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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十一話 森の中の舞踏会(11)

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 その右手から再び青い玉が放たれる。
 単発では無い。今度は連射。
 すべて先と同じ多弾頭式。

「っ!」

 回避行動を取るアルフレッドの近くで次々と爆裂する。
 バークの攻撃は休まる気配が無い。
 炸裂音が繋がって響き続ける。
 アルフレッドはその轟音の中で攻撃の機をうかがっていた。
 なんとかして接近できないか? それを考えていた。
 しかしそれはあまりにも危険な選択肢にしか思えなかった。
 先ほど分かったことが一つある。
 この球は一定範囲内に近づくと爆発するようになっているのだ。
 そのために虫が取り付けられているのだ。
 つまり、爆発そのものを回避するには大きく迂回するしかない。爆発する前に真下や真横を通り抜けるなんてことは出来ないだろう。
 ならば――残る攻め手は一つしか無かった。
 アルフレッドはやむを得ず、それを実行した。
 回避行動を取りながら右手を突き出す。
 その手から放たれたのは光弾。
 寸止めが出来ない攻撃。ゆえにアルフレッドは使用を避けていた。
 当たり所が悪ければ致命傷になる。
 が、

「……」

 バークは回避行動を取ろうとしない。
 攻撃の手を止め、その場で仁王立ち。
 そのままだと胸部に直撃する。

(バーク?!)

 思わずアルフレッドが心の中で叫ぶ。
 すると、バークは声を返してきた。
 この程度なら問題無い、と。
 どういうことだ? アルフレッドが抱いた疑問の答えは直後に明らかになった。
 アルフレッドが放った光弾がバークに直撃する。
 が、

「?!」

 光弾は『効かなかった』。
 光弾は胸にぶつかった後、そのまま肩のほうに滑り、後方へと抜けていった。
 そしてアルフレッドは思い出した。
「バークに光弾は効かない」という話を。
 重要な情報だとは思っていなかった。強固な防御魔法を張れるのだろう、その程度にしか思っていなかった。
 しかしそれは間違いだった。
 言葉通り『効かない』のだ。
 だが、どうして?! アルフレッドは問わずにはいられなかった。
 しかしアリスにもわからない。
 だから本人が口を開いた。

「アルフレッド、こんな疑問を持ったことはないか?」

 喋りながら、バークは右手を発光させた。
 間も無くその手から光球が生まれる。
 バークはその光る球を見つめながら言葉を続けた。

「どうしてこのように光る球を持っても、自分の手は傷つかないのか」

 そう言ったあとバークはその光球を後方に投げ捨て、今度は小さな炎を生み出しながら口を開いた。

「これもそうだ。炎を出していても私の手はやけどしない」

 握りつぶすように炎を消しながらバークは言葉を続けた。

「答えは一つしかない。何かに私の手は守られている。そしてこの何かの答えは、精霊を使えるようになるまで見つからなかった」

 そしてバークは自身の周囲を舞う火の粉を見回しながら言った。

「私の脳は小さな虫を作るのが得意でな」

 バークはその火の粉の一つを掴み、口を開いた。

「私のこの『精霊』には相手の神経を攻撃するような力強さは無いが、とても小さなものを解析することが出来る」

 その言葉にアルフレッドは驚いた。
 あの小さな火の粉が精霊である、その事実に驚かされた。
 色々な虫を組み合わせて複数の機能を持たせたり強化したもの、それが精霊だ。
 ゆえに必然的に大きくなる。アルフレッドの場合は見た目も大きさも蝶そのものだ。
 しかし、バークの精霊は火の粉と同じ大きさだという。
 ならば虫はどれほど小さいのか。
 そしてバークの精霊達は何の仕事をしているのか。
 心が読めなくなったことと関係がある? アルフレッドがそう思った直後にバークは再び口を開いた。

「だから私は狩りが好きだった。獲物を捕まえ、その構造を、命の神秘の秘密を解き明かすことが楽しくてしょうが無かった。そしてその好奇心の対象が自分の体に向けられるまで、時間はさほどかからなかった」

 バークはその手から火の粉を生み出しながら言葉を続けた。

「そして私はこの精霊のおかげで疑問の答えを知ることが出来た。それは『膜』だった。人間の手の平は見えない、いや、見えにくい膜に覆われているのだ」

 どうしてそんなことに気付けた? バークは自ら語った。

「アルフレッド、お前は自分の体の中を観察したことはあるか? 食べたものがどうなるのかを追ったことはないか? 食べたものは体の中心付近にある空洞で溶かされ、そして吸収されるのだ」

 その言葉に、アルフレッドはかつてのバークと同じ疑問を抱いた。
 既にその答えを知っているバークは言葉を続けた。

「動物の肉も我々の肉体も基本的には同じものだ。だが、その空洞は溶けない。膜に守られているからだ。手の平でも同じことが起きているのだ。すごいと思わないか?」

 その口調から、バークは少し興奮しているように思えた。
 そしてバークは右手の平から光球を再び生み出し、少し興奮した口調のまま言った。

「しかしもっとすごいのは、この膜は『用途に応じて調整されている』ことだ」

 バークは手にある光球に火の粉をまとわりつかせながら言葉を続けた。

「それは無意識のうちに自動的に行われている。しかし、私の場合は精霊で調整しなおすことが出来る」

 それは、「何の仕事をしているのか」についての回答の片鱗でもあった。
 間も無くその仕事は終わった。
 同時にアルフレッドは感じ取った。
 いや、湧き上がった。
 それは違和感。
 アルフレッドがその違和感の正体を突き止めようとした瞬間、

「!」

 バークはその何かの仕事を施した光球をアルフレッドに向けて放った。
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