上 下
102 / 545
第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十話 神と精霊使い(6)

しおりを挟む
   ◆◆◆

 アルフレッドはバークの後ろについていく形で現場に向かった。
 現場の牧場では既に多くの人達が集まっていた。
 皆なにかしらの武器を持っていた。
 弓がほとんどだが、槍やナタで武装している者もいる。
 全員、筋肉質で屈強だ。
 この者達が先ほどバークが言った戦士達なのだろう。
 町中から召集をかけたのか、数百名はいる。
 その中に、変わった武器を持つ者が二人いた。
 一人はよく知っている男だった。
 屈強な戦士達の中でも目立つ巨体。
 無骨な手に握り締められているのはナタ。
 だが、普通のナタでは無かった。
 まるでサイラスの両手剣のように長く太い。
 鞘は無く、ゆえに大男は肩に担いでいる。
 その大男は現場に姿を現したばかりのバークに向かって声を上げた。

「ここだ、バーク!」

 この大男も、族長であるバークリックのことをバークと呼べる人間であった。
 バークはその呼び声に応えた。

「もう集まっているとは、早いな」

 これに大男は返事をせず、「当然だ」とでも言うかのような表情だけを返した。
 そして大男はアルフレッドのほうに歩み寄りながら口を開いた。

「ひさしぶりだなアルフレッド。元気にしていたか?」

 アルフレッドは頷いて答えた。

「ああ。そっちも変わり無いようだな、アーティット」

 アーティットと呼ばれた男は「当然だ」とでも言うかのような笑顔で口を開いた。

「元気なのはいいことだが、腕は鈍ってないだろうなアルフレッド? これが終わったら久しぶりに一戦どうだ?」

 これにアルフレッドは同じ笑顔で応えた。

「ここで一泊するつもりだし、かまわないよ」

 その嬉しい答えに、アーティットは笑みを「楽しみだ」という期待感のにじんだものに変えた。
 しかしその笑みはすぐに崩れた。
 大事なことを思い出したからだ。
 アーティットはそれを声に出した。

「そうだ、お前に紹介しておきたいやつがいるんだ」

 アーティットはその者がいる方向に顔を向けて声を上げた。

「おーい、クラリス!」

 その大きな声が響いた直後、戦士の集団の中から一人の女性が歩み出た。
 そして彼女はもう一人の変わった武器の使い手であった。
 その手に握られているのは彼女の背丈ほどもある大鎌。
 草刈りに使われている農具だ。
 どうしてそれを武器に? アルフレッドがそう思った瞬間、感知能力者でもあるアーティットが答えた。

「クラリスは以前は放牧を主な仕事にしていてな。狩りもやっていたんだが、そっちは趣味という感じだった。だが、その狩りがなかなか上手くてな。それを見た俺が戦士に勧誘したってわけだ」

 狩りもその大鎌で? 直後に浮かんだ疑問にもアーティットは答えた。

「長い武器だが森の中でも器用に振るぞ。しかも彼女はかなり動ける。速さだけならお前と互角かもな」

 そう言ったあと、アーティットは「挨拶しろ」という意味でクラリスの背中を叩いた。
 クラリスは少し緊張した面持ちで口を開いた。

「はじめましてアルフレッド。クラリスと申します。あなたのお話は色々と聞かされています」
「どんな話か知らないけどよろしく、クラリス」

 ちょっと硬いな、そう思ったアーティットは一つ提案をした。

「このあと彼女とも手合わせしてやってはくれないか、アルフレッド? 良い訓練になる」

 アルフレッドは頷いて答えた。

「ああ、いいとも」
「ありがとうございます、アルフレッドさん」

 双方のあいだに一つの約束ができた直後、あえて黙っていたバークがようやく口を開いた。

「挨拶は終わったか? なら、そろそろ仕事にかかろう」

 この声に、アルフレッド達は事件のほうに意識を戻した。
 バークはアルフレッド達から視線を外し、地面の上で事切れている家畜のほうに目を向けながら尋ねた。

「それで、被害はどれくらいだ? そのヤギ一頭だけか?」

 アーティットは首を振った。

「いいや、もう一頭いる。そっちは連れ去られた」

 バークは「そうか」と返事をしながら事切れているヤギに歩み寄り、ひざまずいた。
 そしてバークはヤギの頭に手をかざしながら口を開いた。

「このヤギに宿らせた『精霊』よ、我が呼びかけに答えたまえ」

 言いながら、バークは手の平から虫を放っていた。
 放たれた虫はヤギの脳内にもぐりこみ、そこにいる『何か』に接触した。
 すると、その『何か』は動き始めた。
 隙間から、血管から外へ飛び出す。
 それは虫の集合体であった。
 バークはそれに向かって口を開いた。

「精霊よ、ヤギを襲ったものがどこへ走り去ったのか、我々に示したまえ」

 喋りながらバークは再び虫をそれに向かって放った。
 精霊と呼ばれたそれの中にバークの虫がもぐりこむ。
 直後、精霊は集合を解き、虫の群れに分裂した。
 バーク達を導くように、群れが森のほうへと飛んでいく。

「追うぞ」

 そして直後に放たれたバークの声とともに、アルフレッドと戦士達は走り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

最弱クラスと言われている死霊術師、前世記憶でサブサブクラスまで得て最強無敵になる~最強ネクロマンサーは全てを蹂躙する~

榊与一
ファンタジー
ある日突然、ユーリは前世の記憶を思い出す。 そして気づく。 今いる場所が、自分がやり込んでいたヘブンスオンラインというゲームに瓜二つである事に。 この物語は最弱職と言われる死霊術師クラスで生まれて来たユーリが、前世廃知識を使って最強のネクロマンサーに昇り詰める物語である。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人
ファンタジー
 「ちょっと運命的かもとか無駄にときめいたこのあたしの感動は見事に粉砕よッ」  琥珀の瞳に涙を浮かべて言い放つ少女の声が、彼の鼓膜を打つ。  その右手には片刃の長剣が握られていた。  彼は剣士であり傭兵だ。名はダーンという。  アテネ王国の傭兵隊に所属し、現在は、国王陛下の勅命を受けて任務中だった。  その任務の目的の一つ、『消息を絶った同盟国要人の発見保護』を、ここで達成しようとしているのだが……。  ここに至るまで、彼の義理の兄で傭兵隊長のナスカと、その恋人にして聖女と謳われたホーチィニ、弓兵の少女エルと行動を共にしていたが……。紆余曲折あって、ダーンの単独行動となった矢先に、それは起こった。  咄嗟に助けたと思った対象がまさか、探していた人物とは……というよりも、女とは思わなかった。  そんな後悔と右頬に残るヒリヒリした痛みよりも、重厚な存在感として左手に残るあり得ない程の柔らな感覚。  目の前には、視線を向けるだけでも気恥ずかしくなる程の美しさ。  女性の機微は全く通じないし、いつもどこか冷めているような男、アテネ一の朴念仁と謳われた剣士、ダーン。  世界最大の王国の至宝と謳われているが、その可憐さとは裏腹にどこか素直になれない少女ステフ。  理力文明の最盛期、二人が出会ったその日から、彼らの世界は大きく変化していき――琥珀の瞳に宿る想いと追憶が、彼の蒼穹の瞳に封じられていた熱を呼び覚ます。  蒼穹の激情へと至る過程に、彼らの絆と想いが描く軌跡の物語。

ゾンビパウダー

ろぶすた
ファンタジー
【第一部】  研究員である東雲は死別により参ってしまった人達の精神的な療養のために常世から幽世に一時的に臨死体験を行える新薬【ゾンビパウダー】の開発を行なった。  東雲達は幽世の世界を旅するがさまざまな問題に直面していく。  神々の思惑が蠢くこの世界、東雲達はどう切り抜けていくのか。 【第二部】  東雲が考えていた本来のその目的とは別の目的で【ゾンビパウダー】は利用され始め、常世と幽世の双方の思惑が動き出し、神々の陰謀に巻き込まれていく…。 ※一部のみカクヨムにも投稿

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。 そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。 冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?

SFサイドメニュー

アポロ
SF
短編SF。かわいくて憎たらしい近未来の物語。 ★ 少年アンバー・ハルカドットオムは宇宙船飛車八号の船内コロニーに生まれました。その正体は超高度な人工知能を搭載された船の意思により生み出されたスーパーアンドロイドです。我々人類はユートピアを期待しています。彼の影響を認めれば新しい世界を切り開けるかもしれない。認めなければディストピアへ辿り着いてしまうかもしれない。アンバーは、人間の子どもになる夢を見ているそうです。そう思っててもいい? ★ 完結後は2024年のnote創作大賞へ。 そのつもりになって見直し出したところいきなり頭を抱えました。 気配はあるプロト版だけれど不完全要素がやや多すぎると猛省中です。 直すとしても手の入れ方に悩む部分多々。 新版は大幅な改変になりそう。

処理中です...