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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十一話 森の中の舞踏会(10)

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   ◆◆◆

 アルフレッドが言った通り、開けた場所は近くにあった。
 そこは崖のような急斜面のそばにあった。
 がけ崩れや地すべりが起きた形跡が見られた。しかも広範囲に。
 それも一度や二度では無いのだろう。
 枯れた水路もある。鉄砲水も起きていたに違いない。崖のところはかつて滝だったのだろう。
 ゆえにここは木がなぎ倒され、開けているのだ。
 当然のように足場は快適では無い。そこら中に大小の石が散乱している。
 その荒れた平地で二人は対峙した。
 クラリスもついてきていた。離れた場所から二人を見つめていた。
 そして開始の合図を放ったのはバークであった。

「では始めよう」

 言いながらバークは先と同じ真半身の構えを取った。
 前に突き出された右手の平が光り始める。
 しかしその色は彼の得意とする炎の赤では無かった。
 虫が大量に混じった光魔法の色だ。
 そして虫はその輝きを纏ったまま、次々と手の平から飛び出していった。
 アルフレッドの蝶と同じく、バークを中心として回り始める。
 しかしアルフレッドの蝶のように大きくは無い。
 どれも砂粒のような大きさ。
 ゆえにバークがりんぷんを纏っているように見える。
 しかしそれはアルフレッドのそれとはまったく異なるものであった。
 直後、バークの虫達は違う色を放ち始めた。
 薄い青。
 そしてそれは虫が放つ輝きでは無かった。
 虫が放つ波の周波数が変わって、それがアルフレッドの脳内で青色に変換されているわけでは無い。
 弱弱しいが、それは本当に青い光を放っていた。
 だからバークの体が青く照らされている。
 バークはその青く輝く霧の中で口を開いた。

「手加減はするが気をつけろよ? 下手に当たればやけどではすまないぞ」

 その言葉に嘘は無かった。
 ゆえに、

「……っ」

 アルフレッドはクラリスの時には出さなかった表情を見せた。
 手加減してやれる相手なのか? そんな迷いがアルフレッドの表情をそうさせていた。
 厳しい戦いになる、アルフレッドはそう覚悟していた。
 戦いは久しぶり、その言葉にも嘘は無かった。
 町の戦士達は誰もバークに挑もうとしない。あのアーティットでさえもだ。
 族長だから遠慮しているわけでは無い。バークはそれほどまでに強いのだ。だから、たった二人の出撃であったが神官達は許したのだ。
 町がいまだに神官達の魔の手に飲み込まれていないのはバークの存在があるからでもある。
 そしてゆえに、バークがどんな戦い方をするのか、その情報は多くない。
 だが、この青い輝きの正体は知っていた。
 これは確か――アルフレッドがそれを心の中で言葉にするよりも早く、バークは動いた。

「いくぞ!」

 ちゃんとよけろよ、そんな思いが含まれた声。
 そしてその声と共に、突き出されたバークの右手の平から光珠が放たれた。
 青い色を放つ光の玉。
 大きい。胸に抱きかかえられそうなほどに。
 しかし軌道は直線。
 ゆえに体を少しずらすだけで避けれる、アルフレッドはそう思ったが、

(これは普通の構造の玉では無いわ!)

 直後、アリスの警告が響いた。
 アルフレッドはその警告に従い、即座に左へ強く地を蹴った。
 そしてアルフレッドの足裏が地面から離れた直後、

「!」

 バークが放った光球は『爆発し、加速して分裂した』。
 これがアリスの警告の理由。
 最初に、アリスはその球が階層的な構造を持っていることに気付いた。
 前後で二分するような仕切りが存在し、前方には小さな球が数多く内包されていることが次に判明した。
 そして各部から虫の気配がすることも同時に解析できた。
 しかし、その虫が何のためにいるのかまでは情報が足りないため分からなかった。
 だが、それは構造から容易に推察することが出来た。
 そしてその推察はたったいま正解であることが明らかになった。
 この玉はいわゆる『多弾頭式』だったのだ。
 後部で爆発を起こし、前部の弾丸を加速させつつ拡散発射させる仕組み。
 虫はその起爆の役目を持つ。
 ゆえに、

「っ!」

 放たれたすべての散弾はアルフレッドの真横で同時に爆発した。
 ぼん、という破裂音が重なり、青い炎が広がる。
 その炎は瞬時に赤色に変わった。
 それを横目で見たアルフレッドは思い出した。
 畑で見た炎もそうだった、と。
 手元の部分は、炎の根元は青色だった。
 バークは青い炎を操る、話に聞いた通りだ。
 ということは、あの青い霧は火の粉? アルフレッドは思わず心の中でそう声に出した。
 直後、

「いや、それは違う」

 バークは答えた。

「火の粉というのは正しくない。これは『仕事をさせているだけ』だ」

 言われてアルフレッドは気付いた。
 火の粉が点滅していることに。
 燃えたり消えたりしている。明滅している。
 そしてもう一つ気付いたことがあった。
 何の仕事をさせているのか、それが読み取れなかったのだ。
 小さな雑音のようにしか感じ取れなかった。解析できなかった。
 脳波が異常に小さくなっている。小さくなり続けている。
 そしてそれは間も無く掻き消え、完全な無音となった。
 が、

「しかし、今のは小手調べとはいえ、瞬時に構造を見抜くとはな。さすがだ」

 それでもバークは声を発した。
 脳波を一切出さずに喋っている。
 だからアルフレッドは思った。
 まさか、バークも同じなのか? と。同じ技術を持っているのか? と。
 これにバークは首を振って答えた。

「いいや、私の技術はまったく違うものだ。見ればわかる」

 見ればわかる? その言葉は明らかなヒントであったが、今のアルフレッドにはまだわからなかった。
 だからバークは、

「では、次は少し派手にいくぞ」

 一方的に再開を宣言した。
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