Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十一話 森の中の舞踏会(8)

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 クラリスは即座にそれをやってみせた。
 左足裏を発光させる。
 その光から生じたのは防御魔法。
 クラリスは足裏から開いたその光の傘を、勢い良く振り下ろして地面にたたきつけた。
 独特の炸裂音と共に、光の粒子が散る。
 そしてクラリスは足裏から防御魔法を切り離し、反動を利用してさらに小さく後ろに跳躍。
 叩きつけられた衝撃で防御魔法は崩壊寸前。
 クラリスはその歪み始めた光の盾にとどめを刺すかのように、

「破ッ!」

 勢い良く鎌を振り下ろし、地面に串刺しにした。
 穴を開けられた光の盾が大きく歪む。
 だが、散り散りになって霧散する気配は無かった。
 盾は回転しながら徐々に小さくなっていった。そう見えた。
 鎌の刃に吸い込まれるように。
 それは間違いでは無かった。
 光魔法を引き寄せる粒子が刃にこめられていた。
 そして盾を吸い込んだ刃は同じ色に染まった。
 しかしその輝きはさらに強くなっていった。
 クラリスの手から流し込まれ続けている。
 だが、おかしい。
 刃に込められる魔力量はその体積に大きく依存する。
 許容量はとっくに超えているはずだ。
 負荷をかけすぎればその刀身は内部から砕ける。
 だが、そんな気配も無い。
 ならば答えは一つだった。
 地面の中に放出され続けているのだ。

「!」

 そしてその推察は即座に正解であることが明らかになった。
 突き刺している刃の周囲の地面がうっすらと光り始めたのだ。
 光魔法の粒子が染み出している。
 そして感じた。その地面の下で魔力がはちきれんばかりに暴れまわっているのを。

(いや……?!)

 それだけじゃない、アルフレッドは感じ取った。
 大量の虫もその奔流の中に混じっている。
 そしてその力の奔流はあと一押しで噴出する。
 クラリスはその技の名を叫びながら、それを実行した。

「グレイブディガー!」

 墓荒らしと呼ぶにはその技は少々派手すぎる技に見えた。
 クラリスが鎌を勢い良く振り上げると同時にそれは噴出した。
 いや、振り上げたのでは無い。跳ね上げられたのだ。
 地面ごと鎌を巻き上げたそれは意思を持っているかのように、アルフレッドのほうに向かっていった。
 光る蛇の濁流。
 いや、ただの濁流では無い。
 やはり大量の虫が混じっている。
 そしてその虫たちは何かを叫んでいた。
 まるで獣の断末魔のような叫び声。
 それはその通りであった。
 クラリスは狩りで獲物を仕留める際に、虫にその感情と叫びを記憶させていたのだ。
 そもそも、クラリスが狩りを始めたのはそのためだ。
 クラリスもアルフレッドと同じだったのだ。
 いつか来る戦いの時のために、自分に出来ることは無いか、そんな思考の果てに今のクラリスがあるのだ。
 ゆえにそれはクラリスの自信作であった。
 死への恐怖、生への執着心、理不尽への怒りと悲しみ、そんな負の感情が混ざって渦を巻いている。
 なるほど、これはまさに墓荒らしだと、アルフレッドは納得した。
 光の蛇と精神汚染の複合攻撃。
 高速演算による緩慢な世界の中で、ゆっくりと迫ってくるその死の濁流を見つめながらアルフレッドは叫んだ。

(精霊達よ! 俺に力を貸してくれ!)

 言われるまでも無かった。アリスと精霊達は既に動いていた。
 精霊達が分担して蛇の軌道を予測。計算完了と同時にアルフレッドの脳に送信。

「……っ!」

 大量の情報が流れ込んでくる頭痛に、アルフレッドは表情を歪めた。
 だがその痛みは一瞬。
 アリスが即座に情報を整理したからだ。
 そしてアリスは答えを導き出し、アルフレッドに伝えた。
 アルフレッドは提示されたその答えをなぞるように動いた。
 それは前転の初動に見えた。
 頭から地面に飛び込むように、斜め前に小さく跳躍。
 体の下と上を蛇が通り抜けていくのを感じる。
 冷や汗は出ない。計算通りだからだ。
 眼前に一匹の蛇が直撃の軌道で迫っているのも計算通り。
 光を帯びた左手刀を振り下ろして叩き落とす。
 そしてアルフレッドは左手を掌底打ちの形に変え、そのまま振り下ろした。
 地面に手を付き、反動を利用して滞空時間をわずかに稼ぐ。
 転がっていれば直撃していたであろう、数匹の蛇が眼下を通り抜けていく。
 ここまでは完璧。
 だが、少し工夫した程度の前転では避けられない攻撃がこの濁流の中には混じっている。
 それは虫の群れ。
 濁流の勢いに押し流されてはいるものの、ある程度は自立的に軌道を変えることが出来る。追尾能力がある。
 死の感覚をアルフレッドの脳に植えつけようと、群れをなして迫ってきている。
 だから精霊達の力を借りる必要があった。
 精霊達は既に構えていた。
 アルフレッドの脳を守るように集まっていた。
 そして精霊達は迫ってきた虫の群れとぶつかりあった。
 クモのような牙で噛み、食らい、引きちぎる。
 蝶の見た目には似つかわしくない獰猛さ。
 そしてその蝶は見た目以上のえげつなさまで備えていた。
 食らった虫を体内で改造し、自分の部下として再利用していた。
 ゆえにアルフレッドの軍勢はほとんど数が減らない。
 そして精霊達が勝利をおさめると同時にアルフレッドは死の濁流を抜けた。
 地面の上を転がり、体勢を立て直す。
 自身の状態を確認するまでも無かった。アリスの計算も精霊達の援護も、自分の動作も全てが完璧だった。
 だから、

「……!」

 クラリスは驚きを隠せなかった。
 全力では無かったが、少しやりすぎたと思った。
 しかし彼はいまの一撃を無傷でやりすごした。
 自分の彼に対しての認識はまだ浅かったのだ、クラリスはそれを痛感していた。
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