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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第九話 ヘルハルトという男(10)
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◆◆◆
そしてルイスは無事に目的地の街に辿り着いた。
これで任務は終わり、そう思ったサイラスは歩きながらルイスに話しかけた。
「そういえば聞いていなかったが、ここには何の用で来たんだ?」
司令官が自ら移動するという危険をおかしてまで、という言葉をサイラスは飲み込んで隠した。脳波を抑えた。
だが、優秀な感知能力者であるルイスにはその程度の隠蔽技術では無意味であった。
しかしルイスは何とも思わずに正直に答えた。
「ここに引っ越すためだ。司令部の機能をここに移そうと考えている」
その答えは正直ではあったが、言葉足らずであることをサイラスは感じ取った。ルイスも隠そうとはしなかった。
ルイスがここに引っ越す理由、それは司令部の機能性とは無関係であった。
それとは別に「良いもの」がここには揃っているからであった。
◆◆◆
ルイスはサイラスと別れ、早速その「良いもの」が集まっているところに足を運んだ。
それは工房。
多くの職人が集まる、巨大な鍛冶場だ。
ルイスが図面をやり取りしていた場所はここであった。
しかし今日からはいつでもすぐに話し合うことができるようになった。
そして今日が会議の初日となる。
ルイスはその会場である試験場へと足を運んだ。
場には既に三人の職人が待っていた。
「お待ちしておりましたルイス様」
その一人が姿を現したルイスに丁寧な挨拶を送る。
「ああ、よろしく頼む」
ルイスは早々に挨拶を返したあと、テーブルの上に置かれているものを指差して尋ねた。
「これがそうか?」
そこには、弾丸と銃が並べて置かれていた。
それは以前ルイスが苦渋を飲んだ失敗作に見えた。
だが、これは違うと、職人の一人が口を開いた。
「既に試射は済ませており、正常に動作することを確認しております」
その言葉を聞きながら、ルイスは弾丸の一つを手に取った。
紙で蓋をされた円柱型の弾丸。
だが、その紙は前の失敗作とは違っていた。
透けてみえるほどに薄い。
たしかに、これならば撃てるだろうなと、ルイスは思った。
前の紙は厚すぎた。あれでは熱が内部に通らない。
しかし、これを採用するのは難しいかもしれないとルイスは思った。
現状の輸送方法に耐えないからだ。これを使うのであれば輸送方法を変える必要がある。
現在、弾丸は麻袋に詰め込まれて輸送されている。
そんな扱い方では確実にこの薄紙は破れてしまうだろう。
ルイスはそこまで考えたあと、弾丸をテーブルの上に戻して銃のほうを手に取った。
その銃も以前のものとは違っていた。
火皿が大きくなっているのだ。以前よりも多くの火薬を入れられるように空洞が大きくなっていた。
前回失敗した原因の一つは熱量が足りなかったからだ。
燃焼時間を増やせば熱は内部に蓄積する。至極単純な解決方法であった。
しかしこれだと、発射時のエネルギーが以前よりも多く火皿側から抜けてしまうことになる。
ゆえにこれも一長一短の改造であった。
だが、この銃にはもう一つ手を加えられている箇所があった。
ルイスはそちらのほうを楽しみにしていた。
だからルイスは声を出して尋ねた。
「もう一つの改造というのは、銃身の内部に刻まれたこれのことだな?」
銃口から内部を覗き込みながらルイスがそう尋ねると、それを考え出した別の職人が答えた。
「はい、そうです」
職人は説明した。
「円柱型の弾を発射するにあたり、従来の銃身では弾道が安定しないという問題が明らかになりました」
既に報告書で知っていたが、ルイスは頷きを返した。
職人は説明を続けた。
「投石器で細長い石を投げた時と同じことが起きるのです。空中で弾が縦や横に回転してしまうのです」
発射された物体は重心を中心に回転し、その回転によって空中でカーブする。無回転の弾を安定して投げ続けるのは難しく、ゆえに弾は丸型が好まれてきた。
ならばどうすればいいのか、職人は答えた。
「しかしこれを解決する知恵は既に存在していました。弓矢です」
職人は両手の指で矢の形を描きながら説明した。
「矢は末端に羽をつけていますが、これは矢を空中できりもみ回転させるためです。その回転によって弾道が安定します。なので私は銃の弾丸にも同じ回転を加えればいいのではないかと考え、その改造を思いついたのです」
その言葉に、ルイスは再び銃口を覗き込んだ。
銃口の内部には螺旋状の溝が何本も並んで掘られていた。
しかし問題が一つある。ルイスはすぐに気づいた。
どうやって弾丸にこの溝をなぞらせるかだ。
だが、職人はその疑問を抱かれることは予想済みであったらしく、ルイスが尋ねるよりも早く答えた。
「その溝を弾丸になぞらせるために、円柱の直径を銃身よりもわずかに大きくします。金属製の円柱は圧縮されながら発射されることになり、溝に食い込むことになります」
金属の質が安定していない現状では圧縮速度に差が生じる。加わる回転にもばらつきが生じるだろう、ルイスはそう思ったがそれは声には出さなかった。
このアイディアがお手軽に採用できてしかも有効であることは明らかだったからだ。
だからルイスは次のように声を上げた。
「このアイディアは即採用だ。すぐに書簡を飛ばしてくれ」
では他のアイディアは不採用? 別の職人はルイスに尋ねようとしたが、それよりも早くルイスは再び口を開いた。
「点火についてのアイディアはまだ保留ということにしておいてくれ。まだ不採用かどうかは決められない」
それはなぜか? その答えをルイスは足元に置いていたあの麻袋をテーブルの上に乗せながら述べた。
「これを使ってちょっと試したいことがある」
そしてルイスは無事に目的地の街に辿り着いた。
これで任務は終わり、そう思ったサイラスは歩きながらルイスに話しかけた。
「そういえば聞いていなかったが、ここには何の用で来たんだ?」
司令官が自ら移動するという危険をおかしてまで、という言葉をサイラスは飲み込んで隠した。脳波を抑えた。
だが、優秀な感知能力者であるルイスにはその程度の隠蔽技術では無意味であった。
しかしルイスは何とも思わずに正直に答えた。
「ここに引っ越すためだ。司令部の機能をここに移そうと考えている」
その答えは正直ではあったが、言葉足らずであることをサイラスは感じ取った。ルイスも隠そうとはしなかった。
ルイスがここに引っ越す理由、それは司令部の機能性とは無関係であった。
それとは別に「良いもの」がここには揃っているからであった。
◆◆◆
ルイスはサイラスと別れ、早速その「良いもの」が集まっているところに足を運んだ。
それは工房。
多くの職人が集まる、巨大な鍛冶場だ。
ルイスが図面をやり取りしていた場所はここであった。
しかし今日からはいつでもすぐに話し合うことができるようになった。
そして今日が会議の初日となる。
ルイスはその会場である試験場へと足を運んだ。
場には既に三人の職人が待っていた。
「お待ちしておりましたルイス様」
その一人が姿を現したルイスに丁寧な挨拶を送る。
「ああ、よろしく頼む」
ルイスは早々に挨拶を返したあと、テーブルの上に置かれているものを指差して尋ねた。
「これがそうか?」
そこには、弾丸と銃が並べて置かれていた。
それは以前ルイスが苦渋を飲んだ失敗作に見えた。
だが、これは違うと、職人の一人が口を開いた。
「既に試射は済ませており、正常に動作することを確認しております」
その言葉を聞きながら、ルイスは弾丸の一つを手に取った。
紙で蓋をされた円柱型の弾丸。
だが、その紙は前の失敗作とは違っていた。
透けてみえるほどに薄い。
たしかに、これならば撃てるだろうなと、ルイスは思った。
前の紙は厚すぎた。あれでは熱が内部に通らない。
しかし、これを採用するのは難しいかもしれないとルイスは思った。
現状の輸送方法に耐えないからだ。これを使うのであれば輸送方法を変える必要がある。
現在、弾丸は麻袋に詰め込まれて輸送されている。
そんな扱い方では確実にこの薄紙は破れてしまうだろう。
ルイスはそこまで考えたあと、弾丸をテーブルの上に戻して銃のほうを手に取った。
その銃も以前のものとは違っていた。
火皿が大きくなっているのだ。以前よりも多くの火薬を入れられるように空洞が大きくなっていた。
前回失敗した原因の一つは熱量が足りなかったからだ。
燃焼時間を増やせば熱は内部に蓄積する。至極単純な解決方法であった。
しかしこれだと、発射時のエネルギーが以前よりも多く火皿側から抜けてしまうことになる。
ゆえにこれも一長一短の改造であった。
だが、この銃にはもう一つ手を加えられている箇所があった。
ルイスはそちらのほうを楽しみにしていた。
だからルイスは声を出して尋ねた。
「もう一つの改造というのは、銃身の内部に刻まれたこれのことだな?」
銃口から内部を覗き込みながらルイスがそう尋ねると、それを考え出した別の職人が答えた。
「はい、そうです」
職人は説明した。
「円柱型の弾を発射するにあたり、従来の銃身では弾道が安定しないという問題が明らかになりました」
既に報告書で知っていたが、ルイスは頷きを返した。
職人は説明を続けた。
「投石器で細長い石を投げた時と同じことが起きるのです。空中で弾が縦や横に回転してしまうのです」
発射された物体は重心を中心に回転し、その回転によって空中でカーブする。無回転の弾を安定して投げ続けるのは難しく、ゆえに弾は丸型が好まれてきた。
ならばどうすればいいのか、職人は答えた。
「しかしこれを解決する知恵は既に存在していました。弓矢です」
職人は両手の指で矢の形を描きながら説明した。
「矢は末端に羽をつけていますが、これは矢を空中できりもみ回転させるためです。その回転によって弾道が安定します。なので私は銃の弾丸にも同じ回転を加えればいいのではないかと考え、その改造を思いついたのです」
その言葉に、ルイスは再び銃口を覗き込んだ。
銃口の内部には螺旋状の溝が何本も並んで掘られていた。
しかし問題が一つある。ルイスはすぐに気づいた。
どうやって弾丸にこの溝をなぞらせるかだ。
だが、職人はその疑問を抱かれることは予想済みであったらしく、ルイスが尋ねるよりも早く答えた。
「その溝を弾丸になぞらせるために、円柱の直径を銃身よりもわずかに大きくします。金属製の円柱は圧縮されながら発射されることになり、溝に食い込むことになります」
金属の質が安定していない現状では圧縮速度に差が生じる。加わる回転にもばらつきが生じるだろう、ルイスはそう思ったがそれは声には出さなかった。
このアイディアがお手軽に採用できてしかも有効であることは明らかだったからだ。
だからルイスは次のように声を上げた。
「このアイディアは即採用だ。すぐに書簡を飛ばしてくれ」
では他のアイディアは不採用? 別の職人はルイスに尋ねようとしたが、それよりも早くルイスは再び口を開いた。
「点火についてのアイディアはまだ保留ということにしておいてくれ。まだ不採用かどうかは決められない」
それはなぜか? その答えをルイスは足元に置いていたあの麻袋をテーブルの上に乗せながら述べた。
「これを使ってちょっと試したいことがある」
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