上 下
112 / 545
第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十一話 森の中の舞踏会(2)

しおりを挟む
「「「……っ!」」」

 その圧倒的な攻撃に、神官達は同時に身を強張らせた。
 数人の散弾をぶつけた程度で相殺できる攻撃では無かったからだ。
 これでは包囲するために散開していることが逆に仇になる。
 だから神官達は防御陣形を組むために集合の号令をかけた。
 合図を出した神官のもとに他の神官達が移動を始める。
 それを黙って見ているアルフレッドでは無かった。

「でぇりゃりゃりゃりゃあっ!」

 刃の雨を繰り出しながら次の目標に向かって突進。
 目標にされた神官は相殺狙いの散弾を放ち、近くにいた数人の味方もそれを援護したが、

「ぐああぁっ!」

 結果は変わらなかった。
 そしてアルフレッドは即座に次の目標に向かって突進開始。
 魔力を生み出す内臓は活発化したまま。
 だからアリスは危惧の声を上げた。
 この内臓は使いすぎると一時的な機能停止に陥るからだ。
 だが、アルフレッドは問題無いと声を上げた。

「大丈夫だ! この程度で俺の体はバテやしない!」

 喋りながら目標を赤く散らせる。
 閃光と共に轟音が鳴り響き、木々がなぎ倒されていく。
 振り返れば、アルフレッドが通ったあとは、まるで荒く整地されたかのような有様であった。
 そして気付けば援護の散弾は止まっていた。
 集合した神官達は防御陣形を組み始めていた。
 そしてそれはアルフレッドの前方で間も無く終わった。
 横二列の形。
 アルフレッドを遠くから包むように緩やかな孤を描いている。
 散弾を集中射撃しやすくするための形。
 これなら相殺できる、そんな神官達の考えがアルフレッドに伝わってきた。
 だからアルフレッドは口を開いた。

「ならば試してみるか」

 そしてアルフレッドは構えた。
 その構えはこれまでのものとは違っていた。
 両手を寄せ、二刀を一本の剣に見立てるように重ねた形。
 そしてアルフレッドは心の声を響かせた。
 重ね十文字、と。
 これにアリスは再び疑問の声を上げた。
 先に見せた四連では絶対に撃ち負ける、と。
 アルフレッドは答えた。

「あれが全力なんて言った覚えは無いぞ?」

 言い終えると同時にアルフレッドは後方に地を蹴った。
 敵の散弾が届かない距離を確保する。
 神官達は陣形を維持したまま動かない。槍を発光させただけ。
 相殺した後に最大反撃する、後の先の構え。
 それは大きな間違いであった。
 距離を詰めて先制攻撃をするべきだったのだ。
 その動かない目標の前で、アルフレッドは腕を振るい始めた。
 重ねられた二刀が三日月を描く。
 重ねられているゆえに、その三日月は太かった。
 振りも大きい。ゆえに長い。
 すぐに切り返して巨大な十字を描く。
 瞬間、(これはマズいのでは?)という神官の誰かの心の声が場に響いた。
 これに別の誰かが、(それでも四連ならば問題無い)という声を響かせた。
 そのやり取りのうちに四連は描かれた。
 だが、アルフレッドはまだ止まらなかった。
 先の乱れ突進斬りとほぼ同等の速度で十字を描き続ける。
 その凄まじさに、(これはマズい!)と神官の誰かが声を上げた。
 だがもう手遅れだった。
 だからアルフレッドは余裕の調子で心の声を響かせた。

(重ね大十文字十三連!)
「「「っ!?」」」

 そして眼前で広がった圧倒的な光景に、神官達は再び身を強張らせた。
 それは蛇の群れという表現でおさまるものでは無かった。
 それはもはや大蛇の群れ。
 いや、群れという表現も合わない。
 互いを食いあうかのように、蛇は繋がったりちぎれたりしている。
 のたうつようにうねっている。
 ゆえにそれは光の洪水のように見えた。
 光る刃の濁流。
 濁流は神官達が放った迎撃の散弾をいともたやすく返り討ちにし、

「「「―――っ!」」」

 そのまま神官達を飲み込んだ。
 光魔法特有の炸裂音が重なり、轟音となって悲鳴までかき消す。
 濁流は木々もなぎ払い、進路上にあるすべてを飲み込んだ。
 そしてあとには赤い絨毯だけが残った。

「「「……っ!」」」

 この凄まじさに生き残った神官達は思わず息をのんだ。
 アルフレッドは隊列の中央を狙って濁流を放ったため、両端の神官達は回避行動が間に合っていた。
 だが、

「がっ!」

 その拾えた命すらも、すぐに散らされ始めた。
 アルフレッドが放った追撃の三日月が、神官の体を真っ二つに。
 重ねた二刀を大きく振って描かれた三日月。
 ゆえに巨大。
 刃の厚い大剣から繰り出されたかのよう。
 それを見た他の神官達は慌てて逃走を開始。
 後方から向かってきている仲間と合流すれば、そんな希望を響かせながらアルフレッドに背を向けて走り始めた。
 だが、その希望は、

「ぐあっ!」
「ぎゃっ!」

 アルフレッドの刃によって、次々と散らされていった。
 逃げる相手の背を追いかけながら刃を振るう、それだけの単調な作業。
 そうしてすべての希望が潰えた頃、後続の部隊はようやく場に到着した。

「次の相手がお出ましか」

 アルフレッドは涼しい顔で言いながら、増援の様子をうかがった。
 その部隊は既に陣形を組み終わっていた。
 遠くから戦いの様子を感じ取っていたのだ。
 ゆえにそれは防御を重視した形では無かった。
 機動力を重視した形。
 十名ほどのグループを大量に作り、互いに連携が取れる程度の距離で散開しているといった様子。
 散開することでアルフレッドの大規模攻撃による被害を減らしつつ、機動力を活かした攻撃で圧殺するのが狙い。
 アルフレッドは相手の心から瞬時にそこまで読み取った。
 だが、すぐに仕掛けてくる気配は無かった。
 その理由は直後に判明した。
 神官達はあるものを待っていた。
 それは間も無く到着した。
 新たな増援。大量の精霊達。
 だが、その精霊達はアルフレッドを直接攻撃するためにやったきたのでは無かった。
 精霊達の目標は神官達であった。
 頭にとりつき、脳内に侵入する。

「「「……っ!」」」

 そして生じた頭痛に、神官達はみな同じように顔を歪めた。
 何が起きているのか、アルフレッドは感じ取れていた。
 神経網の回路を増やし、計算速度を上げていた。
 さらにそれだけでは無かった。
 次の変化は目に表れた。
 まるで白ウサギの目のように、赤く染まる。
 ひどい充血を起こしている。精霊達が脳を操作してそうしている。
 血流量を増やして、目にたくさんの栄養を送るためだ。
 同時に、動体視力などの脳の機能も強化されている。

「……」

 アルフレッドはその強化の様子を冷めた表情で眺めていた。
 相手の強化をわざわざ待ってあげているわけでは無い。
 観察して技術を盗もうとしているのだ。
 だが、アルフレッドの期待は空振りに終わった。
 学ぶところが何も無かったからだ。
 だから冷めている。
 逆に助言をしてあげたいと思ったほどであった。
 そもそも、素体が弱すぎる。
 あれでは目や脳に後遺症が残る可能性がある。
 いや、彼らの主人はそんなことどうでもいいと思っているのかもしれない。
 使い捨ての駒、その程度なのかもしれない。
 だからアルフレッドは冷めた表情のまま口を開いた。

「準備は終わったか?」

 そしてアルフレッドは上に向けた手の平を見せ付けるように前に出し、

「時間が惜しい。さっさと来い」

 くいくいと、やさしく手招きした。
 その挑発が開始の合図となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵夫人は子育て要員でした。

シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。 楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。 初恋も一瞬でさめたわ。 まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。 離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。

黒髪の死霊術師と金髪の剣士

河内 祐
ファンタジー
没落貴族の三男、根暗な性格の青年のカレルは神から能力が与えられる“成人の儀”で二つの能力が授けられる。 しかし、その能力は『死霊術』『黒魔術』と言うこの世から疎まれている能力だった。 貴族の体面を気にする父の所為で追い出されたカレル。 屋敷を出て行ったカレルは途中、怪物に襲われるがある女性に助けられる。 その女性は将来の夢は冒険者の団体……クランを創り上げ世界一になること。 カレルはその女性と共にクラン造りに協力する事になり……。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

Boy meets girl

ひろせこ
恋愛
誰もが持っている色を、その少年も当然ながら持っていた。 にも拘らず持っていないと馬鹿にされる少年。 金と青。 この世界で崇められている光の女神の貴色。 金髪に青い瞳。 綺麗な色ほど尊ばれる世界の片隅で、 こげ茶の髪に限りなく黒に近い濃い青の瞳のその少年は、 黒にしか見えない瞳が見えないよう、 俯きひっそりと暮らしていた。 そんな少年が、ある日、1人の異質な少女と出会った。 「常世の彼方」の外伝です。 本編はこちら(完結済み)⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/584038573/446511345 本編未読でも…いける…はず。

FRIENDS

緒方宗谷
青春
身体障がい者の女子高生 成瀬菜緒が、命を燃やし、一生懸命に生きて、青春を手にするまでの物語。 書籍化を目指しています。(出版申請の制度を利用して) 初版の印税は全て、障がい者を支援するNPO法人に寄付します。 スコアも廃止にならない限り最終話公開日までの分を寄付しますので、 ぜひお気に入り登録をして読んでください。 90万文字を超える長編なので、気長にお付き合いください。 よろしくお願いします。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物、団体、イベント、地域などとは一切関係ありません。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

処理中です...