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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十話 神と精霊使い(13)

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 だったらまずは動作試験だ、アルフレッドはその思いと共に叫んだ。

「ならばやるぞ!」

 叫びながらアルフレッドは二刀を振った。

(一つ!)

 二本の剣閃が十字を描く。
 だが、その十字は前に飛ばず、その場に停滞した。
 魔力を刃から垂れ流しただけ。
 アルフレッドはその置いた十文字から一歩下がりながら、再び二刀を振るった。

(二つ!)

 これも飛ばない。置いただけ。
 さらに一歩さがって、

(三つ!)

 ここが限界。最初の十字が霧散寸前。
 だからアルフレッドは二刀を大きく振りかぶり、前にある三つの十字をすべて吹き飛ばす勢いで、

(重ね十文字四連!)

 四つ目の十文字を放った。
 その四つ目の十文字には工夫があった。
 磁石が引き合うように、光魔法にも引き合う関係が存在する。
 見た目は光っているだけだが、魔法使いは性質が違うものを本能的に切り替えて使っている。
 優秀な感知能力者にはその違いがわかる。本能に頼らずとも、修練による技術で使い分けることが出来る。
 アルフレッドが放った第四の十文字にもその技が活かされていた。
 二本の線が交わる部分、そこは『引き込む力』が強い粒子だけで構成されていた。
 ゆえに、最後に放たれたその十字は、前の三つとぶつかり合いながら、中央に引き込み、吸い込んでいった。
 渦を描きながら収束し、一つの輝く玉となる。
 そこで粒子の群れは対極の力を持つ粒子と混ざりきり、引き込む力のほとんどを使い果たした。
 だが、反発する力はまだまだ残っていた。
 玉の内部では、光の粒子が反発し合っていた。
 ゆえに、その玉は直後に花開くように渦に戻った。
 しかしその形も一瞬。
 渦は瞬時に崩れ、細切れになった。
 まるで小さな三日月の群れのように。
 いや、その形も一瞬で崩れた。
 曲がり、うねる。まるで蛇のように。
 そしてそれは小さな蛇の群れとなった。
 その子蛇達は飢えていた。
 だから目の前の精霊達に食らいついた。
 噛み付き、えぐり、ちぎる。
 引き裂き、なぎ払う。
 嵐のごとき暴虐の限りを尽くしながら前へ前へ。
 その暴行は草木などの障害物にも等しくおよんだ。
 すべてをなぎ払いながらひたすらに前へ。
 蛇の群れが通ったあとには何も残らない。
 そうして蛇達は前方の邪魔者のあらかたをなぎ払ったあと力尽きた。
 嵐のあとにつかの間であろう静寂が訪れる。
 その静寂をアリスが破った。

(今よアルフレッド! 包囲に穴が開いたわ!)

 そこから逃げよう、という思いを含んだ叫び。
 であったが、

(……アルフレッド?)

 アルフレッドはその場から動かなかった。
 アルフレッドは仁王立ちのまま、口を開いた。

「まだダメだ、アリス」

 なぜか。アルフレッドは答えた。

「いま逃げたら、君を助けられない」

 アルフレッドはわかっていた。
 この戦力差ではアリスの本体は一ヶ月ももたないことを。
 さすがのアルフレッドでも、一ヶ月で戻ってくることなど出来ない。
 だからアルフレッドの選択肢は一つしか無かった。
 アルフレッドはそれを声に出した。

「だから今ここで、できるだけ敵の戦力を減らす」

 これにアリスは反論しようとした。
 しかしアルフレッドはそれを遮るように叫んだ。

「さあ、どこからでもかかって来い!」

 それが合図となった。
 敵の精霊達が再び集まり、独自の陣形を組み始める。
 その動きは高速演算を行っているアルフレッドにとってはあまりに遅すぎた。
 だから、

「雄雄ォッ!」

 アルフレッドは雄たけびとともに、精霊達に向かって切り込んだ。
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