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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第八話 もっと力を(16)
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◆◆◆
しかし翌日の早朝、デュランは逆に長に呼ばれた。
デュランだけでは無い。フレディもだ。
なんで自分まで――フレディが抱いた疑問に対して答えとなりうる可能性は一つだけだった。
そして長の家に入った瞬間、フレディはその可能性が当たりであると確信した。
長の家の中には、武装した男達が左右に立ち並んでいた。
中央にいる長は想像した通りの老人。
しかしフレディはそれよりも長の隣に立つ若者のことが気になった。
自分のことを凝視しているからだ。
しかもフレディにはその若者が何を考えているのか読み取れなかった。
だが、予想はついた。
おそらく、こいつだと。
昨夜のデュランとのナイショ話をこいつに聞かれたのだと。だから自分まで一緒に呼ばれたのだと。
それは正解だった。
だから、
「その通りだ」
と、その若者は同じ言葉で答えた。
突然のことに少し動揺するフレディに、長老が説明した。
「わたしが教えた。読み書きはできんが、喋ることは出来る」
どうして――フレディが直後に抱いたその疑問にも、長は答えた。
「負けたやつが奴隷にされて同じ言葉を学ばされる、そんなのは珍しい話では無いだろう?」
たしかに、珍しい話では無かった。
しかしそれでは自分が呼ばれたことの説明にはならない。
それについても長老は直後に口を開いた。
「実は昨夜、お前達のヒソヒソ話が耳に入ってしまってな。だからお前達をここに呼んだというわけだ」
耳に入った、というのは正確では無かったが、いまはそれよりも話すべきことがあった。
だから長老は本題に入った。
「お前達が飢えていることは理解している。それが原因で問題が起きる可能性があることもな……そこで、相談がある」
相談、その言葉は長老が考えていることを表現するには正確な言葉では無いことをフレディは感じ取った。
正しくは――
「取引をしよう。『その武器』と食料の交換、という形でな」
商談だ。
そして長老の視線はフレディの腰からぶら下がっているものに向けられていた。
だからフレディは口を開いた。
「その武器ってのは、この銃のことか?」
ものわかりがよくて助かる。長老はそんな思いを含んだ笑みを見せながら口を開いた。
「それは銃というのか。それで魔王の城を一夜だけとはいえ奪ったのか」
そこまで知ってるのかと、フレディはさすがに驚いた。
そしてまだ聞きたいことがあった長老は再び口を開いた。
「しかしお前達がここまで逃げてきたということは、結果的には返り討ちにあったということか?」
これにフレディは即座に反論した。
「いいや、それは違う。魔王とかいうクソジジイは倒した。だが、直後に別のやつらから奇襲を受けたんだ」
これに、長老は意見をあおぐように、隣の若者のほうに視線を向けた。
若者は答えた。
「※※※※」
理解出来ない言語による返事であったが、フレディは脳波から読み取った。
「ウソ」「では無い」「そう感じる」、という三つの脳波が感じ取れた。
とりあえず、状況が悪くなるようなことは言われていないようだ。
そのことにフレディが安堵すると、長老は口を開いた。
「ふむ、では……その銃二十に対して羊二頭でどうだ?」
それはフレディの常識からすればとんでもない言葉だった。
銃一丁につき一人の年収に相当する価値がある。
完全に足元を見られている。
「……」
だからフレディは即答出来なかった。
しかし羊二頭あればそれだけでしばらく食いつなげる。この窮地を切り抜けられるだろう。
その思いがフレディに口を開かせた。
「ダメだ。四頭だ。この武器はそんな安物じゃない」
しかしその口から出た言葉にはやはり抵抗心が含まれていた。
直後、
「※※※※」
若者が「これもウソでは無い」と付け加えた。
「……ふうむ」
長老は少し考えたあと、
「……では、三頭だ」
あいだを取った。
この時、フレディは感じ取った。
もう少し踏み込める、と。相手の心にまだ少し余裕があることを。
だからフレディは、
「こっちには酷い怪我人がいる。そいつらを数日屋根の下で寝かせたい。それと羊三頭、これでお願いできないか」
サイラスのために踏み込んだ。
が、直後、
「※※※※※※※、※※※※※※※※※」
若者が少し長い言葉を長老の耳に吹き込んだ。
「こいつは感知能力者で、こちらの心をのぞき見ながら交渉している」、そう言っているようであった。
たしかにそれはその通りだが、酷い怪我人がいるのは本当だ。そいつらのために屋根を用意したいという気持ちも本当だ。
「……」
だからフレディは言い直すことはしなかった。
そしてしばらくして、長老は答えた。
「……いいだろう。それで交渉成立としてやろう」
しかし翌日の早朝、デュランは逆に長に呼ばれた。
デュランだけでは無い。フレディもだ。
なんで自分まで――フレディが抱いた疑問に対して答えとなりうる可能性は一つだけだった。
そして長の家に入った瞬間、フレディはその可能性が当たりであると確信した。
長の家の中には、武装した男達が左右に立ち並んでいた。
中央にいる長は想像した通りの老人。
しかしフレディはそれよりも長の隣に立つ若者のことが気になった。
自分のことを凝視しているからだ。
しかもフレディにはその若者が何を考えているのか読み取れなかった。
だが、予想はついた。
おそらく、こいつだと。
昨夜のデュランとのナイショ話をこいつに聞かれたのだと。だから自分まで一緒に呼ばれたのだと。
それは正解だった。
だから、
「その通りだ」
と、その若者は同じ言葉で答えた。
突然のことに少し動揺するフレディに、長老が説明した。
「わたしが教えた。読み書きはできんが、喋ることは出来る」
どうして――フレディが直後に抱いたその疑問にも、長は答えた。
「負けたやつが奴隷にされて同じ言葉を学ばされる、そんなのは珍しい話では無いだろう?」
たしかに、珍しい話では無かった。
しかしそれでは自分が呼ばれたことの説明にはならない。
それについても長老は直後に口を開いた。
「実は昨夜、お前達のヒソヒソ話が耳に入ってしまってな。だからお前達をここに呼んだというわけだ」
耳に入った、というのは正確では無かったが、いまはそれよりも話すべきことがあった。
だから長老は本題に入った。
「お前達が飢えていることは理解している。それが原因で問題が起きる可能性があることもな……そこで、相談がある」
相談、その言葉は長老が考えていることを表現するには正確な言葉では無いことをフレディは感じ取った。
正しくは――
「取引をしよう。『その武器』と食料の交換、という形でな」
商談だ。
そして長老の視線はフレディの腰からぶら下がっているものに向けられていた。
だからフレディは口を開いた。
「その武器ってのは、この銃のことか?」
ものわかりがよくて助かる。長老はそんな思いを含んだ笑みを見せながら口を開いた。
「それは銃というのか。それで魔王の城を一夜だけとはいえ奪ったのか」
そこまで知ってるのかと、フレディはさすがに驚いた。
そしてまだ聞きたいことがあった長老は再び口を開いた。
「しかしお前達がここまで逃げてきたということは、結果的には返り討ちにあったということか?」
これにフレディは即座に反論した。
「いいや、それは違う。魔王とかいうクソジジイは倒した。だが、直後に別のやつらから奇襲を受けたんだ」
これに、長老は意見をあおぐように、隣の若者のほうに視線を向けた。
若者は答えた。
「※※※※」
理解出来ない言語による返事であったが、フレディは脳波から読み取った。
「ウソ」「では無い」「そう感じる」、という三つの脳波が感じ取れた。
とりあえず、状況が悪くなるようなことは言われていないようだ。
そのことにフレディが安堵すると、長老は口を開いた。
「ふむ、では……その銃二十に対して羊二頭でどうだ?」
それはフレディの常識からすればとんでもない言葉だった。
銃一丁につき一人の年収に相当する価値がある。
完全に足元を見られている。
「……」
だからフレディは即答出来なかった。
しかし羊二頭あればそれだけでしばらく食いつなげる。この窮地を切り抜けられるだろう。
その思いがフレディに口を開かせた。
「ダメだ。四頭だ。この武器はそんな安物じゃない」
しかしその口から出た言葉にはやはり抵抗心が含まれていた。
直後、
「※※※※」
若者が「これもウソでは無い」と付け加えた。
「……ふうむ」
長老は少し考えたあと、
「……では、三頭だ」
あいだを取った。
この時、フレディは感じ取った。
もう少し踏み込める、と。相手の心にまだ少し余裕があることを。
だからフレディは、
「こっちには酷い怪我人がいる。そいつらを数日屋根の下で寝かせたい。それと羊三頭、これでお願いできないか」
サイラスのために踏み込んだ。
が、直後、
「※※※※※※※、※※※※※※※※※」
若者が少し長い言葉を長老の耳に吹き込んだ。
「こいつは感知能力者で、こちらの心をのぞき見ながら交渉している」、そう言っているようであった。
たしかにそれはその通りだが、酷い怪我人がいるのは本当だ。そいつらのために屋根を用意したいという気持ちも本当だ。
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