臣達からも陰で小ばかにされていた。
小さいときにたまたま見つけた「小役人のススメ」という本に魅せられ、将来は貴族ではなく、下級(小役人)でもよいので、中央政府の官僚になり、甘い汁を吸いながら、地味に、でも裕福に暮らしたいと考えていた。
左目に宿った魔王の力を駆使し、官僚のタマゴとして隣国から国を守りながら、愛書「小役人のススメ」の内容を信じて自分の小役人道を進む。
賄賂や権益の誘い、ハニートラップに時に引っ掛かりながらも。
強国になるには優秀な官僚が必要である、と、アルフレッドの活躍を通じて、いつの日か大陸中に認められることを目指す物語
(この作品は、小説家になろう ツギクルにも投稿しています)
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる