94 / 545
第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第九話 ヘルハルトという男(13)
しおりを挟む
◆◆◆
案内されたのは奥の部屋だった。
森の中であるうえに小さな窓が一つしか無いため薄暗い。
そのため昼間であるにもかかわらず、ろうそくが何本も灯っていた。
まるで病室だ、サイラスはそう思った。
なぜなら、唯一の窓際に置かれているベッドの上には、一人の若い女が寝かされていたからだ。
かなり若い。十台なかばごろに見える。
その少女の周りに三人の女が囲むように立っていた。
見守るようにでは無く、囲んでいると感じたのはあるもののせいだ。
左の壁ぎわに配置されているテーブルの上には、図面らしきものが何枚も乱雑に重ねられていた。
ろうそくに照らされて浮かんでいるその内容はサイラスには意味不明のものであった。
だから囲んでいると感じた。あの少女は実験台にされている、そう思ったからだ。
そんなサイラスが抱いた思いに対し、
「その通り。見た通りだ」
ルイスは正解だと応えた。
そしてルイスはサイラスから意識を外し、囲んでいる女の一人、老婆に向かって話しかけた。
「その子が書簡に書いてあった『有望株』か?」
これに老婆は頷きを返した。
「ええ。今回は豊作でございます。『前回もそうでした』が、『ルイス様の検査を通るものが少なく』、結果としてあのような弱い素体が選ばれることになってしまいましたが……」
その言葉にサイラスは引っかかった。
ルイスが重要な作業をやっていることが明らかだからだ。
そんなものが自分に務まるだろうか? 最近大工の声が聞こえ始めたばかりの自分に? 無理としか思えない。
しかしルイスは勝手に話を進めた。
「わかった。それでは私とサイラスでその子を見ることにする」
これに老婆は小さな礼を返し、口を開いた。
「よろしくお願いします」
他の女性達も老婆にならって小さく一礼。
そして老婆は女性達を引き連れて部屋から出て行った。
廊下から響く足音が離れていく。
その距離が十分なものになった直後、
「では始めよう」
ルイスは何かの開始を宣言した。
何を、と聞く前にルイスは答えた。
「ここで何が行われているのか、それはお前の想像通りだ。ここでシャロンの新しい体を選んでいる」
「……」
「そんなに緊張しなくていい。大した仕事じゃない。大工の声が聞こえるのであれば、誰にでも出来る仕事だ。やることは至極単純。シャロンの魂をこの素体に入れて、拒絶されないかどうかを大工の声で判断する。それだけだ」
確かに単純であった。
だが、サイラスには問題があった。
サイラスはようやくそれを声に出した。
「待て。お前は私に勝手に期待しているようだが、私は大工の声を普段から聞けるわけでは無いぞ?」
その言葉に、ルイスは「そういえばそうだったな」と返し、尋ねた。
「夢の中でしか聞いたことが無いのだったな?」
これにサイラスが「ああ」と頷くと、ルイスは「ちょうどいい」と言ってテーブルに歩み寄った。
テーブルの上には図面の他に、粉末の入ったガラス瓶があった。
ルイスはそれを手に取りながら言った。
「これは飲めば強制的に眠ることが出来る」
ベッドの上で寝ている彼女に使っている薬なのだろう。
ルイスはそれをスプーンで少しすくい、コップの中に入れた。
同じテーブルの上にあった水差しで水を注ぎ、かるくかき混ぜる。
そうしてわずかに濁った液体を、ルイスはサイラスに手渡した。
「……」
しかしサイラスはすぐには口をつけなかった。
サイラスは少し迷っていた。
シャロンの秘密は知りたいが、この仕事を引き継ぎたいという気持ちはやはり無い。
だが、これを飲んだら引き返せなくなるような気がする。
「……」
だからサイラスは迷っていた。
しかし魅力的な要素はある。
この技術を学べば擬似的な不死になれる可能性があるからだ。
不死、永遠の命、その言葉は甘美であった。
今の状況で無防備になるのは少し怖いが、話に乗る価値はある。
サイラスはそれを結論とし、コップの中の液体を飲み干した。
案内されたのは奥の部屋だった。
森の中であるうえに小さな窓が一つしか無いため薄暗い。
そのため昼間であるにもかかわらず、ろうそくが何本も灯っていた。
まるで病室だ、サイラスはそう思った。
なぜなら、唯一の窓際に置かれているベッドの上には、一人の若い女が寝かされていたからだ。
かなり若い。十台なかばごろに見える。
その少女の周りに三人の女が囲むように立っていた。
見守るようにでは無く、囲んでいると感じたのはあるもののせいだ。
左の壁ぎわに配置されているテーブルの上には、図面らしきものが何枚も乱雑に重ねられていた。
ろうそくに照らされて浮かんでいるその内容はサイラスには意味不明のものであった。
だから囲んでいると感じた。あの少女は実験台にされている、そう思ったからだ。
そんなサイラスが抱いた思いに対し、
「その通り。見た通りだ」
ルイスは正解だと応えた。
そしてルイスはサイラスから意識を外し、囲んでいる女の一人、老婆に向かって話しかけた。
「その子が書簡に書いてあった『有望株』か?」
これに老婆は頷きを返した。
「ええ。今回は豊作でございます。『前回もそうでした』が、『ルイス様の検査を通るものが少なく』、結果としてあのような弱い素体が選ばれることになってしまいましたが……」
その言葉にサイラスは引っかかった。
ルイスが重要な作業をやっていることが明らかだからだ。
そんなものが自分に務まるだろうか? 最近大工の声が聞こえ始めたばかりの自分に? 無理としか思えない。
しかしルイスは勝手に話を進めた。
「わかった。それでは私とサイラスでその子を見ることにする」
これに老婆は小さな礼を返し、口を開いた。
「よろしくお願いします」
他の女性達も老婆にならって小さく一礼。
そして老婆は女性達を引き連れて部屋から出て行った。
廊下から響く足音が離れていく。
その距離が十分なものになった直後、
「では始めよう」
ルイスは何かの開始を宣言した。
何を、と聞く前にルイスは答えた。
「ここで何が行われているのか、それはお前の想像通りだ。ここでシャロンの新しい体を選んでいる」
「……」
「そんなに緊張しなくていい。大した仕事じゃない。大工の声が聞こえるのであれば、誰にでも出来る仕事だ。やることは至極単純。シャロンの魂をこの素体に入れて、拒絶されないかどうかを大工の声で判断する。それだけだ」
確かに単純であった。
だが、サイラスには問題があった。
サイラスはようやくそれを声に出した。
「待て。お前は私に勝手に期待しているようだが、私は大工の声を普段から聞けるわけでは無いぞ?」
その言葉に、ルイスは「そういえばそうだったな」と返し、尋ねた。
「夢の中でしか聞いたことが無いのだったな?」
これにサイラスが「ああ」と頷くと、ルイスは「ちょうどいい」と言ってテーブルに歩み寄った。
テーブルの上には図面の他に、粉末の入ったガラス瓶があった。
ルイスはそれを手に取りながら言った。
「これは飲めば強制的に眠ることが出来る」
ベッドの上で寝ている彼女に使っている薬なのだろう。
ルイスはそれをスプーンで少しすくい、コップの中に入れた。
同じテーブルの上にあった水差しで水を注ぎ、かるくかき混ぜる。
そうしてわずかに濁った液体を、ルイスはサイラスに手渡した。
「……」
しかしサイラスはすぐには口をつけなかった。
サイラスは少し迷っていた。
シャロンの秘密は知りたいが、この仕事を引き継ぎたいという気持ちはやはり無い。
だが、これを飲んだら引き返せなくなるような気がする。
「……」
だからサイラスは迷っていた。
しかし魅力的な要素はある。
この技術を学べば擬似的な不死になれる可能性があるからだ。
不死、永遠の命、その言葉は甘美であった。
今の状況で無防備になるのは少し怖いが、話に乗る価値はある。
サイラスはそれを結論とし、コップの中の液体を飲み干した。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
マギアルサーガ~うたかたの世に幕を引け~
松之丞
ファンタジー
――魔物は、災厄。
世界に蔓延る獰猛な獣を、人々はいつからかそう呼んでいた。
人の営みを悉く粉砕する災厄の如き魔物を前に、しかし人類は、剣を執る。
年若い戦士アクセルは、魔物の侵入を防ぐために敷設された関門に駐屯する兵士。
国家安寧の為、彼は決して終わることのない、戦いの日々を送っていた。
だがある日、彼の元に二人の女が現れた。
その一人は、かつて彼が使用人として仕えていた主、ウルリカだった。
尊大な態度でアクセルに迫る、すると彼女は、予想だにしない言葉を放つ。
「あたしが成し遂げる勇者の功業に、貴方も参列なさい」
その言葉が彼を、目を背けてはならない宿命へと誘うのだった。
異世界でのんびり暮らしたい!?
日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?
最弱クラスと言われている死霊術師、前世記憶でサブサブクラスまで得て最強無敵になる~最強ネクロマンサーは全てを蹂躙する~
榊与一
ファンタジー
ある日突然、ユーリは前世の記憶を思い出す。
そして気づく。
今いる場所が、自分がやり込んでいたヘブンスオンラインというゲームに瓜二つである事に。
この物語は最弱職と言われる死霊術師クラスで生まれて来たユーリが、前世廃知識を使って最強のネクロマンサーに昇り詰める物語である。
東海敝国仙肉説伝―とうかいへいこくせんじくせつでん―
かさ よいち
歴史・時代
17世紀後半の東アジア、清国へ使節として赴いていたとある小国の若き士族・朝明(チョウメイ)と己煥(ジーファン)は、帰りの船のなかで怪しげな肉の切り身をみつけた。
その肉の異様な気配に圧され、ふたりはつい口に含んでしまい……
帰国後、日常の些細な違和感から、彼らは己の身体の変化に気付く―――
ただの一士族の子息でしなかった彼らが、国の繁栄と滅亡に巻き込まれながら、仙肉の謎を探す三百余年の物語。
気が向いたときに更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる