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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十話 神と精霊使い(9)
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二本の閃光がぶつかり合う。
「っ!」
衝撃と共に光の粒子が派手に舞い散る。
結果は五分。
双方ともに姿勢を崩す。
いや、やはり重量と筋力で勝るアーティットのほうが若干有利か。
しかしアーティットはさらに踏み込むことはしなかった。
考えるべきことがあった。
先の迎撃についてだ。
反射による行動だった。思考の短さと脳波の出現位置からして間違いない。
そしてアルフレッドはこちらの攻撃に反応していたわけでは無い。後転動作中だから見えていない。
あれは「追撃されそうだから、適当に木刀を振ってけん制を置いておく」という思考の行動だった。
妙なのはそこだ。
違和感がある。
「追撃に対してのけん制」という思考はぶつかり合いのあとに生じたものだ。
だから違和感がある。その思考が「感知能力者のために用意された建前」のように感じられるからだ。
そしてそのけん制がこちらの攻撃と上手く噛み合ったということになる。
そんな都合のいい偶然はめったに無い。
しかしアルフレッドはそんな偶然を何度も引き起こしている。
こういうことはこれまでに重ねた試合の中で何度もあった。
だから偶然とは思えない。偶然では無く、技術なのではないかと感じる。
だからその秘密を知りたい。
その奇妙な技を自分も体得したい。
そして奇妙な点はもう一つある。
また徒手空拳の構えに戻っているのだ。
どうして素手にこだわる?
はっきり言って不利でしかない。
相手をあなどっているわけでは無い。緊張感と本気さが感じ取れる。
さらに不思議なのが、根拠が無いこと。
素手だから有利になる点がある、そういう理由がアルフレッドの心の中に無いのだ。
根拠不明のこだわり。アルフレッドは理由も無く素手を基本にして戦っている。
「……」
アーティットはゆっくりと、そして静かに構えを整えた。
どうすればアルフレッドの秘密を解けるのか、それを考えながら。
もう一度、先ほどのような状況を作り出してみるか? アーティットはそう考えた。
しかし偶然を頼りにはできない。
能動的に先の状況を作るには、少々手荒にならざるを得ない。
寸止めに自信はあるが、もしかしたらどちらかがケガをすることになるかもな、アーティットはそんな物騒な考えを実行に移そうとした。
が、直後、
「そこまでだ、アーティット」
バークの声が闇夜の中から響いた。
その声にアーティットは素直に従い、剣をおろした。
バークが近づいてきていたことも分かっていたし、自分が物騒な考えを抱いたから試合を止めたことも感じ取れたからだ。
そしてバークはアーティットのそばに歩み寄りながら止めた理由をさらに付け加えた。
「夜だからアルフレッドは寸止めが難しい。だからアルフレッドは手を出しあぐねていた。お前はそれが分かっていて夜に試合を申し込んだな? お前のほうが黒星が多いことは知っているが、こんなやり方で白星を増やそうというのはあまり感心しないぞ?」
すべてお見通しであった。
だからアーティットは素直に認め、
「バレちゃしょうがない」
剣を鞘におさめた。
だが、アーティットにはまだ気になることがあった。
ちょうどいい機会なのでアーティットは聞いてみることにした。
「なあアルフレッド、ちょっと聞いていいか?」
ん? とアルフレッドがうながすと、アーティットは尋ねた。
「なんでお前はこの試合を素直に受けた? 夜は不利であることが分かっていたのは感じ取れている。その不利に対してお前には緊張も焦りもあった」
そしてアーティットは言葉を重ね、核心に触れるであろう質問をぶつけた。
「しかしお前は『それでも夜の戦いの訓練は必要だ』と考えていた。奇妙なのはそう思う理由がお前の中に無いことだ」
まるで睡眠欲や食欲のような条件反射による動機だったぞ、アーティットはそう感じていたが、それは声には出さなかった。
そしてアルフレッドの答えは、
「……わからない。自分がどうしてそう思ったのか」
予想通りのものであった。
理由が無いのだから当たり前だ。
しかしアルフレッドは言葉を付け加えた。
「……いつか必要になる、そう思ったのかもしれない」
これにアーティットは首を振った。
「俺はそれなりの感知能力者だ。だから分かる。お前の中にそんな気持ちは微塵も無かった。だから奇妙なんだ」
アルフレッドの答えは、とっさに作ったその場しのぎの理由であった。
「「……」」
そしてバークとクラリスも二人のそのやり取りに聞き入っていた。
バークも同じ気持ちであった。感知能力者からすると、アルフレッドには奇妙な点が多い。
その秘密がわかれば、能力者としてさらなる上の段階に至れるかもしれない、アーティットと同じそんな思いをバークも持っていた。
だからバークとアーティットはアルフレッドの次の回答に期待していた。
が、
「……すまない。俺にはよくわからない」
アルフレッドは二人の期待に応えられなかった。
しかし二人は残念だとは思わなかった。
理由が無いのだから当たり前だ。本人にもはっきりと分かるはずがない。「かもしれない」程度のことしか言えないだろう。
だからアーティットは、
「そうか。ならしょうがないな」
あっさりとあきらめることができた。
そしてもう用は無い。だから、
「今日はこれでお開きとしよう」
アーティットは終わりを宣言した。
これにアルフレッドとクラリスは頷きを返すと、バークは客人であるアルフレッドに対して口を開いた。
「夜遅くにアーティットのわがままに付き合わせてすまなかったな。今日はもうゆっくりと休んでくれ」
「ああ、そうするよ。ありがとう」
この日はそれ以上何事も無く終わった。
「っ!」
衝撃と共に光の粒子が派手に舞い散る。
結果は五分。
双方ともに姿勢を崩す。
いや、やはり重量と筋力で勝るアーティットのほうが若干有利か。
しかしアーティットはさらに踏み込むことはしなかった。
考えるべきことがあった。
先の迎撃についてだ。
反射による行動だった。思考の短さと脳波の出現位置からして間違いない。
そしてアルフレッドはこちらの攻撃に反応していたわけでは無い。後転動作中だから見えていない。
あれは「追撃されそうだから、適当に木刀を振ってけん制を置いておく」という思考の行動だった。
妙なのはそこだ。
違和感がある。
「追撃に対してのけん制」という思考はぶつかり合いのあとに生じたものだ。
だから違和感がある。その思考が「感知能力者のために用意された建前」のように感じられるからだ。
そしてそのけん制がこちらの攻撃と上手く噛み合ったということになる。
そんな都合のいい偶然はめったに無い。
しかしアルフレッドはそんな偶然を何度も引き起こしている。
こういうことはこれまでに重ねた試合の中で何度もあった。
だから偶然とは思えない。偶然では無く、技術なのではないかと感じる。
だからその秘密を知りたい。
その奇妙な技を自分も体得したい。
そして奇妙な点はもう一つある。
また徒手空拳の構えに戻っているのだ。
どうして素手にこだわる?
はっきり言って不利でしかない。
相手をあなどっているわけでは無い。緊張感と本気さが感じ取れる。
さらに不思議なのが、根拠が無いこと。
素手だから有利になる点がある、そういう理由がアルフレッドの心の中に無いのだ。
根拠不明のこだわり。アルフレッドは理由も無く素手を基本にして戦っている。
「……」
アーティットはゆっくりと、そして静かに構えを整えた。
どうすればアルフレッドの秘密を解けるのか、それを考えながら。
もう一度、先ほどのような状況を作り出してみるか? アーティットはそう考えた。
しかし偶然を頼りにはできない。
能動的に先の状況を作るには、少々手荒にならざるを得ない。
寸止めに自信はあるが、もしかしたらどちらかがケガをすることになるかもな、アーティットはそんな物騒な考えを実行に移そうとした。
が、直後、
「そこまでだ、アーティット」
バークの声が闇夜の中から響いた。
その声にアーティットは素直に従い、剣をおろした。
バークが近づいてきていたことも分かっていたし、自分が物騒な考えを抱いたから試合を止めたことも感じ取れたからだ。
そしてバークはアーティットのそばに歩み寄りながら止めた理由をさらに付け加えた。
「夜だからアルフレッドは寸止めが難しい。だからアルフレッドは手を出しあぐねていた。お前はそれが分かっていて夜に試合を申し込んだな? お前のほうが黒星が多いことは知っているが、こんなやり方で白星を増やそうというのはあまり感心しないぞ?」
すべてお見通しであった。
だからアーティットは素直に認め、
「バレちゃしょうがない」
剣を鞘におさめた。
だが、アーティットにはまだ気になることがあった。
ちょうどいい機会なのでアーティットは聞いてみることにした。
「なあアルフレッド、ちょっと聞いていいか?」
ん? とアルフレッドがうながすと、アーティットは尋ねた。
「なんでお前はこの試合を素直に受けた? 夜は不利であることが分かっていたのは感じ取れている。その不利に対してお前には緊張も焦りもあった」
そしてアーティットは言葉を重ね、核心に触れるであろう質問をぶつけた。
「しかしお前は『それでも夜の戦いの訓練は必要だ』と考えていた。奇妙なのはそう思う理由がお前の中に無いことだ」
まるで睡眠欲や食欲のような条件反射による動機だったぞ、アーティットはそう感じていたが、それは声には出さなかった。
そしてアルフレッドの答えは、
「……わからない。自分がどうしてそう思ったのか」
予想通りのものであった。
理由が無いのだから当たり前だ。
しかしアルフレッドは言葉を付け加えた。
「……いつか必要になる、そう思ったのかもしれない」
これにアーティットは首を振った。
「俺はそれなりの感知能力者だ。だから分かる。お前の中にそんな気持ちは微塵も無かった。だから奇妙なんだ」
アルフレッドの答えは、とっさに作ったその場しのぎの理由であった。
「「……」」
そしてバークとクラリスも二人のそのやり取りに聞き入っていた。
バークも同じ気持ちであった。感知能力者からすると、アルフレッドには奇妙な点が多い。
その秘密がわかれば、能力者としてさらなる上の段階に至れるかもしれない、アーティットと同じそんな思いをバークも持っていた。
だからバークとアーティットはアルフレッドの次の回答に期待していた。
が、
「……すまない。俺にはよくわからない」
アルフレッドは二人の期待に応えられなかった。
しかし二人は残念だとは思わなかった。
理由が無いのだから当たり前だ。本人にもはっきりと分かるはずがない。「かもしれない」程度のことしか言えないだろう。
だからアーティットは、
「そうか。ならしょうがないな」
あっさりとあきらめることができた。
そしてもう用は無い。だから、
「今日はこれでお開きとしよう」
アーティットは終わりを宣言した。
これにアルフレッドとクラリスは頷きを返すと、バークは客人であるアルフレッドに対して口を開いた。
「夜遅くにアーティットのわがままに付き合わせてすまなかったな。今日はもうゆっくりと休んでくれ」
「ああ、そうするよ。ありがとう」
この日はそれ以上何事も無く終わった。
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