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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十話 神と精霊使い(6)
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◆◆◆
アルフレッドはバークの後ろについていく形で現場に向かった。
現場の牧場では既に多くの人達が集まっていた。
皆なにかしらの武器を持っていた。
弓がほとんどだが、槍やナタで武装している者もいる。
全員、筋肉質で屈強だ。
この者達が先ほどバークが言った戦士達なのだろう。
町中から召集をかけたのか、数百名はいる。
その中に、変わった武器を持つ者が二人いた。
一人はよく知っている男だった。
屈強な戦士達の中でも目立つ巨体。
無骨な手に握り締められているのはナタ。
だが、普通のナタでは無かった。
まるでサイラスの両手剣のように長く太い。
鞘は無く、ゆえに大男は肩に担いでいる。
その大男は現場に姿を現したばかりのバークに向かって声を上げた。
「ここだ、バーク!」
この大男も、族長であるバークリックのことをバークと呼べる人間であった。
バークはその呼び声に応えた。
「もう集まっているとは、早いな」
これに大男は返事をせず、「当然だ」とでも言うかのような表情だけを返した。
そして大男はアルフレッドのほうに歩み寄りながら口を開いた。
「ひさしぶりだなアルフレッド。元気にしていたか?」
アルフレッドは頷いて答えた。
「ああ。そっちも変わり無いようだな、アーティット」
アーティットと呼ばれた男は「当然だ」とでも言うかのような笑顔で口を開いた。
「元気なのはいいことだが、腕は鈍ってないだろうなアルフレッド? これが終わったら久しぶりに一戦どうだ?」
これにアルフレッドは同じ笑顔で応えた。
「ここで一泊するつもりだし、かまわないよ」
その嬉しい答えに、アーティットは笑みを「楽しみだ」という期待感のにじんだものに変えた。
しかしその笑みはすぐに崩れた。
大事なことを思い出したからだ。
アーティットはそれを声に出した。
「そうだ、お前に紹介しておきたいやつがいるんだ」
アーティットはその者がいる方向に顔を向けて声を上げた。
「おーい、クラリス!」
その大きな声が響いた直後、戦士の集団の中から一人の女性が歩み出た。
そして彼女はもう一人の変わった武器の使い手であった。
その手に握られているのは彼女の背丈ほどもある大鎌。
草刈りに使われている農具だ。
どうしてそれを武器に? アルフレッドがそう思った瞬間、感知能力者でもあるアーティットが答えた。
「クラリスは以前は放牧を主な仕事にしていてな。狩りもやっていたんだが、そっちは趣味という感じだった。だが、その狩りがなかなか上手くてな。それを見た俺が戦士に勧誘したってわけだ」
狩りもその大鎌で? 直後に浮かんだ疑問にもアーティットは答えた。
「長い武器だが森の中でも器用に振るぞ。しかも彼女はかなり動ける。速さだけならお前と互角かもな」
そう言ったあと、アーティットは「挨拶しろ」という意味でクラリスの背中を叩いた。
クラリスは少し緊張した面持ちで口を開いた。
「はじめましてアルフレッド。クラリスと申します。あなたのお話は色々と聞かされています」
「どんな話か知らないけどよろしく、クラリス」
ちょっと硬いな、そう思ったアーティットは一つ提案をした。
「このあと彼女とも手合わせしてやってはくれないか、アルフレッド? 良い訓練になる」
アルフレッドは頷いて答えた。
「ああ、いいとも」
「ありがとうございます、アルフレッドさん」
双方のあいだに一つの約束ができた直後、あえて黙っていたバークがようやく口を開いた。
「挨拶は終わったか? なら、そろそろ仕事にかかろう」
この声に、アルフレッド達は事件のほうに意識を戻した。
バークはアルフレッド達から視線を外し、地面の上で事切れている家畜のほうに目を向けながら尋ねた。
「それで、被害はどれくらいだ? そのヤギ一頭だけか?」
アーティットは首を振った。
「いいや、もう一頭いる。そっちは連れ去られた」
バークは「そうか」と返事をしながら事切れているヤギに歩み寄り、ひざまずいた。
そしてバークはヤギの頭に手をかざしながら口を開いた。
「このヤギに宿らせた『精霊』よ、我が呼びかけに答えたまえ」
言いながら、バークは手の平から虫を放っていた。
放たれた虫はヤギの脳内にもぐりこみ、そこにいる『何か』に接触した。
すると、その『何か』は動き始めた。
隙間から、血管から外へ飛び出す。
それは虫の集合体であった。
バークはそれに向かって口を開いた。
「精霊よ、ヤギを襲ったものがどこへ走り去ったのか、我々に示したまえ」
喋りながらバークは再び虫をそれに向かって放った。
精霊と呼ばれたそれの中にバークの虫がもぐりこむ。
直後、精霊は集合を解き、虫の群れに分裂した。
バーク達を導くように、群れが森のほうへと飛んでいく。
「追うぞ」
そして直後に放たれたバークの声とともに、アルフレッドと戦士達は走り出した。
アルフレッドはバークの後ろについていく形で現場に向かった。
現場の牧場では既に多くの人達が集まっていた。
皆なにかしらの武器を持っていた。
弓がほとんどだが、槍やナタで武装している者もいる。
全員、筋肉質で屈強だ。
この者達が先ほどバークが言った戦士達なのだろう。
町中から召集をかけたのか、数百名はいる。
その中に、変わった武器を持つ者が二人いた。
一人はよく知っている男だった。
屈強な戦士達の中でも目立つ巨体。
無骨な手に握り締められているのはナタ。
だが、普通のナタでは無かった。
まるでサイラスの両手剣のように長く太い。
鞘は無く、ゆえに大男は肩に担いでいる。
その大男は現場に姿を現したばかりのバークに向かって声を上げた。
「ここだ、バーク!」
この大男も、族長であるバークリックのことをバークと呼べる人間であった。
バークはその呼び声に応えた。
「もう集まっているとは、早いな」
これに大男は返事をせず、「当然だ」とでも言うかのような表情だけを返した。
そして大男はアルフレッドのほうに歩み寄りながら口を開いた。
「ひさしぶりだなアルフレッド。元気にしていたか?」
アルフレッドは頷いて答えた。
「ああ。そっちも変わり無いようだな、アーティット」
アーティットと呼ばれた男は「当然だ」とでも言うかのような笑顔で口を開いた。
「元気なのはいいことだが、腕は鈍ってないだろうなアルフレッド? これが終わったら久しぶりに一戦どうだ?」
これにアルフレッドは同じ笑顔で応えた。
「ここで一泊するつもりだし、かまわないよ」
その嬉しい答えに、アーティットは笑みを「楽しみだ」という期待感のにじんだものに変えた。
しかしその笑みはすぐに崩れた。
大事なことを思い出したからだ。
アーティットはそれを声に出した。
「そうだ、お前に紹介しておきたいやつがいるんだ」
アーティットはその者がいる方向に顔を向けて声を上げた。
「おーい、クラリス!」
その大きな声が響いた直後、戦士の集団の中から一人の女性が歩み出た。
そして彼女はもう一人の変わった武器の使い手であった。
その手に握られているのは彼女の背丈ほどもある大鎌。
草刈りに使われている農具だ。
どうしてそれを武器に? アルフレッドがそう思った瞬間、感知能力者でもあるアーティットが答えた。
「クラリスは以前は放牧を主な仕事にしていてな。狩りもやっていたんだが、そっちは趣味という感じだった。だが、その狩りがなかなか上手くてな。それを見た俺が戦士に勧誘したってわけだ」
狩りもその大鎌で? 直後に浮かんだ疑問にもアーティットは答えた。
「長い武器だが森の中でも器用に振るぞ。しかも彼女はかなり動ける。速さだけならお前と互角かもな」
そう言ったあと、アーティットは「挨拶しろ」という意味でクラリスの背中を叩いた。
クラリスは少し緊張した面持ちで口を開いた。
「はじめましてアルフレッド。クラリスと申します。あなたのお話は色々と聞かされています」
「どんな話か知らないけどよろしく、クラリス」
ちょっと硬いな、そう思ったアーティットは一つ提案をした。
「このあと彼女とも手合わせしてやってはくれないか、アルフレッド? 良い訓練になる」
アルフレッドは頷いて答えた。
「ああ、いいとも」
「ありがとうございます、アルフレッドさん」
双方のあいだに一つの約束ができた直後、あえて黙っていたバークがようやく口を開いた。
「挨拶は終わったか? なら、そろそろ仕事にかかろう」
この声に、アルフレッド達は事件のほうに意識を戻した。
バークはアルフレッド達から視線を外し、地面の上で事切れている家畜のほうに目を向けながら尋ねた。
「それで、被害はどれくらいだ? そのヤギ一頭だけか?」
アーティットは首を振った。
「いいや、もう一頭いる。そっちは連れ去られた」
バークは「そうか」と返事をしながら事切れているヤギに歩み寄り、ひざまずいた。
そしてバークはヤギの頭に手をかざしながら口を開いた。
「このヤギに宿らせた『精霊』よ、我が呼びかけに答えたまえ」
言いながら、バークは手の平から虫を放っていた。
放たれた虫はヤギの脳内にもぐりこみ、そこにいる『何か』に接触した。
すると、その『何か』は動き始めた。
隙間から、血管から外へ飛び出す。
それは虫の集合体であった。
バークはそれに向かって口を開いた。
「精霊よ、ヤギを襲ったものがどこへ走り去ったのか、我々に示したまえ」
喋りながらバークは再び虫をそれに向かって放った。
精霊と呼ばれたそれの中にバークの虫がもぐりこむ。
直後、精霊は集合を解き、虫の群れに分裂した。
バーク達を導くように、群れが森のほうへと飛んでいく。
「追うぞ」
そして直後に放たれたバークの声とともに、アルフレッドと戦士達は走り出した。
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