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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十一話 森の中の舞踏会(7)
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踏み込めば後ろから刃がくる、ならば――
「でぇやッ!」
これならどうだ、そんな思いと共にアルフレッドは左手で裏拳を放った。
大きく叩き払えば引き戻せないはず。それを狙った一撃。
であったが、
「!」
再び身の危険を感じたアルフレッドはその動作を途中で止めた。
クラリスが裏拳に合わせて鎌を一歩分前に出したからだ。
伸びきった左腕を刈られる、それを感じ取ったアルフレッドは即座に左腕を引いた。
引き戻された鎌と左手が紙一重ですれ違う。
しかしアルフレッドはまだ狙いをあきらめていなかった。
引き戻される鎌を追いかけるように一歩踏み込みながら、
「蛇ッ!」
右の一撃を繰り出す。
孤を描いて放たれた右の掌底打ちが鎌の刃を真横からとらえる。
が、
「っ!」
アルフレッドの表情は歪んだ。
手ごたえが軽いからだ。
受け流された、高速演算による緩慢な世界の中ゆえにそれが瞬時にわかった。
まるで風に押されてひるがえる木の葉のように、鎌の刃が回転を開始。
直撃の瞬間、クラリスは手元をひねって刃を回転させたのだ。
そしてその回転はすぐに停止。
伸びたアルフレッドの右腕を刈り取るためだ。
だからアルフレッドもすぐに右腕を引き戻した。
先のやり直しのように、鎌と腕が再び交錯する。
瞬間、
(まだだ!)
アルフレッドは心の叫びを響かせた。
押し通る! という意思と共に。
鎌を狙って光る拳を繰り出す。
その拳骨から逃げつつ、刈り取りを狙う鎌。
刃と拳が交錯する。
アルフレッドは手を止めない。
捕まえるまで追い続けようとしているかのように。
アルフレッドの拳が光の線を何本も描き、輝く鎌が描く光の曲線と交差する。
同じ輝きがぶつかり合い、光の粒子が白い花火のように散る。
時に、武器破壊を狙った豪快な一撃も繰り出される。
金属の衝突音と共に、白い花火の中に赤い火花が混ざる。
拳と刃の交錯は徐々にその速度と激しさを増していった。
しかし決定的な状況は生まれない。
その理由は明らかであり、バークは理解していた。
互いに手加減しているからだ。
さらに、次にこの攻撃を繰り出すと、直前ではあるが互いに通知し合っている。
これはまさしくバークが思った通りのものであった。
これは『演舞』だ。
しかしこの演舞に全体図を示す台本は無い。
お互いに不殺の決着を意識しているが、展開次第では危うい。事故の可能性はいつでもある。
ゆえに手に汗を握る。
いまは互いの実力を確認し合っているだけ。
相手はどこまでやれるのか、どこまでついてこれるのか、それを確認しているのだ。
だから徐々に激しさを増している。
なのでいつかは演舞では無くなる。死合いに近づいていく。
そろそろか、バークがそう思った瞬間、
「行くぞ!」
アルフレッドが合図を出した。
すこし強くいくぞ、という合図。
「!」
瞬間、その攻撃の内容がクラリスの脳裏に転送された。
それは蹴り。
全身の捻りから繰り出される力強い回し蹴り。
その軌道から何もかもがクラリスの脳裏に映る。
だからクラリスはすぐに迎撃体勢を取ることができた。
が、
「!?」
直後、クラリスの顔は驚きに染まった。
アルフレッドの足が光りだしたからだ。
アルフレッドは足でも光魔法を使える特殊能力者だった?! 初めて知る事実にバークも同じ驚きの色を浮かべ始めていた。
神官達との戦いでは何度か見せているが、二人の前では初。
そして驚きはそれだけでは無かった。
足を光らせるという思考が読み取れなかったからだ。
さらに驚きは続いた。
新たなイメージがクラリスの脳裏に転送されたのだ。
それは光る傘。防御魔法。
まさか? クラリスがアルフレッドの狙いに気付いた直後、
「せぇやぁっ!」
アルフレッドは気勢と共にそれを繰り出した。
振り上げられる右足裏から花開くように防御魔法が展開。
足を使って傘を豪快に振る、そんな攻撃。
これまでの拳による点の攻撃とは違う。これは大きな面による攻撃。
ゆえにその一撃は、
「っ!」
クラリスの鎌を大きく弾き飛ばした。
手放すことは無かったが、大きく姿勢を崩すクラリス。
だが、クラリスはこの程度で済んで幸運だったと感じていた。
事前にイメージを提示してくれていなければ間に合わなかった。傘のふちの部分を鎌に引っ掛けられ、そのまま持っていかれるところだった。
「!」
そして直後にクラリスの表情は焦りに染まった。
アルフレッドが踏み込んできたからだ。
すかさず後方に地を蹴って距離を取ろうとする。
だが、姿勢が崩れていたゆえにその速度は不十分。
アルフレッドのほうが速い。
着地と同時にアルフレッドの間合いになる。
だからクラリスは左手を鎌から放し、防御魔法の展開を開始。
すると、脳裏にアルフレッドの心の声が響いた。
「そんなもの、簡単に打ち破れる」、と。
それだけならば何も思わなかった。
しかし次の一言は聞き捨てならないものであった。
「お前はこの程度なのか?」と、アルフレッドは言った。
否、クラリスは即答した。
しかし驚かされたのは事実。
足で魔法を使えることには驚かされた。
『あなたもそうだったのか』と、驚かされた。
「!」
その言葉に、今度はアルフレッドが驚きの色を浮かべて足を止めた。
「でぇやッ!」
これならどうだ、そんな思いと共にアルフレッドは左手で裏拳を放った。
大きく叩き払えば引き戻せないはず。それを狙った一撃。
であったが、
「!」
再び身の危険を感じたアルフレッドはその動作を途中で止めた。
クラリスが裏拳に合わせて鎌を一歩分前に出したからだ。
伸びきった左腕を刈られる、それを感じ取ったアルフレッドは即座に左腕を引いた。
引き戻された鎌と左手が紙一重ですれ違う。
しかしアルフレッドはまだ狙いをあきらめていなかった。
引き戻される鎌を追いかけるように一歩踏み込みながら、
「蛇ッ!」
右の一撃を繰り出す。
孤を描いて放たれた右の掌底打ちが鎌の刃を真横からとらえる。
が、
「っ!」
アルフレッドの表情は歪んだ。
手ごたえが軽いからだ。
受け流された、高速演算による緩慢な世界の中ゆえにそれが瞬時にわかった。
まるで風に押されてひるがえる木の葉のように、鎌の刃が回転を開始。
直撃の瞬間、クラリスは手元をひねって刃を回転させたのだ。
そしてその回転はすぐに停止。
伸びたアルフレッドの右腕を刈り取るためだ。
だからアルフレッドもすぐに右腕を引き戻した。
先のやり直しのように、鎌と腕が再び交錯する。
瞬間、
(まだだ!)
アルフレッドは心の叫びを響かせた。
押し通る! という意思と共に。
鎌を狙って光る拳を繰り出す。
その拳骨から逃げつつ、刈り取りを狙う鎌。
刃と拳が交錯する。
アルフレッドは手を止めない。
捕まえるまで追い続けようとしているかのように。
アルフレッドの拳が光の線を何本も描き、輝く鎌が描く光の曲線と交差する。
同じ輝きがぶつかり合い、光の粒子が白い花火のように散る。
時に、武器破壊を狙った豪快な一撃も繰り出される。
金属の衝突音と共に、白い花火の中に赤い火花が混ざる。
拳と刃の交錯は徐々にその速度と激しさを増していった。
しかし決定的な状況は生まれない。
その理由は明らかであり、バークは理解していた。
互いに手加減しているからだ。
さらに、次にこの攻撃を繰り出すと、直前ではあるが互いに通知し合っている。
これはまさしくバークが思った通りのものであった。
これは『演舞』だ。
しかしこの演舞に全体図を示す台本は無い。
お互いに不殺の決着を意識しているが、展開次第では危うい。事故の可能性はいつでもある。
ゆえに手に汗を握る。
いまは互いの実力を確認し合っているだけ。
相手はどこまでやれるのか、どこまでついてこれるのか、それを確認しているのだ。
だから徐々に激しさを増している。
なのでいつかは演舞では無くなる。死合いに近づいていく。
そろそろか、バークがそう思った瞬間、
「行くぞ!」
アルフレッドが合図を出した。
すこし強くいくぞ、という合図。
「!」
瞬間、その攻撃の内容がクラリスの脳裏に転送された。
それは蹴り。
全身の捻りから繰り出される力強い回し蹴り。
その軌道から何もかもがクラリスの脳裏に映る。
だからクラリスはすぐに迎撃体勢を取ることができた。
が、
「!?」
直後、クラリスの顔は驚きに染まった。
アルフレッドの足が光りだしたからだ。
アルフレッドは足でも光魔法を使える特殊能力者だった?! 初めて知る事実にバークも同じ驚きの色を浮かべ始めていた。
神官達との戦いでは何度か見せているが、二人の前では初。
そして驚きはそれだけでは無かった。
足を光らせるという思考が読み取れなかったからだ。
さらに驚きは続いた。
新たなイメージがクラリスの脳裏に転送されたのだ。
それは光る傘。防御魔法。
まさか? クラリスがアルフレッドの狙いに気付いた直後、
「せぇやぁっ!」
アルフレッドは気勢と共にそれを繰り出した。
振り上げられる右足裏から花開くように防御魔法が展開。
足を使って傘を豪快に振る、そんな攻撃。
これまでの拳による点の攻撃とは違う。これは大きな面による攻撃。
ゆえにその一撃は、
「っ!」
クラリスの鎌を大きく弾き飛ばした。
手放すことは無かったが、大きく姿勢を崩すクラリス。
だが、クラリスはこの程度で済んで幸運だったと感じていた。
事前にイメージを提示してくれていなければ間に合わなかった。傘のふちの部分を鎌に引っ掛けられ、そのまま持っていかれるところだった。
「!」
そして直後にクラリスの表情は焦りに染まった。
アルフレッドが踏み込んできたからだ。
すかさず後方に地を蹴って距離を取ろうとする。
だが、姿勢が崩れていたゆえにその速度は不十分。
アルフレッドのほうが速い。
着地と同時にアルフレッドの間合いになる。
だからクラリスは左手を鎌から放し、防御魔法の展開を開始。
すると、脳裏にアルフレッドの心の声が響いた。
「そんなもの、簡単に打ち破れる」、と。
それだけならば何も思わなかった。
しかし次の一言は聞き捨てならないものであった。
「お前はこの程度なのか?」と、アルフレッドは言った。
否、クラリスは即答した。
しかし驚かされたのは事実。
足で魔法を使えることには驚かされた。
『あなたもそうだったのか』と、驚かされた。
「!」
その言葉に、今度はアルフレッドが驚きの色を浮かべて足を止めた。
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