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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第八話 もっと力を(15)
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◆◆◆
だが、長への面会が許されたのはデュランだけだった。
「「「……」」」
フレディ達は集落に入ってすぐのところで待たされていた。
しばらくして、戻ってきたデュランにフレディは尋ねた。
「ここの大将はなんて?」
デュランは答えた。
家の提供は出来ない。食事は一回だけ。
だが、大人しくしているのであれば、しばらくはいてもいい。
たったそれだけだった。
たったこれだけのことに話が長くなったのは、デュランが食い下がったからだ。
しかし待遇は変わらなかった。
それを聞いたフレディは確認するようにデュランに聞き返した。
「つまり、この部族の集落にまぎれて敵をやり過ごすのは許してくれるということだな?」
これにデュランが頷きを返すと、フレディは薄い笑みを浮かべて再び口を開いた。
「それで十分。こんな小さな集落で屋根にありつこうなんて、最初から期待しちゃいないさ」
フレディのその言葉は強がりであった。
しかしこれ以上の援助が期待できない以上、やるべきことは決まっていた。
フレディはわざと力強くそれを声に出した。
「よし、野郎ども! 野営の準備だ!」
◆◆◆
その夜――
フレディは火の番をするデュランの隣に座った。
話をするためだ。
だが先に口を開いたのはデュランのほうだった。
「サイラスの様子は?」
フレディはごまかさずに答えた。
「まだ熱がある。だけど少しだけだ。だから大丈夫だろう」
ただの経験則による主観だが、少しという部分も正直な答えだった。
それを感じ取ったデュランが「そうか」と安堵の表情を見せると、フレディは聞きたかったことを尋ねた。
「で、ここの集落の人達と旦那はどういう関係なんで?」
「……」
デュランは即答しなかった。
どう言えば簡単に伝わるのか、それがすぐに思い浮かばなかったからだ。
だからフレディは重ねて尋ねた。
「同じ言葉をしゃべってたが、出身が近いとかそんな感じかい?」
「……」
これにデュランは肯定も否定も返さなかった。
わからないし、そもそも答える意味が薄いからだ。
そしてしばらくして、デュランはようやく口を開いた。
しかし結局、デュランは簡単な説明のしかたを思いついてはいなかった。
だから最初から説明することにした。
「俺はこのあたりの生まれじゃない。はるか南の海岸沿いの森林地帯、こことは真逆の年中熱い場所の出身だ」
かなり遠いところからきたんだな、フレディはそんな単純な感想しか抱かなかった。そしてそれについてそれ以上詮索しようともしなかった。
奴隷や捕虜としてつれてこられた可能性が高いからだ。でなければそんな長距離の移動なんて普通はしないからだ。
だが、違う部分ではフレディは興味を惹かれた。
デュランが同じ言葉を話せる理由がますます知りたくなった。
だから尋ねた。
「そんな遠い出身の旦那が話せるってことは、その言葉はこの大陸の共通言語なのかい?」
とてもそうは思えないが、という言葉をフレディは飲み込んだ。感知能力者であるデュランに対してはそれだけでは意味の無い行動だが。
そしてこの質問の答えこそ、まさにデュランが言いたいことであった。
だからデュランは即答した。
「昔はそうだった」
しかしいまは違う。デュランはその理由を語り始めた。
「はるか昔……今のような魔法使い達が支配する街が作られるよりも前のことだ。その頃は俺の祖先にあたる原住民達が暮らしていた。原住民達の多くは遊牧民であり、草地を求めて大陸中を移動しつづけていたそうだ」
「だから各地に同じ言葉を使う連中がちらばってるのか」
フレディの言葉にデュランは頷きを返したあと、話を再開した。
「旅を繰り返した結果、俺の祖先達はあちこちに散らばった。その旅路の果てに落ち着ける場所を見つけ、そこに定住した者達もいた。そこに外から魔法使い達がやってきた」
おそらくデュランは定住した連中の子孫なのだろう、フレディはそう思ったが、あえて聞くことはせず、デュランの言葉に耳を傾け続けた。
「魔法使い達が住み着いてもしばらくは平穏だった。だが、その平穏は魔王と呼ばれる者が誕生したことで失われてしまった」
その魔王軍が大陸の端から端まで支配していたことを考えるに、どうなったかは簡単に想像できた。
そしてその想像は正解だった。
だからデュランは、
「……あとは言うまでも無いだろう。お前の想像どおりだ」
楽しくない話を打ち切った。
フレディの想像の中では部族達が魔王軍の侵略に抵抗するシーンがあった。
それが正解ということ、それはデュランがいまここにいる理由と繋がった。
だからフレディは、
「そうか。お前もいろいろ大変だったんだな。だから俺達の戦いに参加したってわけか」
同じ戦士としてなぐさめの言葉をかけた。
しかしフレディにはもう一つ聞きたいことがあった。
それは重要なことであったため、フレディは即座に口を開き直した。
「旦那とここの連中のことは分かった。だが、もう一つ大事なことがある。食料のことだ」
そう言ったあと、フレディはデュランに密着するように近づいた。
ひそひそ話をするためだ。
「ここの連中は俺達を食わしてはくれない。そして手持ちの食料は残り少ない。なんとかしないとマズいことになるぞ」
マズいこと、その小声の中に含まれたフレディのイメージをデュランは読み取った。
それは略奪の光景であった。
飢えに耐えかねた仲間達がこの集落を襲うイメージであった。
いまは比較的安全な隠れ場所を得られたことで落ち着いているが、空腹による問題はいずれ限界を迎える。それが最悪な形で行動に移される可能性はある。
それを避けるためにはなんとかしなくてはならない。
だからデュランは口を開いた。
「あしたもう一度この集落の長にかけあってみる」
だが、長への面会が許されたのはデュランだけだった。
「「「……」」」
フレディ達は集落に入ってすぐのところで待たされていた。
しばらくして、戻ってきたデュランにフレディは尋ねた。
「ここの大将はなんて?」
デュランは答えた。
家の提供は出来ない。食事は一回だけ。
だが、大人しくしているのであれば、しばらくはいてもいい。
たったそれだけだった。
たったこれだけのことに話が長くなったのは、デュランが食い下がったからだ。
しかし待遇は変わらなかった。
それを聞いたフレディは確認するようにデュランに聞き返した。
「つまり、この部族の集落にまぎれて敵をやり過ごすのは許してくれるということだな?」
これにデュランが頷きを返すと、フレディは薄い笑みを浮かべて再び口を開いた。
「それで十分。こんな小さな集落で屋根にありつこうなんて、最初から期待しちゃいないさ」
フレディのその言葉は強がりであった。
しかしこれ以上の援助が期待できない以上、やるべきことは決まっていた。
フレディはわざと力強くそれを声に出した。
「よし、野郎ども! 野営の準備だ!」
◆◆◆
その夜――
フレディは火の番をするデュランの隣に座った。
話をするためだ。
だが先に口を開いたのはデュランのほうだった。
「サイラスの様子は?」
フレディはごまかさずに答えた。
「まだ熱がある。だけど少しだけだ。だから大丈夫だろう」
ただの経験則による主観だが、少しという部分も正直な答えだった。
それを感じ取ったデュランが「そうか」と安堵の表情を見せると、フレディは聞きたかったことを尋ねた。
「で、ここの集落の人達と旦那はどういう関係なんで?」
「……」
デュランは即答しなかった。
どう言えば簡単に伝わるのか、それがすぐに思い浮かばなかったからだ。
だからフレディは重ねて尋ねた。
「同じ言葉をしゃべってたが、出身が近いとかそんな感じかい?」
「……」
これにデュランは肯定も否定も返さなかった。
わからないし、そもそも答える意味が薄いからだ。
そしてしばらくして、デュランはようやく口を開いた。
しかし結局、デュランは簡単な説明のしかたを思いついてはいなかった。
だから最初から説明することにした。
「俺はこのあたりの生まれじゃない。はるか南の海岸沿いの森林地帯、こことは真逆の年中熱い場所の出身だ」
かなり遠いところからきたんだな、フレディはそんな単純な感想しか抱かなかった。そしてそれについてそれ以上詮索しようともしなかった。
奴隷や捕虜としてつれてこられた可能性が高いからだ。でなければそんな長距離の移動なんて普通はしないからだ。
だが、違う部分ではフレディは興味を惹かれた。
デュランが同じ言葉を話せる理由がますます知りたくなった。
だから尋ねた。
「そんな遠い出身の旦那が話せるってことは、その言葉はこの大陸の共通言語なのかい?」
とてもそうは思えないが、という言葉をフレディは飲み込んだ。感知能力者であるデュランに対してはそれだけでは意味の無い行動だが。
そしてこの質問の答えこそ、まさにデュランが言いたいことであった。
だからデュランは即答した。
「昔はそうだった」
しかしいまは違う。デュランはその理由を語り始めた。
「はるか昔……今のような魔法使い達が支配する街が作られるよりも前のことだ。その頃は俺の祖先にあたる原住民達が暮らしていた。原住民達の多くは遊牧民であり、草地を求めて大陸中を移動しつづけていたそうだ」
「だから各地に同じ言葉を使う連中がちらばってるのか」
フレディの言葉にデュランは頷きを返したあと、話を再開した。
「旅を繰り返した結果、俺の祖先達はあちこちに散らばった。その旅路の果てに落ち着ける場所を見つけ、そこに定住した者達もいた。そこに外から魔法使い達がやってきた」
おそらくデュランは定住した連中の子孫なのだろう、フレディはそう思ったが、あえて聞くことはせず、デュランの言葉に耳を傾け続けた。
「魔法使い達が住み着いてもしばらくは平穏だった。だが、その平穏は魔王と呼ばれる者が誕生したことで失われてしまった」
その魔王軍が大陸の端から端まで支配していたことを考えるに、どうなったかは簡単に想像できた。
そしてその想像は正解だった。
だからデュランは、
「……あとは言うまでも無いだろう。お前の想像どおりだ」
楽しくない話を打ち切った。
フレディの想像の中では部族達が魔王軍の侵略に抵抗するシーンがあった。
それが正解ということ、それはデュランがいまここにいる理由と繋がった。
だからフレディは、
「そうか。お前もいろいろ大変だったんだな。だから俺達の戦いに参加したってわけか」
同じ戦士としてなぐさめの言葉をかけた。
しかしフレディにはもう一つ聞きたいことがあった。
それは重要なことであったため、フレディは即座に口を開き直した。
「旦那とここの連中のことは分かった。だが、もう一つ大事なことがある。食料のことだ」
そう言ったあと、フレディはデュランに密着するように近づいた。
ひそひそ話をするためだ。
「ここの連中は俺達を食わしてはくれない。そして手持ちの食料は残り少ない。なんとかしないとマズいことになるぞ」
マズいこと、その小声の中に含まれたフレディのイメージをデュランは読み取った。
それは略奪の光景であった。
飢えに耐えかねた仲間達がこの集落を襲うイメージであった。
いまは比較的安全な隠れ場所を得られたことで落ち着いているが、空腹による問題はいずれ限界を迎える。それが最悪な形で行動に移される可能性はある。
それを避けるためにはなんとかしなくてはならない。
だからデュランは口を開いた。
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